今回は、特別区Ⅰ類の合格体験記を四つ紹介します。予備校で勉強している方にも参考になるはずですが、特に、情報が不足しがちな独学組の方にご覧いただきたい記事です。
私が受験生指導に携わらせていただいた方の合格体験談から、本サイトでの公開許可を頂けたものについて、四つ紹介します。なお、頂いた文章について、文調に統一するなど、趣旨に影響の無い範囲で筆者が修文を行っています。
なお、特別区Ⅰ類は技術系の試験区分も多くありますが、今回は事務(行政)職のみの紹介とさせていただきます。
一人目 特別区Ⅰ類 Hさんの合格体験談
イニシャル・受験時年齢・出身大学
- イニシャル:Hさん
- 受験時年齢:21歳
- 出身大学 :中央大学商学部卒業見込み
公務員試験の受験結果
- 特別区Ⅰ類(事務):最終合格、某区に内定
- 横浜市:筆記試験通過、最終面接不合格
- 国家総合職(法律区分):筆記試験不合格
- 国家一般職:最終合格、内定辞退
内定までの経緯
大学3年生の夏頃から公務員試験を意識して、経済学の導入書を読むようになった。本格的に各科目の過去問集(スー過去等)に手をつけたのは、大学3年生の10月頃から。
関東圏で働きたいと考えていたことから、国家公務員や地方公務員を幅広く受験した。特に転勤がない特別区、横浜市の志望度が高かった。最終的に特別区から内定を頂けたが、横浜市は不採用となってしまったため、迷うことなく特別区に進むことにした。両方内定を得られていればどちらに進んでいたかは分からない。
なお、国家一般職も合格していて、某出先機関から内定も頂いていたが、特別区Ⅰ類に内定を頂いたのちに辞退した。
筆記試験対策のポイント
大学では商学部でマーケティングを専攻していたため、公務員試験において大学の勉強が役に立つことはほとんどなかった。難易度の高いという経済学から着手して、最初は訳が分からなかったものの、導入書を挟んでから過去問集に手をつけたことで何とかなった。
なお、予算が無かったことから予備校は使わず、独学で試験勉強を行ったが、特別区Ⅰ類レベルであれば十分に合格水準に達することができると感じた。私は初学者で、勉強していた期間は半年強程度であったが、特別区Ⅰ類では教養試験は6.5割、専門試験は7.5割程度得点できた。
論文試験対策のポイント
特別区Ⅰ類は論文試験の比重が大きいことで有名。論文試験は試験の一か月前くらいから着手すれば十分だと感じた。私が具体的にやったことは次のとおり。
- 出題される論文のテーマの予想(といっても、ネットに上がっているものを参考にしただけ)
- 各テーマについて、回答例の作成(1,000文字程度の論文なら回答例を作って骨組みを覚えてしまえばよい。10個くらい準備した。)
面接試験対策のポイント
人事委員会面接は、倍率は高くない。質問は基本的なことしか聞かれなった。また、地味に間違える人が多いが、特別区の場合は「人事委員会」の面接である。国家一般職等の「人事院」の面接と混同しないように注意。
その後行われた区面接は、倍率は分からないが、私は第一志望の区から最初の提示があり、指定の日時の面接をしたのち、後日電話で内定を頂けた。
これらの面接で重要だと感じたのは、「なぜ特別区の中でもその区を志望するのか」をうまく説明できるようにしておくことである。特別区は全国から受験者が集まるし、23区にゆかりの無い人も多いと思うが、何でもいいので、志望区について合理的な理由を準備しておくことが必要。
二人目 特別区Ⅰ類 Tさんの合格体験談
イニシャル・受験時年齢・出身大学
- イニシャル:Tさん
- 受験時年齢:22歳
- 出身大学 :関西圏私立大学経済学部卒業見込み
公務員試験の受験結果
- 特別区Ⅰ類(事務):最終合格、某区に内定
- 政令市:最終合格、内定
- 国家総合職(経済区分):最終合格、官庁訪問実施せず
- 国家一般職:最終合格、官庁訪問実施せず
- 財務専門官:筆記試験不合格
