公務員試験における憲法は、専門試験科目の中で最も重要な科目です。この記事では、憲法の勉強方法等について解説します。
憲法の出題される試験種と、出題数
憲法は、行政系の公務員試験の場合、経済系に特化した試験種を除いてほぼすべての試験種で出題されることとなります。憲法が出題される試験種と、その出題数を列挙すると以下のとおりとなります。
- 国家総合職院卒行政区分 …… 必須5問
- 国家総合職政治国際区分 …… 必須5問
- 国家総合職法律区分 …… 必須7問
- 国家総合職経済区分 …… 選択式最大3問
- 国家一般職行政区分(全地域) …… 選択式5問
- 国税専門官A …… 「憲法・行政法」として選択式6問
- 財務専門官 …… 「憲法・行政法」として必須14問
- 裁判所事務官 …… 必須7問
- 特別区Ⅰ類 …… 選択式最大5問
- 都庁Ⅰ類 …… 選択式かつ記述式
- 地方上級 …… 4~5問、場合により選択式
記述式試験等を含めると他にも多数ありますが、ここでは割愛させていただきます。
憲法の難易度、コストパフォーマンス
- 憲法の学習難易度 …… ★★☆☆☆
- 憲法のコストパフォーマンス …… ★★★★★
公務員試験における憲法は、他の法律科目や経済科目と比べて明らかに取りかかり易い科目です。憲法は中学、高校の授業や、大学の一般教養科目においてもある程度学ぶこともあるため、他の法学系科目よりも取り掛かりやすいことが多いです。また、最終的に暗記の作業も必要になりますが、暗記の前段階としての、「理解するまでのプロセス」が他の専門科目よりも容易です。また、ボリューム自体も行政法や民法等よりもコンパクトで、テキストも少し薄めです。出題され得る論点が絞られているため、学習が得点に結びつきやすいです。
また、以上のとおり大多数の試験種において出題があるため、あえて憲法を捨てるという選択はおすすめしません。くわえて、合格・入庁後、実務に携わる中でも、法治主義の根幹を成す憲法について知識を持っておくことは大事です。
憲法を勉強する順番
特にこだわりが無ければ、早い段階で手を付けておくべきです。試験対策で一番最初に勉強する科目が憲法という方が多いです。また、他の法律系科目よりも先行して学習するべきです。そもそも憲法とは法律の上位の法規ですので、民法や行政法(に分類される法律)よりも先に勉強するのがセオリーに適っています。また、特に行政法とは関連する部分もあるので、先に難易度の低い憲法を攻略したのちに行政法に挑戦することで、シナジー効果も期待できます。
憲法の勉強方法(使用するテキスト)
憲法の勉強方法は至ってシンプルです。1冊の過去問集を、試験当日までに5週程度こなしてください。他の試験科目と比べると難易度はそこまで高くないので、導入用のテキストを挟まずに、いきなり過去問集で学習することがおすすめです。
使用する過去問集は、「過去問解きまくり」または「スーパー過去問ゼミ」のいずれかがおすすめです。いずれも受験生にとっての王道です。私は、受験生時代には「過去問解きまくり」によって学習しました。その理由は、分量がスー過去よりもおそらく少し多いことと、論点ごとのレジュメページが良く整理されているためです。ただ、いずれを使用しても間違いなく合格水準以上に達することが出来ますので、「この1冊」と決めたら、信じて何度も周回することが大事です。
ちなみに、これらの過去問集は、最新の年度の出題を踏まえて頻繁にアップデートされていますが、個人的には必ずしも最新のものである必要は無いと考えています。私も受験生時代に入手したテキストのうちには、最新のものよりも1年度古いものがありましたが、特に問題には感じませんでした。(ただし、民法、行政等はしばしば法改正があり得ますので、その場合は必ず最新のものを使うべきです。)
過去問集の使い方
過去問集は、1~5週目以降の各週において、以下のように使っていくのがおすすめです。
- 1週目は、レジュメページを読み、マーカーで装飾して理解を深めていく。その後、過去問の解説が書かれたページにおいて、コアとなる部分をマーカーで装飾し、次週以降にすぐ確認できるようにしておく。掲載されている過去問は同じ内容の選択肢・解説が繰り返し登場することがあるため、既に一度マーカーを付したことと同じことが書いてある解説には、当該解説文全体に黒鉛筆で斜線等を付しておく。こうすることで、次週以降にマーカーで装飾した部分だけを復習することで、必要十分の知識が確認できるようになる。
- 2週目は、レジュメページを読んで復習し、理解を深める。また、過去問ページにおいて、1週目でチェックしそびれていたところにマーカーで装飾したり、同じことが書かれているにもかかわらずマーカーで装飾していたところのマーカーを削除して黒鉛筆で斜線を引くなどの作業を行う。最終的に、すべての解説文にマーカー(確認するべき箇所)か斜線(確認不要の箇所)のいずれかを付すことになる。
