これから新しく公務員試験を志す方から、「最もなるのが難しい公務員は何か」「〇〇と△△ではどちらが難しいか」といった質問をよく頂きます。
公務員試験の試験種は多岐に渡り、試験種に応じて出題される科目や、出題形式が異なるため、一概に難易度を比較することは困難です。筆記試験はかなり難しいが面接の倍率は極めて低いもの、見かけ上の倍率は高いが受験者のレベルが高くないものなどさまざまな様相があるため、一律な比較は難しいです。ですが、今回は、敢えて試験種間の難易度を比較してランキングしたらどのようになるかについて検討しました。ランキングの基準は、採用倍率、問題のレベル、受験者のレベル、出題科目数等を加味しています。
- 主な対象は行政系の公務員です。警察、消防、教員系は除いています。
- 主に大卒・院卒程度の公務員試験を想定してランキングを作成しています。
- 最終合格ではなく、採用内定を得ることをゴールとした場合の難易度を比較しています。
- 公務員試験の初学者のかたを主な読者として想定しています。
- あくまで難易度のランキングに過ぎません。
難易度S+
まずは、すべての公務員試験の中でも最上級に難しいと思われるものです。難易度SSには、以下の公務員試験が該当します。
- 国家公務員総合職(財務省、総務省自治、警察庁、特許庁等の人気省庁)
以上です。
国家公務員総合職は、いわゆるキャリア官僚の試験です。国会図書館一般職と異なる点は、政策の企画に携わったり、幹部として公務員をマネジメントする役割が期待されていることです。かつては「国家公務員Ⅰ種」「国家公務員上級甲種」の名称で知られていたものです。国家公務員総合職は、人事院の行う試験に最終合格したのち、官庁訪問に赴いて多数の面接をこなして、ようやく採用内定に漕ぎつけることができます。官庁訪問においては、当然に人気な省庁ほど倍率が高くなります。官庁訪問の倍率は数倍程度のところから、10倍近いところまで様々です。特に人気の高い省庁としては、財務省、総務省(自治)、経済産業省、そして近年になって人気が集中している特許庁等が挙げられます。
国家公務員総合職の筆記試験の倍率は最も難しい大卒法律区分では10倍を超えてくることも多いですが、理系区分では数倍程度に収まることも多いです。実質的に難しいのは官庁訪問の方だといえますので、面接対策が要になります。
国家公務員総合職は昔から難関な試験として有名で、かつては東大・京大出身者が大宗を占めるといったイメージがありましたが、近年はこの傾向がかなり和らいでいます。地方の国公立大や、早慶以外の私立大の出身者もかなり増えてきており、人物重視の採用試験が行われるように変わりつつあります。このことは以下の記事に詳しいです。

難易度S
次いで、難易度Sには以下の国家公務員試験が該当します。主に倍率が数十倍以上になるところです。
- 国家公務員総合職(上掲の人気省庁を除く殆どの省庁)
- 衆議院事務局総合職
- 参議院事務局総合職
- 国立国会図書館総合職
国家公務員総合職のうち、上述した一部の省庁を除いたものをSランクに整理しました。基本的に全ての省庁がここにランクするイメージですが、しいていえば、採用人数の多い国土交通省や厚生労働省等よりも、採用人数を絞っている環境省や文部科学省、昔から人気のある外務省や警察庁等の難易度が高いです。「省」「庁」の名がつかない、内閣府、人事院、会計検査院、公正取引委員会等もこのランクに該当します。省庁の中で官庁訪問の人気が低めとされるところ、たとえば法務省等は迷いましたが、この記事では特出しせずにここに整理することにしました。
なお、国家公務員総合職の府省別の難易度を語る際に「五大省庁」という言葉が用いられることがありますが、最近の霞が関では死語になりつつある概念です。実務でそんなことを意識したことはありません。したがって、この記事ではこの語に基づく整理は行いません。
