このサイトでは、以前、国家公務員の地域手当、本府省手当について説明しました。
この記事では、国家公務員の特別調整額(以下、「管理職手当」という。)について説明します。住居手当や扶養手当については簡単な制度のため説明は不要と判断していまして、手当について個別に記事にするのはこれは最後になる予定です。
俸給の特別調整額(管理職手当)とは
国家公務員の管理職手当は、その名称のとおり管理職に対して支給される手当のことであり、一般職の職員の給与に関する法律第10条の2に、次のように規定されています。
(俸給の特別調整額)
第十条の二 人事院は、管理又は監督の地位にある職員の官職のうち人事院規則で指定するものについて、その特殊性に基き、俸給月額につき適正な特別調整額表を定めることができる。
一般職の職員の給与に関する法律
ここでいう人事院規則とは、人事院規則9-17のことを指します。管理職手当の対象範囲や金額については、同規則において、以下のとおり規定されています。
管理職手当が支給される範囲
管理職手当の支給される職については、人事院規則9-17の第1条に規定があります。
(支給官職及び区分)
第一条 給与法第十条の二第一項の規定により俸給の特別調整を行う官職は、別表第一に掲げる官職及び人事院がこれに相当すると認める官職とする。
人事院規則九―一七(俸給の特別調整額)
以上のとおり、対象となる官職はすべて同規則の別表第一に明記されているのですが、該当する国のすべての機関が掲載されているため、ここで全てを紹介するにはあまりに情報量が大きすぎます。例えば、簡明な例として環境省の内部部局(本省)分を抜粋すると次のようになっています。
四十二 環境省
組織 | 官職 | 区分 |
内部部局 | 局次長 部長 課長 | 一種 |
室長(人事院の定めるものに限る。) 調査官(人事院の定めるものに限る。) | 二種 |
室長とは、本省の場合職務の級が7及び8級に該当する職で、管理職として初めの職になります。なお、総合職で環境省へ入庁した場合、平均で24年で室長級に達することになります。また、課長も馴染みのある官職ですが、本省の場合9及び10級に該当する職です。環境省の場合では平均で27年を要します。(環境省は管理職になるまでの期間が少し長めです。)
このように、国の本府省においては主に7級室長級以上が管理職であり、管理職手当の支給される職ということになりますが、一方、地方機関の場合には、小さな地方出先機関では4級課長から管理職として管理職手当が支給されることもあり得ます。管理職に該当する職務の級を、本府省、出先機関別に一覧化すると次のようになります。(下表のうち、セルを水色に着色したものが管理職に該当します。)
国家公務員の職務の級と、機関別標準官職の関係 | ||||
(職務の級) | 本府省 | 管区機関 | 府県単位機関 | 地方出先機関 |
10 | 課長(特に重要) | 管区長(重要) | ||
9 | 課長(重要) | 部長(特に重要) | 管区長||
8 | 室長(困難) | 部長(特に重要) | 管区長機関の長(困難) | |
7 | 室長 | 課長(特に困難) | 機関の長 | |
6 | 課長補佐(困難) | 課長 | 課長(困難) | 機関の長(困難) |
5 | 課長補佐 | 課長補佐(困難) | 課長 | 課長(困難) | 機関の長
4 | 係長(困難) | 課長補佐 係長(困難) | 係長(特に困難) | 課長 |
3 | 係長 主任(困難) | 係長 主任(困難) | 係長 主任(困難) | 係長(相当困難) 主任(困難) |
2 | 主任 係員(特に高度) | 主任 係員(特に高度) | 主任 係員(特に高度) | 主任 係員(特に高度) |
1 | 係員 | 係員 | 係員 | 係員 |
ちなみに、「管区機関」とは管轄する区域が関東、近畿、東北などのエリア全体に跨る比較的大規模な機関のことを指します。10級職の「管区長」は要注意な言葉で、例えば地方整備局長等は更に上の指定職に該当するため、「管区長」に該当しません。「府県単位機関」とはその名のとおり、府県を所轄する機関です。労働局等が該当します。地方出先機関は更に小さな機関で、名称が「〇〇事務所」となっているものなどはここに該当することが多いです。
