公務員試験では、多くの場合、教養試験(基礎能力試験)の科目の一つとして数的処理が出題されます。数的処理は次の3つの分野に細分化できます。
- 判断推理:「対応関係」「論理」「暗号」等の、判断力や推察力を問う問題
- 数的推理:「確率」「方程式」「整数」等の、計算力を問う問題
- 資料解釈:資料を基に、統計的な読解力や計算力を問う問題
特に出題数が多いのは判断推理と数的推理です。いずれも予備校での学習や、参考書(「スー過去」や「解きまくり」)を用いた独学で対策をしておくことが必要です。この記事で扱うのは、このうち数的推理の中でも特に頻出である「速さ」の問題です。
数的推理は伸びにくい科目
そもそも、数的推理や判断推理は、公務員試験の中でも伸びにくい科目です。時間をかけたからといって、確実なリターンを得られるわけではありません。
このサイトでは繰り返しお伝えしているように、数的処理でそこそこの点数を取った上で、法学系科目や経済系科目、そのほかの学系科目で差をつけることが合格への近道といえます。したがって、「そこそこの点数」を楽して取るという戦術、すなわち取捨選択が重要になるというわけです。
幸い、数的推理は出題されやすい分野とそうでない分野、コストパフォーマンスの高い分野とそうでない分野があります。このサイトでは、特に頻出な分野として、「速さ」と「濃度」を取り上げています。
この記事では頻出の分野として「速さ」について取り上げますが、コストパフォーマンスの高い分野として「濃度」についても解法等をまとめていますので、よろしければ以下の記事をご覧ください。

他に頻出な分野として「確率」と「場合の数」と「最小公倍数」等がありますが、一般的な数学の勉強で足りるものであり、本サイトで特に有益な解法等を示せるわけではないため、この記事では取り上げておりません。
「速さ」の数的推理の問題のポイント
「速さ」の問題は、国家総合職、国家一般職、地方上級、東京都、特別区、市役所等、ありとあらゆる公務員試験で頻出です。複数の試験種を受験する場合は、まず間違いなく一度以上は実戦で出会うことになるので、以下のポイントを必ず押さえておきたいです。
ポイント1:速さの基本公式
まず、念のためですが、小学校の算数で習っているはずの、速さの基本公式を掲示しておきます。いわゆる「はじき」の公式ですね。
- 速さ=距離÷時間
- 時間=距離÷時間
- 距離=速さ×時間
ポイント2:旅人算の公式
公務員試験の速さの問題でよく問われるものとして「旅人算」があります。これは、速さの異なる二人について、速さ、時間、距離を求めるものです。「Aさんが出発したあと、5分遅れてBさんが出発した。Bさんは出発地から〇kmのところでAさんに追いついた」といったような問題です。
このように、速さの異なる二人が問題に出てきた場合、以下の二つのいずれかの公式が使える場合が多いです。
- Aと同じ方向に進むBがいる場合のAとBの間の距離:
(Aの速さーBの速さ)×移動時間 - AとBが引き合うように(逆の方向に)進み合う場合のAとBの間の距離:
(Aの速さ+Bの速さ)×移動時間
いずれも公務員試験の速さの問題ではかなり重要です。また、AとBが人ではないというパターンも多く出題されます。たとえば、AとBが列車で、すれ違うまでの時間を求めるような問題も頻出ですが、本質は同じなので以上の式を用いれば解答に辿りつけることが多いです。
例題
続いて、例題を二つ紹介します。
例題1:旅人算の問題
まずは、典型的な旅人算の良問です。実際に特別区Ⅰ類で出題された問題ですが、多くの試験種で頻出のパターンです。解法は筆者のオリジナルです。
a、bの2台の自動車が、1周5kmのコースを同一の地点から同じ向きに同時に走り出すとaは15分ごとにbを追い越し、逆向きに同時に走り出すとaとbは3分ごとにすれ違う。このとき、aの速さはどれか。
- 0.8km/分
- 0.9km/分
- 1.0km/分
- 1.1km/分
- 1.2km/分
このような旅人算の問題が出てきた瞬間に、上掲の公式のいずれかを使うんだなというイメージを持っていただければベストです。
旅人算の公式として2つを紹介しましたが、今回使うのはどちらのパターンでしょうか。設問を見ると、aとbが「同じ向きに同時に走り出す」とあり、「逆向きに同時に走り出す」ともあるため、2つの両方を用いることができるということが分かります。
旅人算の2つの公式を用いればよいという方針が分かりましたが、公式を用いようにも、設問を見ると具体的なaとbの速さが与えられていないため、ここで、aの速さをA、bの速さをBと置くこととします。そうすると、旅人算の2つの公式から、このコースの距離(5km)を次のように表現できます。なお、設問に合わせ、時間の単位は「分」とします。