- 3~5週目以降は、以上でマーカーを付した部分を確認していき、とにかく暗記していく。
特に重要なのは1~2週目で行う作業です。「解きまくり」では、例えば重要な選択肢の解説だと、同じ内容が1冊において5度くらい登場することもあります。毎週同じ内容を5度も確認するのは能率が悪いため、5度のうち4度分はスキップできるようにするために、黒鉛筆等で大きな斜線等を付しておくのです。この作業を行う際、1冊のテキストを、何度も前後にページをめくりながら進めていくことになります。一度付けたマーカーを削除できるようにするために、「フリクション」がおすすめです。
1~2週目でこの作業をこなしておくことで、公務員試験の憲法を攻略するために必要な知識が最低限で復習できるオリジナルの過去問集、もといテキストが完成します。使用するのは過去問集ではありますが、3~5週目においては、いちいち問題を見て、演習形式で自分で回答を考える必要はありません。あくまで暗記作業と割り切って、自身がマーカーを付したレジュメページの該当部分や、過去問の解説ページの該当部分をチェックしていくだけで十分です。
過去問集には重複が結構多く、この作業の結果マーカーが一切つかないページも結構多くなるはずです。そうすると、5週目頃には、朝から夜まで集中すれば、1日で1冊の過去問集を回すことが出来るようになるはずです。1~2週目の作業には膨大な時間を要しますが、3~5週目には効率の高い記憶の定着が期待できるようになるので、確実に跳ね返ってきます。
コツとして、「違憲判決だけを洗い出しておく」
公務員試験における憲法のメインとなるのは、主に「人権」と「統治」の2分野です。そのうち人権分野については、「~については、憲法に違反する。」といった問題文が与えられ、その正誤を判断するという出題形式が多いです。しかし、最高裁において違憲判決が出た判例はこれまでに10個程度と、多くはありません。したがって、違憲判決が出た判例を確実に記憶した上で、それ以外のケースについて出題があった場合には、それらは背理的に合憲だと判断して回答すれば良いわけです。受験でしか通用しないテクニックではありますが、正直、これだけでも憲法の人権分野はある程度戦えてしまいます。
憲法の人権に係る規定と個別の法律の関係において違憲判決が下されたのは、以下の10種のとおりです。(厳密には、❸の議員定数不均衡事件には2つの訴訟があるため、「10種・11個」の判例があります。)
- 尊属殺重罰規定規定訴訟(刑法、最大判昭48.4.4)
- 薬事法事件(最大判昭50.4.30)
- 議員定数不均衡事件(公職選挙法、最大判昭51.4.18等)
- 森林法事件(最大判昭62.4.22)
- 郵便法違憲訴訟(最大判平14.9.11)
- 在外邦人選挙権制限規定訴訟(公職選挙法、最大判平17.9.14)
- 国籍法3条事件(最大判平20.6.4)
- 婚外子法定相続分規定訴訟(民法、最大判平25.9.4)
- 再婚禁止期間訴訟(民法、最大判平25.12.16)
- 在外邦人国民審査権訴訟(国民審査法、最大判令4.5.25)
以上の10種11判例は必ず暗記した上で、試験当日に、これ以外のものについて「~違憲である。」としている選択肢があれば、それは誤りであると判断すれば良いわけです。
過去問集を回しながら、人権分野で違憲判決が出たものに係る問題・解説を見つけたら、過去問集の余白のページにその事件名や過去問集における該当頁をメモしていくことをおすすめします。
より厳密に言えば、実際の出題では「合憲」か「違憲」か帰結だけでなく、それに至るまでの論理を問われることもあるため、単に以上を基にその結果を丸暗記するのではなく、その内容についても理解することも必要です。
憲法の捨て分野
私は、とにかくコストパフォーマンスの高い学習を推奨しています。基本的に教養試験科目より専門試験科目の方が学習1単位あたりの限界的な得点向上率は高いですが、1つの科目についてある程度学習を進めてくると、飽和して限界得点向上率は逓減してきます。したがって、専門試験においては、出題頻度が少ないなどでコストパフォーマンスの低い分野は捨てることとして、他の科目の勉強へ移行するとことをおすすめしているのですが、こと憲法に限っては無駄な部分が存在しないため、過去問集に載っている問題をすべて学習しておくべきです。
まとめ
- 憲法は多数の試験種において出題されており、必ず勉強するべき。
- 「解きまくり」または「スー過去」を5週程度回す。
- 「違憲判決だけを洗い出しておく」と人権分野の学習がスムーズ。
- 憲法に限って言えば、捨て分野は作るべきではない。
余談ですが、私が受験生だった時代には、「過去問解きまくり」は「Quick Master」という名称でした。また、表紙も今のように女の子は描かれていないシンプルなものでした。個人的には前のデザインの方が好きなのですが(笑)、内容に違いはありません。