内定までの経緯
大学3年生の春に、就職活動について考えた際に、公務員に目指すようになった。直ぐに大手予備校の通学講座に申し込んで、勉強を開始した。
最初は公務員であれば特にこだわりはなかったものの、勉強を進める中で、より住民に近い場所で働きたいと考えるようになり、自治体志向になる。国家総合職や国家一般職は最終合格することができたが、官庁訪問は実施しなかった。官庁訪問の権利は複数年度に渡って有効であるため、もし特別区や政令市で内定を得られなかったら、翌年以降にこれらに再チャレンジしつつ官庁訪問しようと考えていた。
最終的には、特別区Ⅰ類と地元の政令市から内定を頂けたが、折角なので就職を機に東京に出てみたいと考え、特別区の内定を受諾した。
筆記試験対策のポイント
一応大学では経済学部に所属していたが、経済史が専攻だったため、経済理論はほぼ初めて学ぶ状態だった。それでも、予備校に通って毎回の講義を集中して聞いた上で、過去問集でアウトプットするという流れを繰り返せば着実に結果がついてくるようになった。
特別区の筆記試験は、問題自体は簡単であると思う。くわえて、どの問題を回答するかについても選べるため、その点からも得点し易いと言える。筆記試験の対策のポイントがあるとすれば、とにかく基礎を着実にすることである。国家総合職で問われるような難しい問題は捨ててしまってもよいかもしれないと感じた。
論文試験対策のポイント
論文試験についても予備校の講義、テキストを基に対策を行った。さらに、特別区は論文試験の重要性が高いということは知っていたため、ココナラで何度か答案の添削をお願いした。論文は誰でもよいのでとにかく他人に見てもらうことが大事だと感じた。色々な気づきを得られるので、内容をブラッシュアップできる。
私は筆記試験はおそらく平均的な得点だったが、約100位くらいの成績で合格することができた。論文試験で用意していたテーマが出題され、内容も十分に書けたためだと思う。想像以上に特別区では論文試験の配点が高いのだと思う。
面接試験対策のポイント
特別区は受験者が多いため、人事委員会の面接ではネットで言われているようなオーソドックスなことしか聞かれなかった。記憶の限りでは以下のような内容。
- 志望している区について、なぜその区を志望するのか
- (政令市等ではなく)東京の特別区で働きたい理由は何か
- 面接カードに記載した志望動機について深堀り
- 面接カードに記載した自己PRについて深堀り
以上は区面接でも同様ですが、区面接では人事委員会の面接とは異なり、内定を出した場合に本当にその区に来てもらえるかを確かめるような質問もされました。たとえば以下のようなことも聞かれました。
- 政令市も併願しているということだが、両方受かったらどちらへ進むのか
- 「あなたは地元は〇〇県だが、実家には帰らなくて大丈夫?」
- 「実際にうちの区を歩いてみたりしましたか?」
このように聞かれることがあるので、区面接の前日でも構わないので、必ずその区の有名なスポットなどには足を運んでおいた方がよいと感じた。私のような地方出身者の方はなおさら。
三人目 特別区Ⅰ類 Eさんの合格体験談
イニシャル・受験時年齢・出身大学
- イニシャル:Eさん
- 受験時年齢:21歳
- 出身大学 :関西圏私立大学卒業見込み
公務員試験の受験結果
- 特別区Ⅰ類(事務):最終合格、某区に内定
- 政令市:筆記試験合格、二次面接不合格
- 国家一般職(行政近畿):筆記試験不合格
- 国税専門官:筆記試験不合格
内定までの経緯
大学3年生の秋頃から公務員試験の勉強を開始。最終的に反省しているが、私は最後まで民間就活と併行して公務員試験対策を行った。結果としてどっちつかずとなり、民間企業からは内定を得ることができなかったし、公務員試験も最終合格できたのは特別区Ⅰ類のみだった。
