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国家総合職の年間給与(年収)が本当はいくらかを徹底的に計算しました

国家総合職の年間給与(年収)については、人事院により、35歳時点のものなどがスポット的に一応は示されてはいますが、これはかなり簡略化されたものです。今回は、一般職給与法と人事院規則を精読した上で、全年齢における国家総合職の年間給与を1円単位でシミュレーションしてきましたので、その結果をお伝えします。

目次

シミュレーションが可能である理由

国家総合職に限らず、国家公務員、多くの地方公務員も、条件が所与であれば、その給与を1円単位で計算することは可能です。例えば国家公務員の給与ならば「一般職の職員の給与に関する法律」と「人事院規則」によって規定されていますが、これらはすべて公表されていることから、時間をかけて読み解きさえすれば、1円単位で給与を特定することが可能です。

人事院のモデルの欠点

国家公務員の給与については、一応、このように人事院がモデルを示しています。(以下は人事院の公表しているものから計数を抜粋して見易いように整えています。)

番号⑧~⑪が国家総合職のものを想定して作成したものと思われます。しかし、これには次のような欠点があり、現実と乖離している印象が否めません。特に⑧では本府省課長補佐の年間給与が7,192,000円と掲げられているものの、間違いなく実際はこれよりも幾分か高い数字になります。その理由としては、主に以下のことが挙げられます。

  • このモデルには住居手当を一切含んでいない。
  • 同様に扶養手当を含んでいない。
  • 同様に超過勤務手当を全く含んでいない。

住居手当はある程度の年齢になれば持ち家を購入するなどで支給されなくことは往々にしてあると思いますが、特に、霞ヶ関で働く公務員の超過勤務手当がゼロということにはリアリティが全くありません……。同じ人事院の統計で、超過勤務時間数の統計上の平均が30時間(実態はもっと多いと思われます。)というデータがあるにもかかわらず、あえて非現実的なまでに低く積算しているのには何か理由があるのでしょうか。35歳で超過勤務手当が0円というのは、病気休暇中等でも無い限り、霞が関の総合職職員の中に1人も居ないのではないかとさえ思ってしまします。

ちなみに、⑨についても、人事院のモデルで示されているものは9級課長級の数字ですが、人によっては10級になってますのでこれよりも更に高いです。また、⑩の局長級についても、局長は主に指定職給料表の4級と5級に該当する職ですが、このモデルは4級の方の金額に基づき計算されています。局長の中でも5級に該当する職の場合は更に100万円ほど高くなります。(6級の財務省主計局長だと更にもう100万近く高くなります。)このように、このモデルは総じて低めに積算されている印象があります。なお、⑪の事務次官級についてはこのモデルのとおりで、疑問の余地はありません。

計算条件

そこで、以下の条件に基づき、正確に、また全年齢における公務員の給与を算出することとしました。

かつを

かなり細かく書いてしまったため、興味がない方は、ここは読み飛ばしていただいても大丈夫です。

計算条件
  • 22歳で国家総合職大卒区分により新卒入庁したものとする。
  • 採用当時から定年まで本府省に勤務したと仮定する。(普通は出向があり、出向中の給与形態は少し異なってきます。ただし、出向後本府省に戻った際には、本府省に勤めていた分と同等の昇給がされるため、計算上は大きな問題にはなりません。)
  • 超過勤務は、毎月、30時間行ったものとする。(人事院に公表されている本府省の平均超過勤務時間数のデータの近似値を採用しました。あくまで給与計算上の話であり、実際には彼らはもっと働いています。)
  • 土日においては超過勤務は行わなかったこととする。
  • 34歳に第1子が、36歳に第2子がそれぞれ誕生したものとする。
  • 賃貸住宅に居住していることとする。
  • 期末勤勉手当の支給率は年あたり4.4か月とする。
  • 俸給表、人事制度は令和5年4月1日時点のものとする。(同年度中の一般職給与法改正も反映済み。)
  • 採用後、5年目で3級に、9年目で4級に、11年目で5級に、13年目で6級に、17年目で7級に、20年目で8級に、23年目で9級に、26年目で10級にそれぞれ昇任したものとする。人事院の定める必要在級年数をベースに設定しましたが、全省庁の平均よりはほんの少し早めかもしれません。
  • 昇給は基本的に標準的な号俸数(6級まではすべて4号俸、7級からは3号俸)とする。1年目から2年目にかけても便宜上4号俸昇給としています。
  • 期末勤勉手当の支給率は常に通常のものとする。同様に、成績次第では通常より高い金額が支給される場合もあります。
  • 以下で紹介する年間給与は、1,000円未満の端数を切り捨てたものとする。そのほか、導出過程で100円未満、10円未満の端数を切り捨てている箇所がある。

