現在は東京都にのみ置かれている「特別区」と、政令指定都市の「行政区」の違いをご存知でしょうか。
例えば同じ「北区」でも、東京都の「北区」は特別区の一つですが、京都市等にある「北区」は政令指定都市の行政区の一つです。
「特別区」の例
「特別区」は、現在は東京都にのみ置かれていて、該当するのは、次の23の自治体です。
- 千代田区
- 中央区
- 港区
- 新宿区
- 文京区
- 台東区
- 墨田区
- 江東区
- 品川区
- 目黒区
- 大田区
- 世田谷区
- 渋谷区
- 中野区
- 杉並区
- 豊島区
- 北区
- 荒川区
- 板橋区
- 練馬区
- 足立区
- 葛飾区
- 江戸川区
「行政区」の例(京都市の例)
たとえば、政令指定都市の中でも、京都市の場合は、以下のような行政区があります。行政区の名称、数については、政令指定都市によって様々です。
- 上京区
- 下京区
- 左京区
- 中京区
- 東山区
- 右京区
- 伏見区
- 北区
- 南区
- 山科区
- 西京区
この記事では、特別区と行政区の違いについて、いくつかの観点から比較していきます。特に、特別区Ⅰ類の受験生の方等は、論文試験や面接試験で役に立つ情報もあるかもしれませんので、チェックしていただけますと幸いです。
法人格
第一の違いは、法人格です。
特別区は法人格を有する独立の地方公共団体ですが、政令市の行政区は、法人格を有しません。これが、特別区と行政区を峻別するための究極的な違いといえます。
ちなみに、特別区は、地方自治法上の特別地方公共団体に該当します。特別地方公共団体とは、日本の地方公共団体のうち、普通地方公共団体(都道府県、市町村)以外の法人のことであり、具体的には以下のもののことです。
- 特別区
- 地方公共団体の組合(一部事務組合等)
- 財産区
地方公共団体の組合と財産区については、特定分野の行政事務に携わる人でなければ聞き馴染みの無い言葉だと思います。ともかく、独立した地方公共団体である特別区に対して、政令市の行政区は、〇〇市の内部組織の一つに過ぎず、この点において違いがあります。
根拠規定
特別区の根拠規定は、以下のとおり、主に地方自治法の第281条から第283条において規定されています。
(地方自治法)
第二百八十一条 都の区は、これを特別区という。
2 特別区は、法律又はこれに基づく政令により都が処理することとされているものを除き、地域における事務並びにその他の事務で法律又はこれに基づく政令により市が処理することとされるもの及び法律又はこれに基づく政令により特別区が処理することとされるものを処理する。
地方自治法 | e-Gov法令検索
一方で、政令市の行政区については、主に地方自治法第252条の20等に規定が置かれています。
(地方自治法)
第二百五十二条の二十 指定都市は、市長の権限に属する事務を分掌させるため、条例で、その区域を分けて区を設け、区の事務所又は必要があると認めるときはその出張所を置くものとする。
地方自治法 | e-Gov法令検索
業務の範囲
続いて、業務の範囲についてです。
上述のとおり、政令市の行政区は独立した地方公共団体ではありません。したがって、行政区の業務は限定的で、政令市長の事務の一部を分掌しているにすぎません。具体的には、住民戸籍関係、福祉関係等のように、住民と直接的に接することになる事務は、各区役所に分掌されていることが多いです。一方で、市政全体に跨るような事務、たとえば政策企画や職員の人事等については、政令市本体が行っている場合が殆どです。
一方の特別区は独立した地方公共団体ですので、一般的な市町村とほぼ同等の業務を所掌しています。この意味で、特別区は行政区とは一線を画していますので、当然に業務の範囲も特別区の方が広いです。
特別区は一般的な市町村とほぼ同等の業務を所掌していると申し上げましたが、面白いことに、実は、特別区の業務の範囲は、一般的な市町村のそれよりも僅かに狭いです。特別区の業務の範囲は、上掲の地方自治法第281条第2項に明記されており、特別区は、「都が処理することとされているものを除き、地域における事務並びに(中略)市が処理することとされる」事務を取り扱うこととなっています。首都東京の特殊性に鑑みて、本来であれば基礎自治体が処理すべきような事務であっても、東京においては、特別区ではなく東京都が処理しているものがあるのです。たとえば、上下水道・消防などの事務がこれに該当し、東京都水道局や東京都消防庁がこれを担っています。「特別」区というと、一見すると市よりも広い裁量を持っているように思われがちですが、その実は、逆の状態となっているのです。
区長
区長についても違いがあります。
特別区の区長は、地方公共団体の首長ですので、住民によって直接選挙によって選ばれることとなります。
一方の行政区の区長については、あくまで首長を補佐する地方公務員の一人として、職員の中から、人事異動により選ばれることとなります。とはいえ、政令市の区長は管理職試験を経たのち、さらに課長、部長、局長等といった幹部ポストを経て任用されることとなるため、政令市職員としてのキャリアを登り詰めた先にあるポストです。更にその上のポストは、副市長くらいしかありません。
ちなみに、政令市の中でも大阪市は珍しい取組を行っており、区長(や局長)を公募により採用しています。採用実績数は少ないですが、現在も、公募により民間の有名企業等から採用された区長が存在しています。
議会
同様に、議会についても扱いが異なります。
特別区においては、独立して議会が設置されており、区議会議員選挙により区民から選ばれた区議会議員により、議会が組織されています。
一方、政令市の行政区においては、独立した議会や議員は存在しません。
職員の人事
これも同様ですが、職員の人事についても、扱いは異なります。
特別区においては、特別区Ⅰ類試験等、独立した採用試験が行われています。採用権者は各特別区長にあります。各特別区において採用された職員は、ごく一部の例外を除き、基本的には当該特別区の中でそのキャリアを終えることになります。
一方、政令市の行政区に配属される職員は、その政令市(長)によって採用された職員です。政令市の職員が、人事異動の際に選ばれた場合に、各行政区に配属されることになります。そして、多くの場合は、何年か勤務したのち、政令市本庁舎に戻ったり、別の行政区や出先機関に異動することになります。
まとめ
以上の違いを表にまとめると、以下のようになります。
特別区と行政区の違い | ||
特別区 | 行政区 | |
法人格 | あり | なし |
主たる | 根拠規定地方自治法第281条~第283条 | 地方自治法第252条の20 |
業務の範囲 | ほぼ市と同様 | 限定的 |
区長 | 公選制 | 市の人事異動により任用 |
議会 | あり | なし |
職員の人事 | 独立採用あり | 独立採用なし (市の人事異動により任用) |