さらに、面接が苦手だったことから、区面接では何度も不採用となり、大学4年生の1月頃(卒業間近)に行った四度目の区面接で何とか内定を頂けた。
国税専門官や国家一般職にも興味があったため、もう一年公務員試験浪人をすることを覚悟していたが、必然的に内定を頂けた区に進むことになった。
筆記試験対策のポイント
これも反省点だが、秋頃から対策を始めたため、勉強期間は半年くらいしかなかった。しかも、公務員試験で学ぶことは初耳のことばかりだったため、今思えば無謀だったと思う。もっと早く勉強を始めておけばよかった。
筆記試験も得意ではなかったため、全体で5割強くらいしか得点することができなかった。一次試験を通過することができたのは論文試験を評価してもらえたからだと思う。(特別区は一次試験において筆記試験と論文試験の成績で評価を行うため。)
論文試験対策のポイント
私は論文試験に救われた。特別区の論文試験は、出題されるテーマをある程度予想することができる。〇〇さん(筆者)の言っていたテーマが出題されたため驚いた。近年はコミュニティ形成、IT関係、福祉関係等が頻出である。
テーマが予想できるのであれば、あとはそれについてどのような答案を書くかを準備しておけばよい。論文試験の準備をしておくことは非常に重要である。私のように筆記試験がダメだったとしても、論文試験の出来がよければ特別区の試験は挽回できる。
面接試験対策のポイント
区面接に三度も落ちてしまったことからも分かるように私は面接試験も苦手だった。そのためアドバイスはできないが、反省点があるとすれば、一切面接試験の対策自体をしなかったことである。大手予備校の単発の講座や、ココナラ等を活用して模擬面接等をしておけばよかったかもしれない。
四人目 特別区Ⅰ類 Sさんの合格体験談
イニシャル・受験時年齢・出身大学
- イニシャル:Sさん
- 受験時年齢:24歳
- 出身大学 :地方国立大学文学部卒業(既卒、公務員勤務経験あり)
公務員試験の受験結果
- 特別区Ⅰ類(事務):最終合格、某区に内定
- (勤務しながら特別区のみを再受験したため、併願先はなし)
内定までの経緯
新卒の時に公務員試験を受験して、縁があった地方の自治体に勤めていたが、実家のある関東圏に帰りたいと思ったことから、特別区Ⅰ類を目指し、働きながら勉強を始めた。
試験のちょうど3か月前くらいから勉強を開始した。
筆記試験対策のポイント
働きながらの筆記試験勉強は時間が取れなかったが、勉強した内容は過去に一度学んだことのあるものであるため、少し触れば思い出すことができた。
新卒の時は過去問集を5週くらいしたが、今回は憲法、民法、行政法、ミクロ経済学、マクロ経済学、政治学、行政学等の重要科目の過去問集を1、2週した程度である。それでも合格水準に達することはできた。得点は48点(6割)程度だった。
論文試験対策のポイント
特別区で出題でありそうなテーマについて、もし出題されたらどのように回答するかを準備しておくことが重要。答案にはなるべく時事的な要素(ワード)を盛り込むように心がけて、それが良い結果に結びついたと感じる。論文試験の対策として速攻の時事を用いたが、これも良い選択だった。
面接試験対策のポイント
公務員試験の面接は新卒の時に何度か経験していたため、それほど緊張はしなかった。
ただし、私のように転職を前提とした受験者の場合は、特に区面接において、「内定を出したら本当に区に来れるのか」「現在の職場にはどのように説明しているのか」「同じような仕事なのに、特別区に移りたいと思ったのはなぜか」などのように、転職者ならではの質問を重点的に聞かれるので、準備しておく必要があると感じた。裏を返せば、聞かれる内容がある程度限定されるので、対策も立てやすいかもしれない。
余談
特別区Ⅰ類であれば経験者採用の枠もあるため、もう少し働いてからその枠を活用して受験すればよかったかもしれないと感じた。経験者採用の枠の方が給与の面で得になるかもしれない。