以上の基準のもとに計算を行いました。

留意点の1つとして、このモデルでは便宜上業績評価及び能力評価で上位を獲得した際の昇給の加算分を一切含んでいないので、22歳で入庁して、好成績を取り続けてきたような場合だと以下のシミュレーションの額よりも更に高くなります。実際には公務員人生において標準的な昇給の号俸数に加算がされることは何度も経験するはずですので、それを加味すると実際の金額はもう少し高くなるはずです。

もう1つの留意点として、今回のモデルでは簡易化のため住居手当をずっと計上し続けていますが、結婚等してある程度の年齢になれば持ち家等を購入するのも一般的かと思います。その場合は住居手当は固定額なので、それに相当する額として年間336,000円(28,000円*12)を減じることになります。

最後に、22歳で入庁していると仮定しているのも1つの大きなポイントです。国家公務員の給与形態は、同一年齢で比較したとき、早く入庁した人ほど高い水準となります。入庁の年齢は最も多いと思われる22歳で試算しましたが、ギリギリの30歳で入庁した人の場合は、以下の試算よりも、おそらく100万円以上低くなってしまします。逆に、少数例だと思いますが、大学等を飛び級して22歳未満で入庁した場合は、以下の試算よりも実際の給与は高くなり得ます。

さて、実際にはこの記事の冒頭の画像のように1年単位で計算を行っているのですが、以下では、その中から幾つかの年齢をピックアップして、それぞれの時点における年間給与を内訳とともに紹介します。

25歳 5,694,000円

25歳(年齢は年度開始時点でのものです。)、入庁4年目の年間給与は569万円です。この時点では入庁時と同じ2級であるものとします。内訳は次のとおりです。なお、早いところであれば既に3級(係長級)に昇任(昇格)していると思います。その場合はこれよりも少し高くなりますね。

内訳等(25歳時点)
  • 給料……月あたり226,800円(一般職給与法における別表第一行政職俸給表における(一)2級13号)
  • 地域手当……月あたり45,360円(給料に0.2を乗じたもの)
  • 住居手当……月あたり28,000円(定額)
  • 本府省業務手当……月あたり8,800円(2級職の場合の金額)
  • 超過勤務手当……月あたり60,780円(30時間分を計上)
  • 給与月額……月あたり369,740円(給料および以上の各手当を足したもの)
  • 期末勤勉手当……1,257,000円(支給月数は4.4か月と想定)
かつを

以上の給与月額に12を乗じ、期末勤勉手当の金額を足すと概ね5,694,000円と一致することがお分かりいただけるかと思います。若干の差異は、端数を切り捨てている箇所があることにより生じています。

30歳 7,165,000円

30歳、入庁9年目時点での年間給与は716万円です。この時点で4級(係長級の上の方)になっていると仮定しています。ただし、早い省庁であれば既に課長補佐級に上がっていると思います。内訳は以下のとおりです。

内訳等(30歳時点)
  • 給料……月あたり277,800円(一般職給与法における別表第一行政職俸給表における(一)4級5号)
  • 地域手当……月あたり55,560円(給料に0.2を乗じたもの)
  • 住居手当……月あたり28,000円(定額)
  • 本府省業務手当……月あたり22,100円(4級職の場合の金額)
  • 超過勤務手当……月あたり74,440円(30時間分を計上)
  • 給与月額……月あたり457,900円(給料および以上の各手当を足したもの)
  • 期末勤勉手当……1,671,000円(支給月数は4.4か月と想定)

国家公務員全体の平均や多くの都市部の地方公務員の平均年間給与が、平均年齢の40歳強で650万円~700万円程度ですので、既にそれと同じくらいということになります。

