国家公務員、地方公務員とわず、公務員は法令等を制定したり、改正したりする業務に従事する機会があります。
国家公務員の場合は特に霞が関の本府省庁等に採用された場合は、法律、政令、府省令、告示等の法制執務に携わることがありますし、地方公務員の場合は、当該自治体の条例、規則等の法制執務に携わることがあります。
このサイトでは、過去に、公務員がよく用いる用語等について以下のような記事を作成しております。

以上の記事は、公務員が広く一般的に用いる用語等について紹介したものですが、対して、この記事では、飽くまで法制執務に着眼点を置いて、法制における特徴的な用語の使い分けについて少しだけ紹介します。
「及び」と「並びに」
「及び」と「並びに」の使い分け
最初に紹介するのは、「及び」と「並びに」の使い分けです。
いずれも並列の意味を持つ言葉であるという点は同じですが、法制の現場では、意味を持って使い分けられています。あるいは、法令に限らず、公文書一般においても同様に使い分けられているものを見かけることも多いです。
「及び」と「並びに」は、端的にいうと以下のとおり使い分けられます。
- 「及び」 :より性質やレベルの近しいもの同士を接続するために用いる。
- 「並びに」:性質やレベルが異なるもの同士を接続するために用いる。
基本的に使用頻度が高いのは「及び」の方であるイメージですが、「及び」を用いる場合に、更に性質の異なるものや、高次のレベルのものなどを接続したいときに、「並びに」を用いることが多いです。
「及び」と「並びに」の使い分けについては、霞が関や全国の自治体でも参考にされている、「法制執務ワークブック」にも記載されています。現職公務員の法制担当の方であれば、職場に備え付けられていることも多いと思います。
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「及び」と「並びに」の例文
これを踏まえると、以下のような例文を作ることができます。
- この補助金は、千葉県及び東京都、並びに横浜市及び川崎市に対して交付された。
この例文では、「千葉県」と「東京都」はどちらも都道府県の一つであるので、同じ性質のものとして「及び」で繋いでいます。同様に、「横浜市」と「川崎市」はどちらも政令指定都市の一つであるので、同様に「及び」で繋いでいます。
さらに、「千葉県及び東京都」という都道府県のグループと、「横浜市及び川崎市」という政令指定都市のグループはレベル感が異なるものですが、この二つのグループを繋ぐために「並びに」を用いています。
「削る」と「削除」
「削る」と「削除」の使い分け
もう一つ、「削る」と「削除」の使い分けについて紹介します。
上述の「及び」と「並びに」の使い分けは文書一般においても意識されることが多いですが、「削る」と「削除」の使い方は、どちらかというとより法制執務のテクニカル的な話です。
「削る」や「削除」は、主に法令を改正するときの改め文や新旧対照表で用いられる言葉です。その使い分けは、端的にいうと次のとおりです。
- 「削る」 :その条項自体を消去する場合に用いる。条項自体が無くなることに伴い、続く条項を繰り上げる必要がある(いわゆる「条ズレ」が生じる)。
- 「削除」:規定は消去するが、条項自体は残す場合に用いる。
これだけではイメージしづらいと思いますので、具体例を踏まえてお伝えします。
具体例
たとえば、民法を引用して考えてみます。現行の民法第90条から第92条までは次のとおりです。
民法(明治29年法律第89号)
(公序良俗)
民法 | e-Gov 法令検索
第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
(任意規定と異なる意思表示)
第91条 法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
(任意規定と異なる慣習)
第92条 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。
このとき、第91条を「削る」こととした場合、「削除」した場合のそれぞれにおいて、改正後に条文がどのようになるかを見いきます。
(もちろん民法第91条が改正される予定等があるわけではありませんが、単に例として取り上げやすいことからこの条文を選んでいるに過ぎません。)
「削る」改正を行った場合の例
仮に民法第91条を削る改正を行った場合、改正後の条文は以下のようになります。
(公序良俗)
第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
(任意規定と異なる慣習)
第91条 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。
第二節 意思表示
(心裡留保)
第92条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
仮に民法第91条を削る改正を行った場合、「(任意規定と異なる意思表示)」の規定は跡形も無くなることになります。「削る」場合には条項も無くなるため、それ以降の条文がすべて一つずつズレることになります。つまり、改正以前に第92条であった規定がそのまま第91条になり、改正以前に第93条であった規定が第92条になり……といった具合になります。
「削除」する改正を行った場合の例
一方、仮に民法第91条を削除する改正を行った場合、改正後の条文は以下のようになります。
(公序良俗)
第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
第91条 削除
(任意規定と異なる慣習)
第92条 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。
「削除」する改正を行った場合は、以上のように、「第91条」という条項だけはそのまま残り続けます。その中身の条文は削除されますが、代わりに「削除」という文言が残ることとなります。
「削除」方式が実際に使われている法令の例
「削る」と「削除」のいずれを用いるかについては、一長一短があるため、テクニカル的な事情によって使い分けられています。ただ、実務では、「削る」方式によって改正されることが多いです。
一方で、有名な法律でも、「削除」方式が用いられている例があります。例えば民法においては、なんと第38条から第84条までのすべてが「削除」されています。
民法(明治29年法律第89号)
第三十八条から第八十四条まで 削除
民法 | e-Gov 法令検索