国家公務員の採用試験においては官庁訪問が課されますが、その実質的な倍率は公表されていません。しかしながら、省庁別にその採用難易度には乖離があるという話を聞くことはよくありますし、実際にそういった傾向は確かに存在すると感じます。「人気省庁」、「不人気省庁」と揶揄されることもありますね。(中央官庁はどれも国の重責を担っていますし、不人気というのはあくまで相対的な話だと思いますが。)
今回対象とするのは、国家総合職(いわゆるキャリア官僚)の試験です。なお、国家一般職については別に記事する予定です。あくまで私見となりますが、国家総合職の官庁訪問における省庁別の採用難易度について、私のイメージをまとめさせていただきます。国家総合職の官庁訪問は4~5日間かけて行われ、タフな日程であることでも知られていますが、その採用倍率が高いことでも有名ですね。官庁訪問の採用倍率は、下述するSS〜Aランクの官庁では5〜20倍程度と考えていますが、具体的な数値はブラックボックス化されています(公表されれいません。)。可能な部分はデータを引用しながらお話ししますが、大部分は主観によるものにならざるを得ませんので、ご留意の上、参考にしていただけますと幸いです。
対象とした官庁は、中央官庁のうち、国家総合職として独立して採用を行っている官署です。これらについて、SSランク~Cランクの5段階に分類しました。また、たとえば特許庁は経産省の外局ですが、採用は独立して行っているため、特許庁として別出しで分類しています。SSランク~Cランクの5段階に分類しました。
また、採用人数が少ない官庁や、こども家庭庁・デジタル庁のように未だ設立から十分に年数が経過しておらず、傾向が掴みにくいところは除かせていただいています。
SSランク
- 財務省
- 総務省(自治)
- 警察庁
最も採用難易度が高いSSランクには、財務省、総務省(自治)、警察庁が該当すると考えます。いずれも俗に五大省庁と呼ばれる省庁ですが、その中でも際立って採用難易度が高いです。
財務省は、各省庁に配当される予算額を決定するという極めて大きな裁量を持っており、受験生からの人気も大きいです。エリートの中のエリートという印象を受けます。ちなみに、財務省は国家総合職の採用枠を主に三つ(本省、財務局、税関)に分類していますが、いずれも採用される難易度は高いです。
総務省についても国家総合職の採用枠を三つ(自治、行政評価、情報通信)に分けられていますが、自治の難易度・人気が突出しています。総務省自治として採用された場合は10年未満に地方自治体への出向で管理職を経験し、最終的なキャリアは地方自治体の首長・副首長ということも多いです。
警察庁についても、厳格に情報管理がされている印象でその採用難易度はさらにブラックボックス化されているようですが、話を聞く限りではかなりの高難易度だと考えています。行政職の公務員とは異なり、警察組織の中で用いられる階級(警視総監、警視監、警視……等)がありますが、国家総合職は採用された時点で警部補というそこそこ高めの階級に位置するため、いきなり多数の警察官の上司になるという特徴があります。
ちなみに、国家総合職採用者の出身大学は、かつては各省庁別に公表されていました。警察庁は公表されていないためかデータがありませんでしたが、財務省と総務省については、いずれも過半数が東大の出身者ということが分かります。(古めのデータですが、この二つの省に関しては現在もその傾向は見られます。)
Sランク
- 経済産業省
- 外務省
- 特許庁
続くSランクとして、経済産業省、外務省、特許庁の3つをピックアップしました。
経済産業省については、霞が関の中でも花形というイメージがあります。財界との繋がりも大きいので、キャリアの裾野も広く、受験生からの人気は高いです。また、国家総合職の採用実績がある全官庁の中で、最も昇格スピードが早いという特徴があります。詳細は以下の記事をご覧ください。
外務省については、俗に五大省庁と呼ばれる一角であり、採用難易度は極めて高い印象があります。前述の経済産業省も同じですが、かなり前に採用者の出身大学が公表されていた際のデータによれば、いずれも内定者の半分以上が東大出身者だったということが分かります。