35歳 9,017,000円

35歳、入14年目時点での年間給与は901万円です。この時点で6級(課長補佐級の上の方)に上がっています。国家総合職の場合、このように30歳台前半において飛躍的に給与が高くなります。国家公務員の在級年数の特徴として、4~6級の期間が短く設定されていることがその理由です。また、このモデルでは34歳時に1人目の子どもが出生するとしていることから、ここからは扶養手当も加算されていきます。

内訳等(35歳時点)
  • 給料……月あたり339,200円(一般職給与法における別表第一行政職俸給表における(一)6級9号)
  • 地域手当……月あたり67,840円(給料及び扶養手当に0.2を乗じたもの)
  • 住居手当……月あたり28,000円(定額)
  • 扶養手当……月あたり10,000円(子の人数及び年齢に応じた金額)
  • 本府省業務手当……月あたり39,100円(6級職の場合の金額)
  • 超過勤務手当……月あたり90,900円(30時間分を計上)
  • 給与月額……月あたり575,040円(給料および以上の各手当を足したもの)
  • 期末勤勉手当……2,117,000円(支給月数は4.4か月と想定)

このモデルにおいては以上のような算出結果となりますが、超過勤務手当が満額出る省庁で多く残業したり、期末勤勉手当の成績が最上位だったりといった条件が重なれば、35歳で1,000万円の大台に乗るケースも存在していると考えられます。この時点での超過勤務1時間当たりの単価は3,000円を超えていますので、期末勤勉手当の成績が普通でも、更に月あたり30時間分くらいの残業が加われば1,000万円を超えることになりますね。

40歳 10,263,000円

40歳、入庁19年目時点での年間給与は1,026万円です。この時点で7級(室長級)になっていると仮定しています。ここからは管理職扱いとなるため、俸給の特別調整額(いわゆる管理職手当)が支給される代わりに、超過勤務手当は支給されなくなります。また、本府省業務手当についても支給されなくなります。こういった要因が重なり合った結果として、35~40歳の伸び幅は30歳~35歳のそれよりも緩やかなものになっています。手当の金額が少なるかわりに、期末勤勉手当の金額は大きく伸びていますが、これは役職加算の加算割合が大きくなることに起因します。

内訳等(40歳時点)
  • 給料……月あたり399,100円(一般職給与法における別表第一行政職俸給表における(一)7級9号)
  • 地域手当……月あたり101,520円(給料、扶養手当及び特別調整額に0.2を乗じたもの)
  • 住居手当……月あたり28,000円(定額)
  • 扶養手当……月あたり20,000円(子の人数及び年齢に応じた金額)
  • 特別調整額……月あたり88,500円(7級の場合の金額)
  • 給与月額……月あたり637,120円(給料および以上の各手当を足したもの)
  • 期末勤勉手当……2,618,000円(支給月数は4.4か月と想定)

ちなみに、40歳時点で比較すると特別区、政令市、都庁等の他の公務員の年間平均給与が700万円前後ですので、単純に平均同士で比較すれば、300万円程度の差がついていることになります。

45歳 12,479,000円

45歳、入24年目時点での年間給与は1,247万円です。この時点で9級(課長級)になっていると仮定しています。霞ヶ関は省庁によってポストの数に偏りがあるため、まだ室長級に留まっている場合も考えられます。課長級になっていれば、室長級時代と比して給与は目に見えて高くなります。特別調整額が室長級時代よりも更に高くなることに加えて、期末勤勉手当の役職加算割合も、8級以上で最高となります。内訳は以下のとおりです。

内訳等(45歳時点)
  • 給料……月あたり475,000円(一般職給与法における別表第一行政職俸給表における(一)9級6号)
  • 地域手当……月あたり125,060円(給料、扶養手当及び特別調整額に0.2を乗じたもの)
  • 住居手当……月あたり28,000円(定額)
  • 扶養手当……月あたり20,000円(子の人数及び年齢に応じた金額)
  • 特別調整額……月あたり130,300円(9級の場合の金額)
  • 給与月額……月あたり778,360円(給料および以上の各手当を足したもの)
  • 期末勤勉手当……3,139,000円(支給月数は4.4か月と想定)

