このサイトでは、既に、公務員の法制業務について以下のような記事を作成しております。

以上の記事は、地方公務員・国家公務員の別を問わず、幅広く法制業務全体について取り扱ったものですが、今回は、特に国家公務員に焦点を当てます。
現職の公務員の方に向けて正確な内容を提供する趣旨ではなく、雑談の趣旨で、広く一般に向けて発信するものです。また、取り上げる用語の中にはスラングのようなものを含むことからも、内容の正確性を保証できかねますので、ご了承ください。
それでは、国家公務員の法制業務の現場において用いられる用語(俗語)について、紹介します。
5点セット
最初に、「5点セット」について紹介します。
法制業務の中でも、この語が関係するのは、法律又は政令の改正を行う場合です。
法律又は政令の改正を行う場合に、霞が関において、作成が必要となるお決まりの資料があります。具体的には以下のものです。
- 案文
- 理由
- 要綱
- 新旧対照表
- 参照条文
霞が関のスラングとして、これらの資料のことを総称して5点セットと呼ぶのです。
もともとスラングなので正解はないのですが、「案文」と「理由」を一つのファイルにまとめた上、更に「概要」の資料を付けたものを5点セットと言う場合もあるようです。
かなり浸透している言葉のようで、特定の省庁内で使われるのみならず、省庁間のやり取りにおいても用いられる印象があります。
協議(法令協議・各省協議)
続いて、「協議」についてです。単に「協議」と呼ばれるほか、「法令協議」や「各省協議」とも呼ばれることがあります。
協議とは
各省庁が改正や制定を予定している法案については、それぞれの法令を所掌する各省庁が案を作ります。
しかし、各省庁が所掌している法令は、他の省庁においても関係するものが多いです。そうすると、改正や制定を行う法令がある場合に、その案を作成する省庁以外の省庁等に対しても、確認をしてもらうことが望ましいのです。
特に複合的な領域の政策については、協議の必要性は特に高いと言えます。たとえば、防災行政なんかはその一つです。一口に防災といっても、国土交通省のほか、防災訓練という意味であれば内閣府が所管していますし、復興という意味合いでは復興庁にも関係します。
そこで、霞が関の法制業務の現場では、案が固まった場合に、上述の5点セットを各省庁等に共有して、内容を確認してもらうということを行っています。これが、協議(又は法令協議、各省協議)です。
協議の対象
各省庁等が改正等を行う法規には様々な種類のものがあります。
たとえば法律、政令のほかに、省令、規則、告示等が挙げられます。
このうち、実務上、協議の対象となっているのは、基本的には「法令」に当たる法律と政令のみのようです。
また、明確なルールはおそらく無いものの、閣法については基本的に各省庁等への協議が行われるのに対して、議員立法については、行われないことが多いです。
協議の法的根拠
協議は、何等かの法令に根拠を持つものではないと言われます。
対して、法制業務における実務上の必要により、いわば慣例的に行われているものだと理解されているようです。
ショートノーティス
官僚の法制の現場は、とにかく締切との戦いになります。その流れを汲んで、協議の特徴の一つとして、とにかく期限が短いということがあります。
協議を発出する際、その回答期限は、だいたい数日後程度に設定することが多いです。
協議を受け取った法令担当者は、それを速やかに各省庁内に展開して、もし意見等を述べる場合は、大至急その組織内の意見を取りまとめる必要があります。
大抵の場合、協議の窓口となっている各省庁等の担当者は、他の仕事も多数抱えていたり、自身も法案の制定・改廃に携わっていたりすることが多く、これらの業務に忙殺されることになるのです。
法令以外が協議されることもある
協議の対象は法令が主と述べましたが、それ以外の性格のものが各省に協議されることもあります。
たとえば、各省庁等が策定する「白書」の類や、「〇〇計画」、「〇〇指針」と名の付くようなものです。法令ではないものの、各政策領域の観点からの確認を行うことが望ましいという趣旨に基づくものと考えれます。
内閣法制局の審査
内閣法制局の審査とは
法令協議を経て、各省庁の案が確定したのち、法案は、内閣法制局の審査に付されます。
内閣法制局によれば、以下のような観点について審査が行われるとされています。
- 憲法や他の現行の法制との関係、立法内容の法的妥当性
- 立案の意図が、法文の上に正確に表現されているか
- 条文の表現及び配列等の構成は適当であるか
- 用字・用語について誤りはないか
この内閣法制局の審査を経た法案は、その後、閣議決定に向けて閣議の請議に付されます。
cf.法制業務の流れ
法制業務の流れは、その法規の種類にもよりますが、ここで、改めて、法律を制定又は改廃する場合、以下のようになります。
- 各省庁における法案作成
- 他省庁への協議
- 内閣法制局の審査
- 閣議決定
- 国会へ提出
- 衆参議員で可決
- 法律の成立
- 法律の公布
- 法律の施行
束ね法案
「束ね法案」という言葉があります。
法律の改正に焦点を当てて紹介します。法制業務の基本的なルールとして、法律は法律によって改正するといものがあります。
たとえば、A法という法律を改正する場合、一つのやり方として、「A法の一部を改正する法律」といった名称の法律(改正法)を成立させることによってA法を改正するというやり方があります。
そのほかにも、A法を、別の法律であるB法の改正と併せて、「B法等の一部を改正する法律」によって改正することも可能なのです。
このように、一つの改正法において、複数・多数の法律をまとめて改正するような法案のことを、束ね法案といいます。
タコ部屋
ここまではそこそこ真面目に紹介してきましたが、最後に紹介するのは、少し雑談めいた内容になります。
タコ部屋とは
霞が関で用いられれる言葉の一つに「タコ部屋」というものがあります。スラングのはずですが、なんとウィキペディアに記事が作成されておりました。タコ部屋の定義を引用すると以下のとおりです。
タコ部屋(タコべや)は、日本の官僚が法案作成の都度設置し、一定期間、集中的に作業するための部屋。すなわち、法案準備室、または立法準備室、法制化準備室のことを指す霞が関で使われる用語である。
タコ部屋 (日本の官僚) – Wikipedia
法制業務を扱う部署は、役所の中でも集中的に忙しいことで有名です。それを揶揄するような意味合いで、「タコ部屋」という表現が用いられている印象があります。
法制業務というと専門的の高い印象がありますが、実際には、定例的な改正や、表面的・体裁的な改正を行うだけで済むような案件もあります。「タコ部屋」では、そのような簡易的なものではなく、重厚な案件を扱っているイメージです。