公務員試験においては、具体的に試験当日で何点を取れば良いか、その具体的な目安を持って学習に励むことが肝要です。この記事では、公務員試験のボーダーを踏まえ、「これぐらいの点数であれば一安心できる」という目安をお伝えします。
なお、国家公務員系の試験については人事院の公表する標準偏差等の値を基にボーダーを1点単位で算出できますが、地方上級や特別区の場合には、このように明確に算出することはできず、するとしても受験者や指導者の経験から蓄積されたデータから推測するに留まります。(追って地方公務員の分についても別に記事にする予定です。)
国家公務員試験の筆記試験は主に「基礎能力試験」と「専門試験」の2つで構成されますが、本記事においては簡便化のため、前者を「教養」、後者を「専門」、両者を合わせて「筆記試験」と略称を用いることとします。
本稿における「ボーダー」の考え方
ボーダーは教養試験(基礎能力試験)と専門試験の組み合わせにより決定するため、その組み合わせは無数に存在します。例えば、同じ80点満点(教養40点・専門40点)の試験で「教養18点・専門26点」が一つのボーダーとなっている場合「教養22点・専門23点」、「教養24点、専門22点」のような別の組合せもボーダーとなり得ます。この記事においては、教養試験の点数を平均点より1〜3点程度上の任意の点数に固定した場合の、合格のために必要最小限となる専門試験の点数を算出するという考え方を採ります。
この仮定の下でボーダーを算出すると、多くの試験種において、教養試験よりも専門試験の方が素点として高い点数が必要となる組合せとなります。これは、教養試験よりも専門試験の方が学習が点数に結びつき易いことから、このように仮定しているものです。(ミクロ経済学の思考を借りて言えば、専門試験の方が、勉強1単位あたりの限界的な得点向上率が高いと考えるのです。もっとも、特定の科目ばかり勉強していると限界的な得点向上率は逓減するため、最終的には教養科目についても浅く勉強することが必要となるわけです。)基本的に、公務員試験においては、専門試験で稼ぐような合格の仕方を目指すことが効率的であると言えます。10年以上前の高難易度の公務員試験になると話は別ですが、近年の公務員試験においては、教養試験は平均点より数点上をキープして、専門試験で他の受験生と差を付けて合格するモデルを目指すことが最も合理的だと考えます。
(なお、国家公務員試験の素点ボーダーの全ての組み合わせについては、追って詳細を別の記事にする予定です。)
それでは、以上の考え方に基づき、それぞれの試験種におけるボーダー等について次のとおり算出及び整理しましたので、ご覧ください。
なお、国家総合職に限らず、ここで紹介するボーダーとはあくまで1次試験を合格するために必要な最低点数のことです。残る専門記述、政策討議、面接試験の点数が平均点(またはC評価)だったと仮定した場合、最終合格に必要な1次試験の点数は、労働基準監督官等を除いて基本的に、ボーダーに0~5点程度上乗せした点数となります。
(0~5点程度と開きがあるのは、年度や試験種により、倍率や標準偏差に開きがあるためです。)
したがって、合格を目指す方は、以下に掲載するのボーダーから素点で数点ほど余裕を持たせた点数を目標とするのがベストです。
国家総合職の1次筆記試験のボーダー
国家総合職試験の1次筆記試験における、近年のボーダーは次のとおりです。
国家総合職試験のうち、大卒程度の試験種を見ると、法律区分はその倍率の高さからボーダーも突出していることが見て取れます。法律区分における1次試験の素点ボーダーは、概ね6割程度が必要となります。一方、法律区分以外の区分においては、素点ボーダーは合計で5割程度の水準で推移していることが分かります。
また、年度によっては法律区分と政治・国際区分のボーダーの乖離が著しく大きくなることもあります。特に顕著なのは令和4年度で、法律区分のボーダーは「教養21点、専門26点」であるのに対して、政治・国際区分では「教養17点、専門18点」となっており、点数が平均点近くに密集する公務員試験においてこの差は甚大です。したがって、人によっては、法学をかじっていたことがあったとしても政治・国際区分でエントリーするのはクールな戦略になり得ます。ただし、令和6年度試験からは政治・国際区分が人文科学系の出題を交えた区分に再編されるため、この傾向に変動が生じる可能性があります。
なお、経済区分は法律区分と比するとボーダーは低いですが、一般的に問題の難易度自体が法律区分よりも高いため、単純にボーダーだけをもって難易度を比較できるとは言い難いのですが、一つの参考材料荷はなり得ます。
また、これはあまり知られていないと思いますが、院卒行政区分の1次試験のボーダーが極めて低いです。近年公務員人気が凋落しているとはいえ、あまりにも低いです。ほぼ基準点(足切り点数)の「教養9点、専門12点」を上回れば1次試験に合格できます。その後の専門記述試験等でふるいにかけるのかと思えばそうでもなく、令和5年度及び令和2年度試験では、ボーダーと同一の点数で1次試験を突破した後、残る専門記述、政策討議、面接試験の点数が平均点(またはC評価)であったとしても最終合格が可能です…。正直、試験としての機能を果たしているかどうかに疑問を覚えます。院卒区分のうち技術系のものだと更にボーダーが低いものも存在します。どうしても国家総合職で入庁したい人は、どこでも良いので大学院修士課程に入って院卒区分等で受験すれば良いのではないかとさえ思ってしまいます。ただ、国家総合職試験では最終合格後にある程度の倍率が生じる官庁訪問が待ち受けているので、そこでフィルタリングを受けることにはなりますが…。
国家一般職の1次筆記試験のボーダー
国家総合職試験の1次筆記試験における、近年のボーダーは次のとおりです。