50歳 14,157,000円

50歳、入庁29年目時点での年間給与は1,415万円です。この時点で10級(課長級の上の方)になっていると仮定しています。内訳は以下のとおりです。人事院のモデル給与上は1,250万円となっていますが、手当のうち幾つかが含まれていないほか、9級課長級の給料月額をベースに計算しているようです。たしかに省庁によってはこの年齢で9級課長ということもあり得ますが…。私は別の記事で総合職職員が課長級に昇格する平均年数が25.5年だと結論づけていますので、そこに10級に至るまでの必要在級年数3年を足すと、29年目で10級になるというのはモデルとしては妥当だと考えています。

内訳等(50歳時点)
  • 給料……月あたり548,500円(一般職給与法における別表第一行政職俸給表における(一)10級11号)
  • 地域手当……月あたり142,560円(給料、扶養手当及び特別調整額に0.2を乗じたもの)
  • 住居手当……月あたり28,000円(定額)
  • 扶養手当……月あたり25,000円(子の人数及び年齢に応じた金額)
  • 特別調整額……月あたり139,300円(10級の場合の金額)
  • 給与月額……月あたり883,360円(給料および以上の各手当を足したもの)
  • 期末勤勉手当……3,556,000円(支給月数は4.4か月と想定)

一般職給与法の行政職俸給表(一)は10級までですので、この次の審議官級からは指定職俸給表に基づくこととなります。ちなみに、10級は号俸の上限が21号俸に設定されています。そのため、国家総合職は50代前半で10級に達したのち、審議官級にならない限り、今後の昇給は緩やかか、もしくは21号俸に達して以降は全く無いということになります。

55歳以降の年間給与

55歳(34年目)頃から、人によっては審議官等の指定職に任用されます。ここからはざっくりした計算ですが、概ね次のとおりです。

指定職俸給表が適用される職の年間給与
  • 審議官級……1550~1700万円程度(指定職1~3号俸)
  • 局長級等……1750~2200万円程度(指定職4~7号俸)
  • 事務次官級……2300万円程度(指定職8号俸)

なお、同じ審議官級においても大きな幅があるのは、審議官1つ取ってみても指定職俸給表で2号俸に該当する職と3号俸に該当する職があるためです。また、ここであくまで「審議官」と銘打ったのには理由があります。実際には、国土交通省の「航空保安大学校長(指定職2号俸)」や人事院の「公務員研修所長(指定職3号俸)」のように、様々な名称の職が存在しているためです。

「局長級等」としたのも同様の理由です。特にこちらは役職の名称が「警視総監(指定職7号俸)」「特許庁長官(指定職6号俸)」「財務省官房長(指定職5号俸)」等と非常に多岐に渡っており、統一的な名称を付与することが困難です…。ここは結構無理矢理感のあるカテゴライズであることは否めません。

まとめ

  • 人事院が国家公務員(国家総合職)の給与モデルを公開しているが、それには各種手当等が十分に反映されていない。
  • 超過勤務手当等を加味した、実際の国家公務員総合職の平均年収は以上のとおり。
かつを

概ね実態に近い計算が出来たと自負していますが、かなり情報量が多い計算ですので、随所に誤りがあれば教えてくださると幸いです。

さて、この記事を書こうと思ったきっかけは、昨今の公務員人気、特に国家総合職の人気の凋落にもあります。国家総合職は過重労働に給与が見合わないと批判されることもしばしばありますが、この結果を見て皆さんはどのように思われましたか?世間一般と比較すれば高いと感じた方もいらっしゃると思います。一方で、国家総合職はほんの少し前までは半数が東大出身で、さらに高い倍率の公務員試験をクリアしてきた人たちです。東大を出た後、公務員試験を経ずに外資系企業等に就職すればもっと高い金額を手にしていたことと思います。また、国会対応で時計が天辺を超えてもなお働き続けなければならないような環境がまだまだ霞が関には残っています。これらの条件と照らせば、この水準はむしろ低いと考える方もいらっしゃると思います。

その上で、国家公務員のなり手不足を解消するのであれば、給与云々ではなく、現在の過酷な労働環境を改善するべきだと個人的には考えています。

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