この記事では、国家公務員採用総合職試験について解説します。
公式な情報は人事院によって発信されていますが、その周辺の情報や、実態等について補足することを目的とした記事となります。
官庁訪問とは何か
概要
まず、官庁訪問とは何かについて、念のため、最低限の説明をしておきます。
国家総合職(いわゆるキャリア官僚)として採用されるためには、国家公務員採用総合職試験に最終合格した後に、各官庁と直接面接を行って、内定者を決めることになります。これが官庁訪問です。
国家公務員採用総合職試験は基本的には難関であり、年々倍率が低下しているといえども、最もボリュームのある大卒法律区分の最終倍率は10倍を超えています。また、合格者のうち最も数が多いのは東京大学・京都大学であることが多く、受験者の質も高いです。
このように難関である試験に最終合格した後に、更に官庁訪問を行う必要があり、そこで内定を得なければ、国家公務員として採用されることはできません。
試験に最終合格しても、「内定漏れ」「採用漏れ」になる可能性があるというのが国家公務員の採用システムの注意点です。
人事院面接とは異なる
間際らしいのは、国家公務員採用総合職試験に最終合格するに当たっても、人事院との面接が課されるということです。
人事院面接を経て試験に最終合格した人が、合格者名簿に登載され、官庁訪問を行う権利を得られるという仕組みです。
ややこしいため、人事院面接と官庁訪問の違いを一覧化すると以下のようになります。
人事院面接と官庁訪問の違い | ||
人事院面接 | 官庁訪問 | |
目的 | 国家公務員試験の最終合格者を決定するための評価に用いられる。 | 各官庁の内々定者を決定するために実施される。 |
実施機関 | 人事院 | 各官庁が個別に実施 |
実施期間 | 1日 | 約2週間に渡って実施 |
面接回数 | 1回きり | 多数回 |
実施形式 | 対面の個別面接 | 対面又はオンラインの個別面接が主だが官庁による |
予約方法 | 人事院から案内される | 各自で各官庁のHPを確認する |
倍率 | 国家公務員試験の最終合否判定に用いられるため、面接単独の倍率は算出不可。 | 非公表(詳細は下述) |
官庁訪問の特徴
官庁訪問には、一般的な面接(人事院面接や、地方公務員・民間企業の採用面接)と異なる点があります。
官庁訪問の特徴は次のとおりです。
約2週間に渡って行われる
まずは、その実施日程について特徴があります。
官庁訪問は、およそ2週間に渡って行われます。例年6月頃に実施されています。
官庁訪問の期間は、「クール」によって分かれており、各クールにおいてどの細かいルールがあります。詳細なルールについては人事院のホームページから確認するのが確実ですので、ここでは割愛します。

かつては6クールにまで実施されていたことがありますが、現在は4クールにまで縮小されています。
実態として知っておいたよいこととしては、以下のようなことが挙げられます。
- 各クールにおいて複数の官庁をすることが一般的であるが、基本的に最も志望度が高いところを各クールの1日目に訪問したほうがよい。
- ただし、どの官庁でも1日目に訪問しなければ採用されないということはない。
- 1クールや2クールではオンライン面接も選択できることがあるが、できれば対面面接を行ったほうがよい。
以上の3つ目の点(オンラインと対面を選択できる場合にどうするか)については、意見が分かれますが、筆者は、以下の記事で詳述したように、可能な限り対面での面接をしたほうが有利に運びやすいと考えています。


