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霞が関で働く国家公務員の労働環境は本当にブラックなのか?

本省に勤務する国家公務員の労働環境が過酷であるということが、既に世間一般にも浸透していると思います。何年も前になりますが、元厚生労働官僚の千正 康裕氏による『ブラック霞が関』(新潮新書、2020)が話題を呼んでいましたね。

かつを

現役で霞が関で働いている時に読んでいましたが、的確かつ痛快な内容なのでお薦めしたいです。

今回は、国家公務員総合職としての勤務歴がある筆者が、最近の霞が関の労働環境について、統計も踏まえつつ持論を述べさせていただきます。主に、公務員試験を志す学生の方に向けた記事となります。

目次

受験先、就職先は十分に考えて選択するべき

私は、公務員指導に携わってから久しいです。お薦めの参考書や書籍、勉強法などについてアドバイスすることはできても、受験先としてどの役所をお薦めするかと問われた際には、よほど条件が具体化されていない限り、明言を避けるようにしています。ご自身で考え抜くべきであり、またご自身でなければベストな選択が出来ないからです。

霞が関の国家公務員の離職率は高めであると思いますが、その主たる原因は間違いなく労働環境にありますが、ミスマッチを引き起こす原因の1つには、就職先の選定というプロセスにかける時間が十分でなかったということもあります。だからこそ、就職先の環境について事前に知り、考えることは重要なのです。情報の非対称性を解消することが肝要です。霞が関を去る人の中には、単に労働環境を理由とするのではなく、他にやりたい仕事があるということを理由として挙げる方がいますが、これも受験先を熟考すれば避けられたことかもしれません。

かつを

1人の役人である前に1人の人間なのですから、1人の人間として幸せでなければ、良い仕事はできないと私は考えています。

本省勤務の公務員の労働時間について(超過勤務手当支給実績ベース)

冒頭で紹介した『ブラック霞が関』(新潮新書、2020)では、「07:00 仕事開始 27:20 退庁」という恐ろしいことが掲げられていますが、現在も事実としてそういった働き方をしている官庁はあります。もちろんこれが毎日続くわけではないですが、国会対応が絡むとスポット的にはあり得る話です。

霞が関の公務員の労働時間については、人事院がHP上で、例年行われる「国家公務員給与等実態調査」を基に、国家公務員の平均超過勤務時間数を公表しています。この結果を抜粋すると以下のとおりとなります。

国家公務員の平均年間総超過勤務時間数(単位:時間)
本府省本府省以外合計
令和5年397179220
令和4年383179217
令和3年358181213
令和2年348190219
平成31年356198226
(引用元:人事院ホームページ「超過勤務制度」

霞が関で勤務する公務員は「本府省」の列に該当します。「令和5年」(実際の期間としては令和4年中のもの)の「本府省」の年間平均超過勤務時間数は397時間となっており、1か月あたりに割り返すと約33時間となります。人事院を筆頭に政府がこれだけ手を打っても、増加傾向にあるのが目につきます。過去5年分の平均を取ると、概ね、霞が関の公務員の年間平均超過勤務時間数は360時間程度、1か月あたりでは30時間といって差し支えなさそうです。

しかし、このデータには大きな留意点があります。以上のデータは、一般職給与法上の「超過勤務手当」が支給されている時間数ベースで集計されています。霞が関では、残業しているにも拘わらず予算配当の関係等で超過勤務手当が支給されていない時間が発生することが常態化していますので、実際の残業時間はこれより大きいです。したがって、「本府省勤務の国家公務員における、超過勤務手当が支給されている超過勤務時間数は、年間あたり約360時間、1か月あたり約30時間」というのが正しい表現となります。法制業務や国会対応に従事する国家公務員の超過勤務時間数が月30時間程度の訳がありません。

かつを

最近は割と改善されてきて、実際の残業時間と超過勤務手当時間数の乖離は小さくなってきてはいるようですが…。

本省勤務の公務員の実際の労働時間について

霞が関の実際の残業時間については、人事院でさえも知る手段が無いはずなので、公式なデータは存在しないということになります。一方、民間企業のものですが、会社・官公庁の口コミサイトを運営するオープンワーク株式会社が、「国家公務員の残業時間ランキング」(働きがい研究所 調査レポート Vol.63)を公表しています。これは、同社の口コミサイト「OpenWork(旧:Vorkers)」におけるデータを基にしています。投稿には審査も求められ、投稿数もある程度の数があることから、データの信憑性は担保されています。少なくとも、上述の人事院のデータよりもかなり実態に近く、貴重なデータだと考えます。同社の公表したデータから、主要な中央省庁の1か月あたりの残業時間数を抜粋すると次のとおりとなります。

