市役所、特別区、都道府県庁等の志望動機として、受験生が挙げる頻度が高いものとして「観光」があります。
しかし、これは私見ですが、志望動機として「観光」を掲げるのは諸刃の剣でもあると感じています。
あくまで志望動機なのですから、それを理解した上で、ご本人が本当にやりたいことを掲げるべきだと思います。この記事を読み、更に自治体の仕事を調べてもなお観光施策に携わりたいことが公務員になるモチベーションであるなら、それを尊重するべきです。ただし、受験戦略としてはおすすめできないということは申し添えておきたく思います。
この記事では、その理由を3つに分けてお話しします。
「観光」を志望動機にすることをおすすめできない3つの理由
理由① 自治体が観光に割く人員は少ない
第一に、これは基礎自治体、とりわけ一般市や特別区に強く当てはまることですが、自治体において観光施策というのは限られたほんの一部の仕事に過ぎないということです。そのため、人事行政上観光に割くリソースも小さくなるので、一度も観光所管部署に配属されないまま公務員生活を終える人の方が圧倒的に多いと思います。また、定期異動を前提とする公務員においては、運良く携わることができても、数年のうちに異動を迎えてしまいます。
ところで、東京都特別区では毎年度「◯◯区人事行政の運営等の状況」として、部門別の職員数を公表しています。たとえば、コロナ禍以前は国内外から観光客が押し寄せていた浅草を擁する台東区の部門別職員数を参照します。
・民生:514人
・総務:419人
・衛生:321人
・土木:212人
・商工:54人
・税務:43人
台東区人事行政の運営等の状況から、一般行政部門の職員数を一部抜粋
このように、職員は圧倒的に民生部門(主に社会福祉、社会保障行政)に偏って配置されていることが分かります。人的・財政的リソースの観点から言えば、自治体の業務の筆頭は社会保障関係です。台東区でいえば、高齢福祉課、介護保険課、障害福祉課及び保護課等が該当します。(これは台東区に限ったことですが、浅草から暫く北に行った所には山谷地区と称される所謂ドヤ街が存在することもあり、他区と比して特に保護課に多数の職員が配属されています。)一方、観光行政は以上のうち商工部門に属するはずですが、「商工」の中には観光課のほか、地域産業を所掌する産業振興課や、文化行政を担う文化振興課を含んで54人という数字です。
理由② 「民間部門の方がいいのでは?」と聞かれる
東京の観光地として真っ先に思い浮かぶものとして東京スカイツリーが挙げられます。私がお会いした受験生の中に、「墨田区は東京スカイツリーを持っているから財政状況が良い」と発言された方がいらっしゃいますが、東京スカイツリーを所有するのは東武鉄道株式会社の子会社です。(港区のように、大企業が多く所在することで潤沢な法人事業税を得ている自治体もあるため、これは全くの誤りではありません。)
自治体における観光行政といえば、事業主体への財政的な支援といったイメージが先行してしまいます。一義的には、旅行代理店、宿泊業、鉄道会社、観光地の運営主体(財団法人等)のような民間部門こそ観光主役という印象を拭い切れないというきらいがあります。
理由③ 観光を掲げる受験生が多い
最後の理由は、それでも「観光」を志望動機に掲げる受験生が多いということです。あまつさえ以上のような事情があるところ、他の受験生との差別化が困難となってしまいかねません。
私見ですが、京都市のような世界的な観光都市であれば納得する部分もあるのですが、地方都市の採用試験においても同じ状況にあることには若干の違和感を覚えてしまいます。
あくまで受験戦略上の話に過ぎませんが、採点者・面接官からすれば、「観光」を志望する受験生が多く、差をつけにくいという傾向に陥ってしまうことが考えます。
観光施策を志望動機に掲げる際に留意しておくべきこと
観光施策に強い関心があり、志望動機とする場合には、以下のことに留意しておきましょう。
2番目、3番目にやりたいことも準備しておくこと
まずは、必ず2番目、3番目にやりたいことを言えるように準備しておくべきです。以上に記したとおり、公務員として観光に携わることができる確率は低く、その期間は短いので、自治体におけるそれ以外の仕事についてどう考えているかを尋ねられる可能性が高いです。
民間企業と自治体(公務員)の差別化
また、観光業界の民間企業と、志望する自治体を差別化できるようにしておくべきです。まずは希望される自治体における観光事業について、自治体と民間企業がそれぞれどのように仕事を分掌しているかを調べてみてください。その上で、志望動機を踏まえ、なぜ民間企業よりも自治体がご自身の中で優先されるのか、その理由を準備しておく必要があります。
当該自治体の観光に係る情報についてリサーチしておくこと
もう一つ、これは当然かもしれませんが、当該自治体の観光資源や、可能であれば観光客数といった基礎的なデータのほか、当該自治体のインバウンド消費を増やすための方策等について自身の考えを述べられるようにしておくとベストです。
まとめ
- 自治体において観光行政はある種マイナーな仕事である。
- 観光行政を志望動機に掲げる際、民間企業との差別化が難しい。
- 受験者として、他の受験者との差別化を図ることも難しくなる。
- 観光行政を志望動機とするなら、自治体において他にやりたい仕事も準備しておくこと。また、当該自治体内における観光事業について、自治体と民間企業がどのような役割を担っているか確認しておくこと。
観光行政についてネガティブな記述をしてしまいましたが、観光課の業務自体は魅力的だと思っています。私は公務員時代に配属されたことはありませんでしたが、「一度観光課へ行くとそれ以外の仕事が面白く感じなくなってしまう。」という言葉も聞いたことがあるくらいです。あくまで仕事自体は大いにおすすめできるものであることを、最後に申し添えます。
ちなみに、本サイトでは以下のような記事もありますので、志望先が基礎自治体(市役所、政令市、特別区)の場合には、志望動機の作成にあたって参考していただければ幸いです。