参議院事務局、衆議院事務局、国立国会図書館の総合職試験は、とにかく最終合格するための倍率が高いです。各HPにおいて公開されているため、すぐに調べることができますが、年度によっては100倍近い倍率が発生していることもあります。国家公務員総合職では、大卒法律区分から採用人数を絞っている省庁に行こうとする場合でなければ最終倍率は100倍近くになることはありませんが、受験者のレベル等を加味してこれらを同じランクに整理しました。
難易度A+
次いで、難易度A+には以下の国家公務員試験が該当します。主に倍率が数十倍程度のところです。
- 衆議院事務局一般職
- 国立国会図書館一般職
- 裁判所事務官総合職
衆議院事務局一般職と国立国会図書館一般職は、上述した総合職の区分ほどではなりませんが、とにかく採用倍率が高いです。いずれも採用者は例年10名程度ですが、数百名程度が押し寄せており、20~40倍程度の最終倍率を覚悟しなければなりません。この理由は、これらの試験種の実施日程にあります。日程的に、国家公務員総合職、国家公務員一般職、地方上級、都庁・特別区等と被りづらいため、いわゆる「全落ち」を防ぎたい受験者が殺到しているという状況です。(逆に言えば、本命でなくともとりあえず受験するというのも手です。)
裁判所事務官総合職は、ゆくゆくは裁判所の制度作りにも携わることを期待されている公務員で、難関です。どの地域で受験するかによって倍率が異なるのも特徴です。地域によっては採用者がゼロということもあります。
難易度A
難易度Aとしたのは、次の二つです。いずれも倍率でいうと10倍に満たないくらいです。
- 家庭裁判所調査官補(総合職)
- 財務専門官
家庭裁判所調査官補は国家公務員で、名前のとおり、家庭裁判所の調査官になる公務員を採用する試験です。「裁判所」という響きから非法学部の方に敬遠されがちですが、法学部以外からも多く採用されています。公務員試験の人気が凋落しつつある昨今においても、比較的、家庭裁判所調査官補の難易度は高めです。
財務専門官は、いわゆる国家専門職と呼ばれるグループに属する公務員ですが、他のものよりも倍率も少し高いため、財務専門官のみこのランクとしています。国有財産や金融制度に携わる公務員で、基本的な職場は財務省の財務局になります。
難易度B+
難易度B+に該当するのは以下の公務員です。倍率でいうと5倍前後くらいです。いずれも本格的な公務員試験の対策を積む必要があります。
- 国家公務員一般職(本府省・人気出先機関)
- 裁判所事務官(一般職)
- 外務省専門職
- 航空管制官
- 政令指定都市(人気な市)
- 都道府県庁(人気な府県)
まず、国家公務員一般職のうち、本府省や、人気のある出先機関です。また、国家公務員一般職は、出願する地域区分によっても大きく難易度が異なるという特徴があります。特に本府省や特定の出先機関の場合は、どこの地域区分で受けても官庁訪問を行うことが可能なので、戦略を考えることが重要です。基本的には、関東甲信越・近畿の難易度が高く、中国・東北・沖縄等の難易度が低めです。このことは以下の記事で詳述しています。

外務省専門職はいわゆる国家専門職の一つで、外交官のことを指しています。試験は少し特殊で、国際法の対策が必要になります。倍率も高めで難関な試験です。また、外国語会話の試験が課されるという特徴もあります。
更に特殊なのが航空管制官です。基本的な職場は空港の管制塔です。パイロットに英語で指示を飛ばしている方たちのことです。外国語会話の試験が課されるのは外務省専門職と同じですが、法律科目等の出題がないため、相対的に英語力における比重が大きいです。帰国子女や留学経験者で英語がペラペラな場合はかなり有利になります。逆にいうと、試験科目が尖っているため、他の公務員との併願がしづらいという特徴もあります。
政令市と都道府県庁は、場所によって倍率が大きく異なります。倍率が5倍前後から10倍くらいまでのものをここに整理しました。たとえば、政令市でいえば熊本市(倍率10倍程度)や仙台市(倍率5倍程度)が人気です。都道府県庁でいえば大阪府(倍率5~10倍程度)、宮城県庁(倍率5倍程度)等が人気です。繰り返しますが、これらの倍率は大卒の行政系の場合です。技術系の場合は総じて倍率や難易度は下がります。ちなみに、首都圏の方が倍率が高いなどの傾向は見受けられません。