機関名月間残業時間(時間)
財務省72.59
文部科学省72.43
経済産業省70.16
総務省61.48
内閣府60.68
警察庁58.56
外務省58.13
環境省54.06
国土交通省50.40
農林水産省48.06
金融庁47.29
防衛省46.69
厚生労働省45.76
法務省26.05
会計検査院24.72
特許庁20.72
国税庁17.86
株式会社オープンワーク「国家公務員の残業時間ランキング」より抜粋

私の感覚では本府省の月間平均残業時間はおよそ50-60時間程度のイメージで、おおむね以上とも一致します。また、その中でも財務省、経済産業省、総務省あたりの残業時間数が長いことも、やはり個人的な所感と一致します。ただし、以上のデータは、例えば経済産業局、地方厚生局、税関はそれぞれ経済産業省、厚生労働省、財務省に含まれるなど、地方出先機関の残業時間を含むため、本府省のみを抽出したデータとはなっていないことには留意が必要です。大きな地方出先機関を持たない文部科学省の値が高くなっているのはそれに起因すると考えます。一方、厚生労働省、国土交通省等は出先機関を多く抱えていることから、本省勤務者の実際の月間残業時間数はこの統計の数字よりも更に多いと考えます。

一方、出先機関や出向が全く無いか、あるいはほとんど無い機関については、その実態をかなり正確に表していると言えます。例えば、特許庁、会計検査院あたりはそれに該当するにも拘わらず以上において低い値を取っており、まさしく霞が関の中で労働時間が短い官庁であると考えます。

労働環境を質的側面から考える

色々とネガティブな話をしてしまいましたが、続いては、ポジティブなこともお伝えします。私は国家公務員として霞が関に勤めていました。そこそこ長時間の勤務が続いたこともありますが、案外と何とかなっていました。その理由として、これはあくまで私見ですが、霞が関は質的には労働環境は良好だということが挙げられます。私は地方公務員と国家公務員のいずれも経験していますが、どちらが大変だったかと問われると、個人的には、総合的に地方公務員の方が大変だったと回答しています。本府省の労働環境が質的には良好だと考える理由は次の2点です。

  • 職員の人間関係が良好
  • 対人的な脅威に晒されることは少ない

第一に、職場の人間関係が良好だということです。これは地方公務員も同じですが、ほぼすべての職員は難関な公務員試験を経て入庁に至っています。特に本府省の管理職は本当に優秀な方ばかりです。大局的に物事を捉えることに長けていますし、かと思えば現実的な視座も持ち合わせています。若手職員も、昨今の霞が関の状況を理解してもなお国のために努力したいという思いを持って入庁してきた人達です。中には高飛車な人もいますが、基本的には相互理解力の高い人が多いように感じます。

また、国民と直接接する機会は極めて少ないため、怒鳴られたり、危機を感じるようなことは滅多にありません。私は地方公務員から国家公務員に転職した際に、外線電話の鳴る数の少なさに驚いたものです。

まとめ

  • 公務員試験において、受験先の選定には十分な時間をかけるべき。
  • 超過勤務時間数は人事院が公開しているが、実態を反映したものとは言えない。
  • オープンワーク株式会社の統計の方が実態には近いと考えられる。
  • 本省の中で残業時間数が少ない機関は特許庁、会計検査院等が挙げられる。
  • 量的には国家公務員はハードだが、質的には、個人がどう捉えるかによる。

最後に余談ですが、最近、国家公務員に週休4日制が導入されると報道されました。しかし、これは法制化の議論が煮詰まっていない今の段階から言っても、形骸化することが目に見えていると思います。少なくとも実現するための人的コストに見合った効果は得られないと考えます。仕事の絶対量が他律的である霞が関において、小手先の制度改革のみをもって労働環境の改革を図ることはナンセンスです。

かつを

シリアスな記事になってしまいましたが、それでも霞が関には生き生きと働いている人がいっぱい居ますし、割合的にはそういった人の方が圧倒的に多いことは申し添えておきます。

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