この記事では、霞が関や永田町に勤務する国家公務員が用いる用語(スラング)について紹介します。
このサイトでは、以前、以下のような記事を作成しました。

以上の記事は、国家・地方問わず公務員が用いる用語を紹介したものですが、この記事では、特に霞が関や永田町に勤務する、本府省の国家公務員が主に用いる用語を紹介します。
なお、筆者は国家公務員(総合職)の出身であり、国会での勤務歴もあります。各府省は、永田町の国会の中にも「控え室」(国会連絡室)を持っています。各府省の職員が国会に常駐しているのです。筆者も、官庁の職員として国会の控室にいた経験があります。
トンビ
まずは、「トンビ」(かつては「廊下トンビ」)です。

猛禽類のトンビに由来する言葉です。
各府省の国家公務員のうち、永田町の国会の控室で働く職員の通称が「トンビ」です。国会は基本的にせわしいところです。情報収集のため国会の中を走り回るその姿が、猛禽類のトンビに例えられたことに由来していると言われます。
主には各府省の若手職員が担当しています。各府省から数名から十数名程度がトンビを務めており、国会内には200人程度のトンビがいると言われます。特に国家総合職(キャリア官僚)であれば、勉強のためにトンビを経験している人が多いはずです。
トンビは、各府省の第一線として、国会で拾った情報を速やかかつ正確に自府省に伝達する役割を担っています。
小職
まずは、「小職」です。
自分自身のことを指して用いる言葉です。一人称です。特に国家公務員が日常的に使っている用語の印象です。筆者は地方公務員としての勤務歴もありますが、地方公務員時代には全く聞いたことはありませんでした。
自身のことをへりくだって用いる言葉ですが、個人的には腰が低すぎてあまり好きな言葉ではありませんでした。
同じように使われる言葉に「当職」がありますが、こちらはへりくだっている感じは薄れると思います。
主意書
続いて、「主意書」です。国会議員から内閣(各府省)に対する質問文書である「質問主意書」のことです。
主意書の法的根拠は、国会法の第74条及び第75条にあります。
【国会法】
第74条 各議院の議員が、内閣に質問しようとするときは、議長の承認を要する。
② 質問は、簡明な主意書を作り、これを議長に提出しなければならない。
③ 議長の承認しなかつた質問について、その議員から異議を申し立てたときは、議長は、討論を用いないで、議院に諮らなければならない。
④ 議長又は議院の承認しなかつた質問について、その議員から要求があつたときは、議長は、その主意書を会議録に掲載する。第75条 議長又は議院の承認した質問については、議長がその主意書を内閣に転送する。
国会法 | e-Gov 法令検索
② 内閣は、質問主意書を受け取つた日から七日以内に答弁をしなければならない。その期間内に答弁をすることができないときは、その理由及び答弁をすることができる期限を明示することを要する。
主意書は、本府省の国家公務員が最も恐れているといっても過言ではないものの一つです。上述のとおり、受け取った後7日以内に答弁をする必要がありますが、まず、この「7日」とは、営業日で7日ではなく、休日を含めた7日です。したがって、実質的に作業できる期間は4~5日くらいです。その間に、各府省内の幹部や、必要であれば関係する省庁への協議を行ったうえで意思決定を取っていく必要があるため、時間的・質的にハードな作業を強いられることになります。
デマケ
続いて、「デマケ」(デマケーション)です。
役割分担のことです。普通に役割分担と言っても伝わりますが、なぜか「デマケ」という言葉が今でも使われています。
ワリモメ(フリモメ)
続いて、「ワリモメ」です。「フリモメ」とも言われます。
上述の主意書や、その他の国会質問への答弁作成について、役所内の誰が担当するかをモメることです。国会からの質問は、複数の領域に跨っているものも案外多いです。そうすると、関係する二つの課のうち、どちらが担当するかを決めるにあたって議論になるということも多いのです。
特に国会質問の通告は、答弁を求められている日の直前や、深夜に行われたりするので、これが官僚が疲弊する原因になっています。疲弊した部署同士が、お互いに業務を回避しようとし合うような不毛なワリモメも見られます。
下手に仕事を受けてしまうと、「この案件はその課が担当している」という前例を作ることになりますし、一度でクローズせず、更問いがあった場合は継続的にその課が受け持つことになってしまいます。また、答弁作成は一人で作成するわけではなく、上司や同僚を巻き込むことになるので、「周囲のためのワリモメ」も見られます。
そして、ヒートアップしたワリモメには1時間以上を要することも少なくありませんが、それだけの時間があればある程度回答を作れたのではないか…と感じます。当事者は必死ですが、組織全体で見れば極めて非効率です。
ワリモメは、いわゆる「官僚制の逆機能」を体現したものだと感じます。

書いているとやはり不毛だなと感じます…。
問取り
続いて、「問取り」(問取りレク)についてです。
国会の答弁は、もちろんアドリブで行われているわけではなく、官僚(各府省の国家公務員)がその原稿を作成しています。そうすると、当然、議場でどのような質問を行うかを国会議員に確認しておく必要があります。この、どのような質問を行うかを聞き取りにいくレクのことを、問取り(レク)といいます。
問取りレクについても、主意書と同様に色々な話(主には職員の「待機」や非効率性のお話)がありますが、長くなるためここでは割愛いたします。
サブ・ロジ
続いて、「サブ」と「ロジ」です。
上掲の記事でも触れておりますが、霞が関では特に頻繁に用いられる言葉ですので、再掲します。
それぞれ、以下のような意味で用いられます。
- 「サブ」…… 文書、プレゼン等の成果物自体のこと。「substance(実体)」に由来する。
- 「ロジ」…… 会議や出張等の準備や、スケジューリングのこと。「サブ」に対置される言葉として用いられる。「 logistics(過程)」に由来する。
たとえば、「明日の会議は肝心のサブが十分に煮詰められていない。」「今度の出張のロジ回りは君に全て任せたよ。」といった具体に使われます。
民間企業や地方公務員ではあまり使われない言葉だと思います。
閣法・議法
続いて、「閣法」と「議法」です。
国会に提出される法案は、内閣によって提出される内閣提出法案と、国会議員によって提出される議員提出法案があります。そして、内閣提出法案は閣法、議員提出法案は議法と略されます。
ちなみに、実際に国会で成立する法令のうち、8割くらいは閣法が占めています。三権分立とうたいながら、一義的に立法機能を担う国会(議員)によって提出された議法は、意外とその数は少ないのです。
その他略称
そのほかにも、国会の用語は何でも略称にされがちです。耳で聞くだけだと分からないため、後から「あれはこれのことか」と気づくようなことも多いです。
たとえば、議会運営委員会は「議運(ギウン)」と略されます。他にも、永田町界隈では何でもかんでも略称にする風潮があります。