面接の回数の多さ
続いて、官庁訪問には、面接の回数がとにかく多いという特徴があります。
基本的には、朝に官庁を訪れたのち、その日のうちに何度も面接を行うことになります。多い場合は1日に5回ほど面接するようなこともあり得ます。
(ただし、官庁に「切られてしまった場合」は、1、2度の面接で終了してしまうこともあります。)
1クールから最終クールまで全て通過して、最終的に内々定を得るまでに、10回程度かそれ以上の数の面接をこなすことが多いです。
拘束時間の長さ
以上に関連することですが、拘束時間が長くなりがちです。
上述のとおり官庁訪問は多数の面接を行いますが、各官庁の面接官が受験者を評価したり、人事課が受験者と面接官の割当を行ったり、人事課が受験者の合否の判断を行ったりする時間が生じるため、とにかく待ち時間が生じます。
人事院としては、各官庁に対して拘束時間を抑えるよう周知していますが、実態としては、夜間まで時間を要する官庁も多いです。
とはいえ、日付が変わるくらいまで拘束されるようなことは現在はないようです。(かつては24時頃まで時間を要することもありました。)
熱量が高い
最後に、とにかく熱量が高いという特徴があります。
このことは、受験者側と、採用側の両者に然りです。
霞が関のキャリア官僚は基本的には意識の高いエリートの集まりですし、優秀な人材を確保したいと考えています。一方、受験者側も、現在は軟化していますが採用者のうち最も多くを占めるのは東大の出身者ですし、高レベルです。
(とはいえ、有名大学の出身者でなくても採用されることは普通に可能です。官庁訪問と出身大学の関係については以下の記事で触れていますので、よろしければご覧ください。)


全体的に高校野球・甲子園のような雰囲気があると言われることもあります。
倍率
官庁訪問の倍率については特筆すべきです。
まず、官庁訪問の倍率について、各官庁は基本的に公開していません。
ネット上では、「官庁訪問の倍率は2.5倍程度」と紹介されていることがありますが、これは単純に国家公務員採用総合職試験の最終合格者(例年1,800名程度)を、採用予定数(例年700名程度)で単純に割っているだけです。
「最終合格した人が、いずれかの官庁に採用される確率」という意味合いであればこれは半ば正解ですが、実際には、「最終合格をしたが官庁訪問は一切行わない人」がいるため、単純に割り算で求めることはできません。
また、官庁訪問では、一人の受験者が複数の官庁に対して訪問することが一般的です。そうすると、官庁訪問期間中にいずれか一つの官庁から内々定を得られる確率が2.5倍に近似するのであって、「特定の官庁から内々定を得る場合」の倍率を考えると、これより高くなります。
各官庁において、特定年度の採用者数は公表されている一方で、官庁訪問の訪問者数は公表されていないため、ここはブラックボックス化されている状態です。
一方、僅かですが過去に情報公開制度の開示請求が行われたり、エビデンスレベルは低いながら倍率の公開が行われた例があるほか、国家総合職として多数の面接官を経験した筆者の肌感覚を総じると、おおむね、一つの官庁に訪問した場合に内々定を得られる倍率は、3倍から10倍程度に収束すると考えています。
官庁によって難易度が大きく異なる
また、官庁によって難易度(官庁訪問における倍率)が大きくことなるという点にも注意が必要です。
おおむね、国土交通省や厚生労働省のように、100名程度の大量採用を行う官庁では、倍率は数倍程度と低い水準にあると考えています。
一方で、財務省や総務省(自治)のような人気省庁や、人事院、会計検査院、公正取引委員会のように採用数を絞っている官庁では、10倍以上の倍率が生じることもあり得ます。
試験に最終合格するための難易度は、昨今の公務員人気の凋落により低下している一方で、官庁訪問の難易度は、かつてからあまり変わっていません。現在も10倍以上の倍率が生じている官庁は確実に存在します。
見落としがちなのは、採用規模が官庁によって大きく異なるということです。
たとえば、国土交通省では100名以上を採用するため、試験合格者が仮に2,000名と多く見積もっても、その半数以上が同省に殺到するような事態が発生しなければ、10倍の倍率は発生しません。このように大量採用の官庁では、相対的に採用難易度は下がります。
このことは以下の記述で詳述しております。


対策
以上のように、官庁訪問には独特の特徴があります。
民間企業や人事院面接、地方自治体の採用面接のような一般的な面接対策のノウハウを使いまわすことができる部分もありますが、そうでない部分も大きいため、基本的には、国家総合職の官庁訪問に特化した対策を行っておくことが望ましいです。
最も望ましいのは、アガルートアカデミーの官庁訪問対策講座を受講しておくことです。大手予備校等で一通りの公務員試験対策を終えている人であっても、このように官庁訪問に特化した講座を経験しておくことを推奨します。
アガルートアカデミーの官庁訪問対策講座であれば、講座のほかに模擬面接もセットで行うことができるため、官庁訪問対策としての必要十分を満たしています。
官庁訪問の対策についてはこの記事では詳述しませんが、以下の記事を作成していますので、よろしければご覧ください。



