霞が関の各省庁は、省庁によって、職場としての雰囲気が異なります。この「省庁別イメージ紹介シリーズ」は特定の省庁をピックアップして紹介を行うという企画です。「イメージ」について語るという企画の特性から、筆者の偏見も大いに入り混じることはご容赦ください。
この記事で取り扱う特許庁は、経済産業省の外局です。経済産業省については、既に以下のとおり記事にしていますが、特許庁においては、採用形態や人事体制は基本的に経産本省から独立しているため、本記事において紹介していきます。
基礎的データ
組織
経済産業省は、その外局として資源エネルギー庁、特許庁、中小企業庁の3つを抱えています。特許庁のみ、独自で採用を行っています。業務内容については詳述しませんが、経産省の所掌事務のうち、知的財産系に係るものを取り扱うのが特許庁です。
職員数
- 特許庁……2,700人程度
- (参考:経産省全体では7,400人程度)
このようにそこそこ大きな人数の職員がいます。特許庁は外局の一つですが、独立した官庁である環境省や文部科学省、会計検査院等には匹敵するくらいの人数である。
庁舎
経済産業省の庁舎は、霞が関一丁目にある本館と別館がメインとなっており、本省、資源エネルギー庁、中小企業庁はそのいずれかに勤務しています。
一方、特許庁は霞が関三丁目に別に庁舎を持っており、基本的にはそこで勤務することとなります。
霞が関で随一のホワイトな職場
最大の特長は、何といってもその労働環境ではないでしょうか。霞が関で随一、あるいは公務員界隈で随一のホワイトな職場として知られています。
その最たる理由は、仕事の裁量の大きさにあるのだと考えられます。特許庁で独自採用される職員は、大きく次の四つの区分に分類されますが、そのうち、特許審査官、意匠審査官、商標審査官は、一人一人が各案件に対して特許権の審査を行う大きな裁量を持っています。また、一応はノルマに準ずるようなものはありますが、それを目指すための仕事の配分等は自身が決めることが出来るのだそうです。
- 特許審査官:特許法・審査基準に基づく特許の査定等に従事する。
- 意匠審査官:意匠法・審査基準に基づく意匠の審査等に従事する。
- 商標審査官:商標法等に基づく商標の審査等に従事する。
- 事務職員:知財行政事務全般に従事する。
以上のうち①~③の三つは知的財産権の審査を行うのに対して、「④事務職員」は一般的な知財行政事務全般に従事するため、そこで毛色が分かれています。
ちなみに、「特許」「意匠」「商標」の三つの違いですが、かなりざっくりと一言で説明するならば、以下のようになります。
- 特許権:発明などに対して与えられる知的財産権
- 意匠権:デザインなどに対して与えられる知的財産権
- 商標権:マークなどに対して与えられる知的財産権
話が少し逸れてしまいましたが、ともかく、特許庁職員の中でも、これらの知的財産権の審査を担当する審査官における、その仕事内容の独自性及び専門性、並びに裁量の大きさが、特許庁が職場としてホワイトと言われる所以になっています。
採用難易度が高い
上述に関連することですが、その職場環境の魅力から特許庁は受験生からの人気が高いです。特許庁の採用区分は四つあるとお伝えしましたが、それぞれの試験区分は次のとおりとなっています。
- 特許審査官:国家総合職(技術系のみ)、例年60人程度採用
- 意匠審査官:特許庁意匠審査職員採用試験、例年数人程度採用
- 商標審査官:商標法等に基づく商標の審査等に従事する。例年10人程度採用
- 事務職員:国家一般職、例年20人程度採用
まず、特許審査官については、国家総合職のうち技術系のみが官庁訪問を行うことが可能です。国家総合職は人数的には文系にボリュームがあるので、そういった意味では特許庁は異質な官庁です。とはいえ、採用数はかなり多いので、国家総合職試験に最終合格さえできれば、その後の採用面接における倍率はそこまで高くないのではないかと考えています。経済産業本省よりも多いですし、財務省や外務省、法務省等のような本府省よりも多い人数を採用しています。
続いて、意匠審査官についてはかなり特殊です。国家総合職試験に相当する「特許庁意匠審査職員採用試験」という独自の採用試験をクリアすることで採用に至ります。ただし、採用人数はきわめて少なく、例年数名程度、もしくは0名ということもありますので、超難関です。
続く商標審査官については、国家一般職試験の合格者が官庁訪問を行うことができます。特許庁が人気と言われる所以はここにあります。全国の国家一般職試験合格者から人気がある一方で、採用枠は10名程度なので、採用難易度はかなり高いです。国家一般職試験に最終合格することの難しさが高いというよりは、その後の、官庁訪問の倍率がかなり高いことで有名です。
対して、国家一般職の事務職員採用の場合には、官庁訪問の倍率はある程度マイルドになるようです。
官庁訪問の倍率は公開されていないためブラックボックスですが、私の観測範囲では、商標審査官の採用難易度は明らかに他の官庁の群を抜いています。
理系出身者が多い
上述に付随する特徴として、理系出身者が多いということです。四つの採用区分のうち最もボリュームが大きい特許審査官は技術系区分からの官庁訪問しか受け付けていないためです。
課長級に昇任するタイミングは遅め
一方で、官僚としてのキャリアという観点では、特許庁は課長級に昇任するタイミングが遅めであるというものがあります。
総合職として本府省に入庁した場合、平均的には25年程度で課長級に昇任します。一方、特許庁は国家総合職の独自採用を行っている全官庁の中で最も課長級職の昇任が遅い水準にあり、平均で28年ほどを要します。このことは以下の記事に詳述しています。
この理由は、特許庁はあくまで経済産業省の外局であるという点にあると考えられます。特許庁の幹部ポストは、特許庁プロパー職員のほか、経済産業省本省採用者が任用されるということも多いのです。この証左として、一方の経済産業省本省採用者の場合は、採用後課長級に任用されるまでの期間は約22年で、これは全官庁の中でトップクラスの早さとなっています。たとえば特許庁の事務方のトップは指定職6級にあたる特許庁長官ですが、このポストは代々経済産業省(旧通商産業省)に採用された職員が就いています。
給与という面で見ると、特許庁の特許審査官は他の国家総合職よりも入庁後は少しだけ給与が高くなりますが、以上の理由(管理職に昇任するが遅いこと)から、最終的には逆転されることが多いです。
勤続するだけで弁理士資格を取得できる
もう一つ、特許庁について語る上で欠かせない話題として、職員(審査官等)として勤続するだけで弁理士資格を取得できるという特徴もあります。
弁理士資格試験は普通に受験するとかなり難易度が高いことで知られていますが、わずか7年間の勤続で資格を取得することができてしまいます。たとえば、同じ難関資格の税理士については、国税専門官として勤続することで科目免除を受けることができます。一方の特許庁の弁理士資格取得については、必要勤続年数も短い上に、科目免除などではなく、資格自体を取得できてしまうという優遇ぶりです。
このことについては、以下の記事でも触れていますので、よろしければご覧ください。
採用形態によっては給与が高くなり易い
また、給与についても他の省庁より高くなり易い場合があります。特にこの傾向は若い間において顕著です。特許審査官等として採用された場合、適用される俸給表が専門職のものとなるからです。
まとめ
最後にこれらのことをまとめて記事を終えたいと思います。職場として非常に魅力的な官庁である、特許庁の紹介記事でした。
- 霞が関で随一のホワイトな職場
- 採用難易度が高い
- 理系出身者が多い
- 課長級に昇任するタイミングは遅め
- 勤続するだけで弁理士資格を取得できる