地方公務員法は国家公務員法と内容が似通っているため、国家公務員と地方公務員の人事制度も当然に近しいものとなっています。たとえば、欠格条項、守秘義務、職務専念義務等、基本的には同様の取扱いとなっています。
一方で、その細則や具体的運用については、少し違いが見られます。この記事では、国家公務員と地方公務員のキャリア制度の違いについて解説します。
昇任(又は昇格)の速さ
まずは、昇任の速さについてです。端的にいうと、国家公務員と地方公務員では、以下の違いがあります。
- 国家公務員:昇任・昇格の速さは、ほぼ採用試験の区分によって決まる
- 地方公務員:昇任・昇格の速さは、採用後、昇任試験や本人の意思によって決まる
詳しくは次のとおりです。
国家公務員の場合
国家公務員の場合、基本的に昇任の速さは、採用試験と、どの機関で採用されるかによります。言い換えると、採用の時点である程度キャリアが規定されてしまうということになります。
最も昇任が早いのは、国家総合職(旧:国家1種)の区分に合格して、いずれかの官庁に採用された場合です。この場合、採用後5年程度で係長級、10年以内に課長補佐級、20年以内に本府省の管理職(室長級・俸給表上の7級)に昇格することになります。又は、地方出先機関へ出向する場合は、採用後10年にも満たないうちに出先機関で管理職等を経験することになります。
次いで昇任が早いのは、国家一般職(旧:国家2種)の区分に合格して、霞が関の本府省等に採用された場合です。この場合、本府省の管理職(俸給表上の7級)になれる可能性は高くはありません。国家公務員の場合は飽くまで採用試験の区分が重要になります。なお、国家一般職として地方出先機関として採用された場合、霞が関の本府省に採用された場合と比して少しだけ俸給表上の昇格は遅くなり易いです。国家総合職と国家一般職のキャリアパスについては以下の記事において詳述しておりますので、よろしければご覧ください。

前二つよりも昇任が遅くなるのが、国家一般職の高卒者試験(旧:国家3種)の区分に合格して、いずれかの機関に採用された場合です。かなりうまくいった場合は本府省の管理職になれることもありますが、基本的には本省課長補佐級で定年を迎えることになります。地方出先機関に採用された場合は、当該機関で管理職になれる確率はもう少し高くなります。
また、国家公務員の場合は、同一の採用区分の中ではあまり大きな差はつきづらいです。
地方公務員の場合
地方公務員の場合は、とにかく採用後の昇任試験に合格できるかどうかによってキャリアパスが決まることになります。昇任試験を受けないという選択もできるところが多いため、そういった意味では本人の意思によってキャリアパスを選ぶこともできます。
また、これはどの自治体においても同様の傾向があります。都道府県庁、政令指定都市、特別区、一般市のいずれにもおいても同じ傾向があるのです。
具体例として、特別区1類の試験を受けて東京23区に採用された場合を取り上げます。
- 採用後5年目に主任級に昇格するための試験(主任試験)を受けられる。合格率は3割程度。一発で合格する人もいれば、10年以上かかる人もいる。
- 最速でキャリアパスを歩んだ場合、採用後6年目で主任となり、11年目で係長となり、20年もしないうちに管理職(課長級)になる。
- 平均的には、管理職にならないまま定年を迎える職員が多い。
自治体によっては、そもそも主任試験や係長試験を設けておらず、管理職試験のみを設けているところもありますが、いずれにせよ、地方公務員の場合は昇任試験の出来によって昇任の速さが人によって異なるという特徴は共通しています。
降任制度(希望降任・希望降格)
もう一つ、あまり意識されることは少ないのですが、国家公務員と地方公務員によって違いのあるものとして、「希望降任(希望降格)」の制度があります。
- 希望降任:職員が自ら希望することにより、下位の職務に降りること
国家公務員の場合
まず、国家公務員の場合は、下述する「希望降任」の制度はありません。基本的には一律に昇格していき、一度上がれば降格することはあまり前提にしていないのが国家公務員です。
地方公務員の場合
地方公務員の場合は、自治体にもよりますが、希望降任の制度を置いているところは多いです。また、その要件は自治体がそれぞれ定めていますが、家庭の事情、疾病、職責の増大への心理的負担等により「その職責を果たすことが困難であると感じる者」と幅広く定められている場合が多いです。
むろん、本人が希望するだけで降任が成立するわけではなく、承認権者が承認する必要があるとしている自治体が多いですが、運営上は、本人の希望どおり降任となることがほとんどです。
- 上述のとおり、昇格の速さや職位を採用後に自身の希望によってある程度コントロールできることから、公務員のキャリアパスについては、総じて地方公務員の方が柔軟な制度となっていることが多いと考えています。
出向
一方で、国家公務員におけるキャリアパス上の強みもあると考えています。その一つが出向等の制度についてです。
国家公務員の場合
国家公務員の場合は、特に国家総合職の場合は出向の機会が多いです。人によってはメリットにもデメリットにもなり得ます。出向先のパターンとしては、以下のようなものが多いです。
- 本府省等から他の本府省等に対して、出向元と同じ程度の職位で出向する場合
(入庁後すぐから管理職になるまで幅広く機会がある) - 本府省等から、当該本府省等の所管の出先機関に対して、管理職等として出向する場合
(本府省等の係長~課長補佐級が出先機関の管理職として出向することが多い) - 本府省等から、自治体に対して、管理職等として出向する場合
(本府省等の係長~課長補佐級が自治体の管理職として出向することが多い) - 本府省等から、関係する独立行政法人、株式会社、その他関係団体に出向する場合
(入庁後すぐから管理職になるまで幅広く機会がある)
「出向」と聞くとマイナスイメージを抱かれる方もいらっしゃいますが、公務員の現場では、多様な経験を積むことができるちいう点で前向きな出向がほとんどです。管理職になるまでに複数回の出向を経験することがほとんどです。
また、これは厳密には出向ではなく研修に位置付けられるものですが、国家公務員の場合、大学院に派遣される場合があります。行政官長期在外研究員制度、行政官国内研究員制度といった名称の制度で、それぞれ海外や国内の大学院において研究に従事するというものです。当然学費も支給されます。このように学費まで職場が負担するという制度は自治体ではあまり見かけないため、国家公務員特有のメリットといえます。
地方公務員の場合
対して、地方公務員の場合は、その機会はそこまで多くありません。たとえば国家総合職で入庁した場合はほとんどの職員が出向を経験しますが、地方公務員の場合は定年を迎えるまでに一度以上の出向を経験する職員は圧倒的少数派です。
機会は多くはないものの、自治体からの出向先としては以下のものが考えられます。
- 他の自治体に対して出向する場合
(東京都と特別区、大阪府と大阪市等、基礎自治体と広域自治体の間での人事交流は多い。) - 民間企業に対して出向する場合
(あまり多くはないが、自治体によっては民間企業と人事交流を行っているところもある。) - 国の機関に出向する場合
(あまり多くはないですが、内閣官房や本府省等への出向もあり得る。)
なお、自治体の場合は出向を経験することが少ないため、出向経験者は良い意味で目立つことが多いです。キャリアを期待されている職員が出向者に充てられる印象もあります。