国家総合職試験が難関であるとされる所以の一つは、官庁訪問の存在にあります。試験の最終合格までが一つの難関ではありますが、それを乗り越えても、その先の官庁訪問で採用されなければ元も子もありません。
国家総合職の官庁訪問は、官庁側、受験生側ともに熱量が高いです。実際に、自分の言葉ではありませんが、「どこか甲子園のよう」と例えられることもあります。官庁訪問は、フルに参加すれば約2週間を要します。内定を得るために、最小でも4日間は終日で拘束されることになります。体力的にも内容的にもハードですので、必ず十分な対策をして臨むべきです。
この記事では、元国家公務員(総合職)の筆者が、国家総合職の官庁訪問について、事前に対策しておくべきことと、官庁訪問期間中にすべきことをいくつか紹介します。
事前対策① 志望官庁の選択と行程決め
まずは、志望官庁の選択と、さらに、地方から参加する方は行程を確定しておく必要があります。
国家総合職の官庁訪問は、官庁によっても異なりますが、対面とオンラインを併用しているところが多いです。ただ、いずれにせよ2クール目や3クール目からは対面一本に絞るというところが多いので、金銭的に可能であれば、1クール目の初日から上京して、対面で臨むことをおすすめします。ただ、志望官庁との兼ね合いでは、たとえば「1クールの3日間はオンラインで、その後は上京して参加」といったようなことも可能です。ホテルは霞が関駅周辺には乏しいため、電車での移動が生じることが予想されますが、なるべく移動時間を抑えられるよう、志望官庁が確定した段階で、すぐに近隣のホテルの予約を進めることが望ましいです。
また、ホテルの予約にあたっては、基本的には霞が関駅へのアクセスが良好な場所にあるホテルを選べば良いということになります。ただし、省庁によっては霞が関に所在していないところや、最寄り駅が虎ノ門駅であったり、桜田門駅からもアクセスできたりするところもありますので、事前に位置関係を調べておくことをおすすめします。
安いホテルに泊まることにしたとしても、学生の方にとって、金銭的に大きな負担になります。交通費と合わせると10万円程度の出費になるのではないでしょうか。これが地方から人材を集めづらい要因の一つになっていると思います。
事前対策② 想定質問・回答の作成
続いて、筆者がおすすめするのは、官庁訪問までに想定質問とその回答(いわゆるQ&A)を作成しておくことです。官庁訪問当日の質問は、基本的に、事前提出したエントリーシートに沿って行われることが多いです。裏を返せば、エントリーシートを基に、ある程度どのような質問を受けるか予想できるということですので、それに基づいて回答を準備しておくことが望ましいのです。
「事前にセコセコと準備するのはズルい」「それで受かっても実力によるものではない」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、公務員になってからも、国会議員からの質問に対応するための原稿を作ったり、想定問答を作ったりといったことは日常的に行われます。むしろ、官庁訪問とは、その準備力も包含して適切に応答ができるかについて選考が行われるものとも捉えることができます。
私の場合は、ワードでひたすら想定質問とその回答を作成していき、気づけば文字数は三万字を超えていました。
いくつか例を出してみます。たとえば、「大学で労働法を専攻しており、労働法のゼミでもゼミ長として研究を牽引してきた。今後も、日本の労働者の労働環境の改善に携わりたいと考えたため厚生労働省を志望した。」といった志望動機を立てた場合を仮定します。この場合に面接官から受け得る質問として、以下のものが挙げられます。
- 労働法を専攻にしたきっかけはあったのか?
- そのゼミに入ったのはなぜか?
- (さらに)そう考えた理由は?
- 本省に入った場合、労働だけでなく厚生関係の部署や出向を経験することにもなるが、それについてはどう考えるか?
- 国家一般職で労働局に採用されたり、労働基準監督官になったりした場合はずっと労働行政に携わり続けることができるが、特に厚生労働本省を志望する理由は何か?
もう一つの例です。英語が得意な受験生で、エントリーシートに「TOEIC公開テスト 870点」と記載した場合を仮定します。この場合に面接官から受け得る質問として、以下のものが挙げられます。
- 英語はもともと得意だったのか?
- 勉強期間はどれくらいだったのか?
- どのように勉強したのか?
- そのスキルを本省(本庁等)において活かせる場面はあるか?
- (ドメスティックな官庁を志望した場合)そんなに英語が出来るのに外務省等に行かなかったのはなぜ?