国家一般職では、このように地域区分によってボーダーが大きく異なることが分かります。繰り返しとなりますが、標準偏差が小さい公務員試験においてこの差が甚大なものです。最も難しいと思われる関東甲信越や近畿区分と、北海道区分の難易度は異次元かと思うほどに異なります。なお、国家一般職においては、出題される問題はどの地域区分においても全て同じであるため、このボーダーをもって、一義的に難易度を比較することが可能です。国家一般職に限っては、「ボーダーの違い=難易度の違い」と捉えて差し支えありません。
また、機関によっては複数の地域区分からの官庁訪問を受け付けているため、志望する機関が明確に定まっているのであれば、あえて自身と所縁のある土地とは異なる区分で受験することは賢い戦略の1つです。(例えば地方整備局等が該当します。その他は人事院のHPから確認してみてください。)
ちなみに、恐れ多いのですが、以上の表では一部割愛させていただいた地域区分もあります。例年地域間の難易度の差異は固定化されていますが、地域区分によるボーダーの違いを基に、近年の地域区分ごと難易度を序列化するのであれば、次のようになります。
- 近畿
- 関東甲信越
- 東海北陸
- 九州
- 沖縄
- 四国
- 中国
- 東北
- 北海道
以上の序列化の算定根拠(押すと開きます。)
このように、特に「近畿・関東甲信越・東海北陸」の3地域が突出しています。
国家専門職の1次筆記試験のボーダー
国家専門職試験の1次筆記試験における、近年のボーダーは次のとおりです。
このように並べると、行政系の国家公務員専門職の中ではやはり財務専門官の難易度が高いと実感します。(ほかに難関な試験として外務省専門職員もありますが、試験内容の相違が大きいことから難易度の比較が難しいです。)
法務省専門職は総じてボーダーは低めですが、これは倍率自体が低いことに相関しています。法務教官Aなどは1次試験の倍率が例年2倍を大きく下回っているので、受験者の平均点以下の点数でも十分に合格水準に達するということになります。(ただし、基準点が12点に設定されているので、教養、専門のいずれかがそれを下回ると足切りで不合格です。)
ちなみに、法務省専門職のうち、矯正心理専門職Bの令和3年度のボーダーがピンポイントに跳ね上がっているのは、試験問題自体が極端に易化し、平均点が釣り上がっていることに起因しています。同様に、財務専門官の令和3年度も同様です。教養試験、専門試験ともに平均点は20点前後となる印象ですが、令和3年度の財務専門官の教養試験平均点は27点代と突出して高くなっています。この年度のデータは異常値のようなものです。
また、労働基準監督官Aは、1次試験では全どの受験生を落とさないという特徴があります。1次試験の倍率は1.2倍程度です。したがってこのようにボーダーが著しく低くなっています。労基といえば労働法が出題されることで知られていますが、このように筆記試験のボーダーが極端に低いため、労基が第一志望でもない限り、労基の受験対策のためだけに労働法を勉強する必要は無いと考えています。2次試験においても、絶対的な人物試験により合否が判定されるため、1次試験で点数を稼ぐことに大きな意味はありません。ところで、国家公務員試験における人物試験は、基本的には、標準点に換算され筆記試験の評価と合算された上で合否を判定することとなり、また人物試験の標準偏差の小ささから多くの受験生は中央値の評価に収束するため、1次試験のボーダーによって、その試験のある程度の難易度を測ることができます。一方で、こと労働基準監督官に限っては、人物試験(面接試験)において絶対評価に基づく合否判定が行われるため、1次試験のボーダーのみをもって試験の難易度を測ることが困難なのです。
ちなみに、異試験種間での定量的な比較には困難が伴うため、私の感覚(偏見)も交えた定性的な比較となってしまい恐縮ですが、あえて難しさに序列を付けるとすれば、以下のようになると思います。
- 財務専門官
- 国税専門官
- 労働基準監督官
- 法務省専門職(ただし試験種によって難易度の差は大きい。)
余談:平成24年度試験の難易度について
最後に余談ですが、過去に、突出してすべての公務員試験が大きく難化した年度があるのをご存知でしょうか。この見出しのとおり、平成24年度には、民主党政権化で公務員制度改革と称して、国家公務員の採用数を大幅に抑えられていたという経緯があります。当然、自民党が政権を取り戻してからは従来どおりの運用に戻っています。
個人的には、平成24年度頃の公務員民主党政権における、現実を顧みない政策を象徴するものの1つだと思っています。
平成24年度の国家公務員試験における1次試験のボーダーを整理すると、次表が得られます。
上掲の近年のものと比べると一目瞭然で、平成24年度は他年度とは異次元の難易度となっています。特に顕著なのは財務専門官です。「教養26点、専門33点」を取らなければまず1次試験にさえ合格できないという現象が生じていました。民主党政権下で採用数が抑えられ、倍率が高騰したため、最終合格のハードルも高くなっていました。例えば、2次試験の成績がこの年度の平均である「専門記述52点、面接試験C評価」と仮定すると、この条件で最終合格するために必要な1次筆記試験の点数は、「教養29点、専門34点」です。
「教養29点、専門34点」なんて誰が取れるんでしょうか…。私が初めて公務員試験の受験生となったのはこの頃ですが、大変驚かされたものです。
まとめ
- 国家公務員試験は、試験のボーダーを1点単位で算出できる。
- 国家総合職試験は、法律区分において、1次試験合格のために最も高い点数が必要となる。
- 国家一般職試験行政区分では、「近畿、関東甲信越、東海北陸」の区分においてボーダーが高い。
- 国家専門職(行政系)では財務専門官のボーダーが高めである。