管理職手当の支給金額
管理職手当の金額については、人事院規則9-17の第1条に規定があります。
第二条 俸給の特別調整額は、次の各号に掲げる職員の区分に応じ、当該各号に定める額(その額に一円未満の端数があるときは、その端数を切り捨てた額)とする。
一 次号に掲げる職員以外の職員 当該職員に適用される俸給表の別並びに当該職員の属する職務の級及び当該職員の占める官職に係る俸給の特別調整額の区分に応じ、別表第二の俸給の特別調整額欄に定める額
人事院規則九―一七(俸給の特別調整額)
このとおり、金額は同規則の別表第二に規定されていることが分かります。ここで同規則別表第二のうち、行政職のものを引用すると、以下のとおりとなります。(専門職や公安系の場合は、別表第二において行政系とは別に規定されています。)
国家公務員(行政職)の俸給の特別調整額の金額 | ||
職務の級 | 区分 | 金額(月額) |
10級 | 一種 | 139,300円 |
9級 | 一種 | 130,300円 |
二種 | 104,200円 | |
8級 | 一種 | 117,100円 |
二種 | 94,000円 | |
三種 | 82,200円 | |
7級 | 二種 | 88,500円 |
三種 | 77,400円 | |
四種 | 66,400円 | |
6級 | 三種 | 72,700円 |
四種 | 62,300円 | |
五種 | 51,900円 | |
5級 | 四種 | 59,500円 |
五種 | 49,600円 | |
4級 | 四種 | 55,500円 |
五種 | 46,300円 |
このとおり、俸給の特別調整額の金額は、「職務の級」と「区分」によって決定されます。「職務の級」については上掲の表を参照してください。また、「区分」は管理職手当の算定に用いられる区分のことですが、環境省のものについては上掲の表のとおりです。それ以外のものについてはこの記事で全て掲載することが困難ですので、特定の職について調べたい場合には、原典である人事院規則9-17(俸給の特別調整額)の別表第一をご覧ください。
(例)本府省に採用された職員のモデルケース
たとえば、本府省に採用されたケースを想定して、具体例を2つ挙げると以下のようになります。
1.国家総合職採用者の場合
霞が関(本府省)の場合では、管理職のうちの多くは国家総合職(旧:Ⅰ種)試験の出身者です。国家総合職試験を経て入庁した場合は、
- 20年目頃 …… 本省室長級 職務の級:7級 区分:二種 管理職手当月額:88,500円
- 23年目頃 …… 本省室長級 職務の級:8級 区分:二種 管理職手当月額:117,100円
- 25年目頃 …… 本省課長級 職務の級:9級 区分:一種 管理職手当月額:130,300円
- 28年目頃 …… 本省課長級 職務の級:10級 区分:一種 管理職手当月額:139,300円
2.国家一般職採用者の場合
国家一般職の出身者でも、管理職として任用されるケースは往々にしてあります。(詳細は以下の記事をご覧ください。)
個人差が大きくなるため、国家総合職のようにモデルを示すことは困難ですが、早い方であれば入庁30年目程度で本省室長級(7級、二種)となるため、88,500円が管理職手当として支給されることとなります。
管理職手当は地域手当の算定基礎となる
最後に、あまり知られていないのですが、一つ留意していただきたいことがあります。管理職手当は、地域手当の算定基礎となるということです。例えば、同様に本府省を例にすると、7級室長級の場合に支給される金額は88,500円ですが、これに倍率0.2を乗じた17,700円が地域手当として併せて支給されます。そうすると、7級室長に昇格した場合の管理職手当による給与の増分は106,200円(88,500円+17,700円)と捉えることも可能です。(その代わりに、6級から7級に昇格する際に本府省業務調整手当が支給されなくなります。)
まとめ
国家公務員の管理職手当は複雑な制度となっているため、うまくお伝えできたか不安ですが、少しでも参考になれば幸いです。