- 外資系民間企業等ではなく、本省(本庁等)を志望したのはなぜ?
このように目立つ成績や資格がある場合には、そこについて深堀りされる可能性が高いため、翻っていえば、ある程度準備をしやすいという戦略的利点もあります。(もちろん、実際には内定を得るために上記のようなTOEICのハイスコアはまったく必要ありません。)
ただし、この想定問答集は、作成することには大きな意味がありますが、これを丸暗記する必要はありません。あくまで自身の思考を整理するための材料にすぎないものとして留めるべきです。たとえば回答を一字一句暗記した上で面接に臨む必要などはありません。むしろ、面接の場所では自分自身の言葉で思考を伝えることが重要です。
そして、実際には面接官からイレギュラーな質問を受けることもあるので、全てを網羅することは不可能です。「無茶ブリ」への対応力を見ようとする面接官もいるからです(特に原課面接に多い印象です。)。たとえば、以下は私が官庁訪問中に実際に面接官から頂いた質問です。
- それでは、残りの15分間は、逆に私(面接官)に質問してください。
- これまでのあなたの私(面接官)に対する質問は、どのような意図に基づいたものですか?
- (マイナンバーとは関係のない省庁で、)あなたがマイナンバー制度の担当者だとして、これからどんな法案を作る?その法案を通すためにはどうしたらいいと思う?
もちろん、面接官側も「無茶ブリ」であることを分かって質問していますので、完璧に内容を答えられる必要はありません。むしろ、慌てふためいたり、取り乱したりしないかといった所を試されているはずです。
当日対策① 官庁訪問ノートを作る
官庁訪問期間中に、必ず行うべきことがあります。それは、「官庁訪問ノート」を作るということです。官庁訪問は、終日かけて行われます。最近は改善されてきていますが、基本的には定時を過ぎ、夜遅くまで行われることが多いです。しかし、実際のところは、一日の中で、面接をしている時間よりも待ち時間の方が圧倒的に長いです。一つの待機部屋に案内され、一人ずつ順番に面接に呼ばれるのを繰り返すようなイメージです。
さて、この待ち時間を有効に使わない手はありませんので、一つの面接が終わったのち、当該面接における以下のような情報を記録しておきましょう。
- 面接官の名前
- 面接官の役職(係長、課長補佐、室長……)
- 面接官の部署(原課面接か人事面接か)
- 面接官の経歴(課歴、出向歴等)
- 質問内容と、それに対する自身の受け答え
官庁訪問は基本的に1対1で行われ、面接官と受験生の距離が近いため、雰囲気によっては、話しながらメモを取ることも可能です(特に原課面接)。面接官に対して、「メモを取ってもいいですか?」と許可を取った上でメモを取りながら話を聞くことは全く失礼ではありませんし、むしろ熱心さを評価してもらえる場合もあります。
官庁訪問期間中、内々定を得るまでに多数の面接を経ることになります。繰り返される面接の中で、これまでの面接においてどのような話をしてきたかなどは、話のネタになりますので、是非覚えておきたいところです。
また、それぞれの面接官は、ざっくりとではありますが、情報を共有していると思っていた方がよいです。たとえば、六人目の面接官に対するこちらの回答について、七人目の面接官から更問いがあるということもあり得ますので、そういった理由からも、自分の発言の主旨は記録しておくことが望ましいです。
特に、複数の官庁を回る場合、他の官庁において自分がした発言と交絡してしまう(自分が何を言ったか忘れてしまう)こともありますので、記録をつけておくことは重要です。
当日対策② 官庁訪問友達を作る
同じく、これは対面形式での官庁訪問に限りますが、待ち時間があり、周りとコミュニケーションを取ることが可能なシチュエーションであれば、積極的に友人をつくることをおすすめします。
官庁訪問は基本的には情報戦です。「あの官庁の面接ではこのようなことを聞かれた」「この官庁は3クールの最後に実質的に内々定者が決まるらしい」といった、リアルタイムな情報を仕入れることができるため、情報をやり取りできる友人が多ければ多いほど有利です。
まとめ
以上です。いかがでしたでしょうか。以下のとおり、事前対策と、官庁訪問当日中の対策をこなすことで、内々定を得られる確率がグッと高くなると考えています。
- 事前対策①:志望官庁の選択と行程決め
- 事前対策②:想定質問・回答の作成
- 当日対策①:官庁訪問ノートを作る
- 当日対策②:官庁訪問友達を作る