- コースの距離を、aとbが同方向に走る場合で表現する式:
5=(aの速さ-bの速さ)×移動時間
5=(A-B)×15
5=15A-15B …… ① - コースの距離を、aとbが逆方向に走る場合で表現する式:
5=(aの速さ+bの速さ)×移動時間
5=(A+B)×3
5=3A+3B …… ②
これで2文字・2式が完成したため、あとは簡単です。①と②を連立させるなり、①を②に代入させるなどすると、「A=1」と得られるため、aの速さは分速1kmだと分かります。
答えは「3:1.0km/分」です。
例題2:登場人物が3名の問題
もう一つ、次の例題とその解法をご覧ください。実際に地方上級で出題された問題です。こちらも解法は筆者のオリジナルです。
湖を1周する道路を、A、B、Cの3人が、Aは自転車で、Bは走って、Cはオートバイで1周した。B、Cのそれぞれの時速をAと比べると、BはAより6km遅く、CはAより12km速かった。所要時間はBはAより30分長く、CはAより30分短かった。このとき、Aの所要時間はいくらか。
- 1時間10分
- 1時間20分
- 1時間30分
- 1時間40分
- 1時間50分
基本公式を使って方程式を作っていくことで、解に辿りつくという方針は先ほどと同じです。問題に出てくる登場人物は二人であることが多いので、2文字を使って2式を作り、連立させることで解を導くような問題が多いです。一方、本問の特徴は、登場する人物が3人いるということです。この時点で、「3文字・3式を使って解くのかな」と想像できます。
そこで、とりあえずAの速さをx(km/h)、Aの所要時間をy(時間)、Aの移動距離をz(km)と置きます。
(補足)
(例えば、「距離=速さ×時間」であるため、Aの移動距離zはxyとも表すこともできます。このようにすれば2文字で足りるのですが、このように登場人物が3人居るときは、このように3文字を使ってしまった方が手っ取り早いことも多いです。)
続いて、Bについて見ていきます。「BはAより6km遅く」という設問の記述から、Bの速さはx-6(km)と表せます。また、「所要時間はBはAより30分長く」という設問の記述から、Bの所要時間はy+0.5(時間)と表せます。また、Bを含む3人の移動距離はすべて等しいため、Bの移動距離はAと同じくz(km)です。
同様に、Cの速さはx+12(km)、Cの所要時間はy-0.5(時間)、Cの移動距離はzと表せます。
ここまでを整理すると、以下の表のとおりとなります。
登場人物 | 速さ(km/h) | 時間(時間) | 距離(km) |
A | x | y | z |
B | x-6 | y+0.5 | z |
C | x+12 | y-0.5 | z |
ここまで整理できたら、あとは簡単です。今回は文字を3つ使ったため、何でもいいので3つの式を立式すれば、x、y、zの値を求めることができます。やり方は無数にありますが、今回は、「距離=速さ×時間」の基本公式を使って、A、B、Cのそれぞれの移動距離について以下のとおり立式することとします。
- Aの移動距離:z=xy
- Bの移動距離:z=(x-6)(y+0.5)
- Cの移動距離:z=(x+12)(y-0.5)
あとは、この3つの式について、連立方程式にするなり、代入するなりすれば値を求められます。念のため導出過程を書くと以下のようになります。
以上の3式について、すべて展開すると以下のとおりとなる。
- Aの移動距離:z=xy …… ①
- Bの移動距離:z=xy+0.5x-6y-3 …… ②
- Cの移動距離:z=xy-0.5x+12y-6 …… ③
ここで、①を②に代入すると、以下のとおりとなる。
xy=xy+0.5x-6y-3
0.5x=6y+3 …… ④
さらに、①を③に代入すると、以下のとおりとなる。
xy=xy-0.5x+12y-6
0.5x=12y-6 …… ⑤
④を⑤に代入すると、以下のとおりとなる。
6y+3=12y-6
-6y=-9
6y=9
y=1.5
以上から、Aの所要時間は1.5時間、すなわち1時間30分だと分かります。
答えは「3:1時間30分」です。
学習にあたっては予備校の活用するか、参考書で独学するか
いかがでしたでしょうか。速さの例題として2つを紹介しましたが、実際には、これら以外の出題パターンのものも多く見受けられます。
本サイトでは数的処理に大きく時間をかけすぎる必要はないという立場をとっておりますが、多少の対策は必要です。数的処理の対策にあたっては、予備校を活用することがおすすめです。あるいは、独学の場合は、参考書(「スー過去」や「解きまくり」)を使って頻出分野だけでも主な解法を押さえておくことが重要です。