特許庁については経済産業省の外局ですが、特に近年になってかなり人気を伸ばしている印象があります。ただし総合職としての採用があるのは理系(特許審査官)のみとなっています。その仕事内容自体が裁量が大きく魅力に映るということと、ワークライフバランスが充実していることが人気を高めているようです。オープンワーク株式会社の運営するサイト「openwork」においても、特許庁の評価は他省庁の群を抜いています。
Aランク
- 内閣府
- 総務省(自治以外)
- 防衛省
- 文部科学省
- 環境省
- 会計検査院
- 人事院
続くAランクとして、内閣府、総務省(自治以外)、防衛省、文部科学省、環境省、会計検査院、人事院の6つをピックアップしました。
内閣府、総務省(自治以外)、防衛省等の人気省庁をAランクとして整理しました。
文部科学省、環境省は本省の中では組織がそこまで大きくなく、採用人数が少なめであることから難易度はやや高めです。各省庁の組織の大きさはあまり意識されることがないかもしれませんが、たとえば国土交通省や農林水産省は数万人や1万人以上の職員を擁するのに対して、文部科学省は約2千人、環境省は約1千人であり、大きな乖離があります。
会計検査院、人事院はニッチな官庁ですが、それぞれ採用人数がかなり絞られているため難易度は高めです。また、キャリアの人数が絞られていることにより、国家総合職として入庁した場合に室長級や課長級に昇格するスピードが全官庁の中でトップクラスに高いです。また、いずれも国家総合職でありながら出向を除けばキャリアのほとんどの期間を霞が関で過ごすことができます。転勤の少なさといった観点からも人気があるようです。
Bランク
- 農林水産省
- 国土交通省
- 国税庁
- 金融庁
- 公正取引委員会
続くBランクとして、農林水産省、国土交通省、国税庁、金融庁、公正取引委員会の5つをピックアップしました。あくまで他の省庁と比較した場合の相対的な採用難易度が低いと考えるに過ぎないので、いずれも国家行政の重要な役割を担っていますし、むろん絶対的な難易度は高いです。
農林水産省、国土交通省については、いずれも本省ですが、採用人数が高いことで有名です。いずれも例年100名以上の採用実績があります。決して不人気ということではありませんが、間口が広いため、採用難易度は相対的に低めであると言われます。
国税庁は財務省の外局であり、金融庁は(誤解されがちですが)内閣府の外局で、それぞれ本府省と比べるとやや難易度は落ちるイメージがあります。
公正取引委員会は法制業務がないという点で他の多くの官庁と異なりますが、それにより国会と関わる機会が少なく、現場へ出向く機会が多いです。現場志向やワークライフバランスを重視する受験生からの人気があります。
Cランク
- 法務省
- 出入国在留管理庁
一方で、他官庁より採用難易度が相対的に低いのは、法務省と、その外局としての出入国在留管理庁です。その理由の一つには、法務省をめぐるキャリア制度にあると考えます。たとえば法務省内の主要ポストは検察官等、法曹の出身者が就くことが常例とされていることが多いのです。
上掲の、省庁別採用者の出身大学のデータを見ても、官僚が文系の究極の就職先とされていた時代(データは平成24年度)でも、法務省は東大出身者が明らかに少ないです。法務省では当時でも旧帝大・一工・早慶以外からの採用が三割を占めているなど、大分前から人材の多様化が進んでいたことが分かります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。以上はあくまで私見に過ぎませんので、一参考に留めておいていただければ幸いです。
また、「入りやすい省庁に対して官庁訪問する」といったことは、受験戦略においては一つの有効な手段でありますが、採用後のことを考えれば、ベストな選択とはいえません。もしかすると40年以上働き続けることになりますし、そうでなくとも、ファーストキャリアはその後のキャリアに大きな影響をもたらします。
苦労した入庁した省庁を短い期間で退職してしまう方をよく見てきました。月並みですが、何を成したいかを第一の軸に据えて官庁訪問先・就職先を決めることの大切さを、ひしひしと感じています。