難易度B
難易度Bに該当するのは以下の公務員です。倍率でいうと2~5倍くらいです。
- 国家公務員一般職(その他地方出先機関)
- 労働基準監督官
- 国税専門官
- 法務省専門職員
- 政令指定都市(人気市以外)
- 都道府県庁(人気府県以外)
- 特別区Ⅰ類
まずは、国家公務員一般職のうち、難易度が低めの出先機関です。国家公務員一般職の機関別の難易度は以下の記事で詳述していますが、採用数の多い地方整備局や税関は入りやすいと考えています。

続いて、労働基準監督官、国税専門官及び法務省専門職員をここに整理しました。いわゆる国家専門職と呼ばれる国家公務員のうち、比較的難易度が低めなのがこの三つです。法務省専門職員は馴染みの無い公務員かもしれませんが、法務教官や保護観察官のことで、非行少年の指導や更生等の仕事に従事します。いずれも一般的な公務員試験とは少しだけ出題される科目(労働法、会計学等)が異なるため、目指す場合は特別な対策が必要となります。
また、政令市及び都道府県庁のうち、比較的難易度が低いものもここに整理しました。たとえば、政令市であれば広島市(倍率2倍程度)や浜松市(倍率2~3倍程度)等で大卒行政区分の難易度が低いです。都道府県庁であれば、埼玉県庁(倍率2~3倍程度)、静岡県庁(倍率2~3倍程度)、北海道庁(倍率2~3倍程度)、東京都庁(倍率2~4倍程度)等で同様に難易度が低いです。
北海道庁は人気薄ですが、その理由は所掌する区域が物理的にかなり広いことに起因していると思われます。道内の全域において転勤の可能性が生じるからです。対して、札幌市はそこそこの倍率があります。
また、東京都特別区に勤務する特別区Ⅰ類についても、かつては10倍の倍率が生じるなどかなり人気な公務員でしたが、近年は著しく易化しています。直近の倍率は2倍近くにまで低下しているため、このランクに整理しました。
難易度判定不能
最後に、難易度を一概に語ることができないものとして、市役所、町村役場が挙げられます。採用倍率が1倍や数倍程度のところから、100倍以上になるところまで本当に様々です。
市町村役場の難易度は本当に場所によりけりです。たとえば京都府内の基礎自治体でいうと、最近の京都市(政令市)の倍率は3~4倍前後であるのに対して、同じ京都府内の宇治市役所の倍率は50倍程度です。一般的な感覚だと一般市よりも政令市の方が難しいという印象がありますが、必ずしもそうではないということが分かります。
まとめ【ランキングの一覧化】
最後に、以上を一つの表にまとめると、以下のようになります。
公務員試験(大卒・院卒)の試験種の難易度 | ||
難易度 | 倍率の目安 | 試験種の名称等 |
S+ | 50~100倍程度 | 国家公務員総合職(人気省庁) |
S | 20~100倍程度 | 国家公務員総合職(その他省庁等) 衆・参議院事務局(総合職) 国立国会図書館(総合職) |
A+ | 20~40倍程度 | 衆議院事務局(一般職) 国立国会図書館(総合職) |
A | 10倍弱程度 | 財務専門官 家庭裁判所調査官補(総合職) |
B+ | 5~10倍程度 | 国家公務員一般職(本府省・人気出先機関) 裁判所事務官(一般職) 外務省専門職 航空管制官 政令指定都市(人気な市) 都道府県庁(人気な府県) |
B | 2~5倍程度 | 国家公務員一般職(その他地方出先機関) 労働基準監督官 国税専門官 法務省専門職員 政令指定都市(人気市以外) 都道府県庁(人気府県以外) 特別区 |
?? | 2~100倍程度 | 地方市町村役場 |
なお、付言しておきたいのは、今回名前を挙げた試験種等は、BやCに該当するものも含め、どれも世間からすれば難関ということです。民間の大企業では採用倍率が数百倍などにも及ぶところもありますが、これは民間就活ではいくらでも出願が可能であるからです。一方、公務員試験は基本的に年に1回で、基本的にはある程度対策を積んできた人同士での競争になるため、見た目の倍率よりも難しいことに注意が必要です。