公務員試験は、ある程度試験科目が重複していることが多いことから、日程の被らない限り併願をすることが一般的かと思います。その中でも特別区Ⅰ類と東京都(都庁Ⅰ類)については、日程が重複していることが多いため、そのいずれを受験するかを迷われる方も多いようです。
この記事では、比べられることの多い特別区と東京都について、就職先という観点から比較をしていきます。
まとめ【一覧化】
先に本記事のまとめをお伝えします。今回は、「仕事内容」「転勤」「給与」「出世」「定年後再就職先」「ワークライフバランス(WLB)」の六つの観点から比較を行いましたので、その結果を一覧化すると次のようになります。かなりざっくりいうと、キャリア志向の東京都に対して、WLB重視の特別区という構図とも読み取れると思います。
東京都職員と特別区職員の職場としての比較 | ||
観点 | 【東京都】 | 【特別区】 |
①仕事内容 | 広範・調整・企画業務多め | 窓口業務多め |
②転勤 | 勤務地の変更を伴う異動あり | 勤務地の変更を伴う異動なし |
③給与 | 平均年収700万円より少し高め | 平均年収700万円程度 |
④出世 | 管理職以上になれる可能性高め | 管理職以上になれる可能性低め |
⑤定年後 | 区の副首長、会社役員等への再就職あり | 区内の関係法人への再就職が中心となる |
⑥WLB | やや超過勤務多め | 東京都よりは超過勤務少な目 |
以下では、それぞれの項目について詳細をお話しします。
①仕事内容
仕事内容については言うまでもありませんが、基礎自治体としての特別区においては、住民(区民)と接する機会が多くなります。広域自治体としての東京都においても住民(都民)と直接的に接する仕事はありますが、その頻度は特別区と比較すると格段に小さくなります。特別区に対して、東京都では、より広範的で、調整や企画に係る業務が多くなります。
イメージしづらいかと思いますので、福祉行政を一例に取り上げてみます。福祉行政といっても多岐に渡りますが、たとえば障害者福祉の場合には、都内で代表的な事務といえば身体障害者手帳の交付があります。身体障害者手帳は一義的には東京都が発行する主体となっていますが、実際には、住民から申請書を受理するなどの窓口的な事務は、東京都の代わりに各特別区が担っています。それでは、東京都は何をしているかというと、各特別区が受理した書類をチェックしたり、身体障害者に該当するかどうかを判断する医師の認定(身体障害者福祉法第15条)を行ったりといった、二次的、あるいは広域的な事務を行っています。また、制度についても適時見直されることもありますが、国(厚生労働省)から告示や通達を受け取って、都内における運用を考えることも東京との仕事です。
②転勤
勤務地をめぐる状況については、特別区と都庁で大きく異なります。端的に言えば、転勤が生じることがまず無い特別区に対して、東京都では転居を伴わない勤務地の変更(異動)は頻繁に発生します。東京都は面積が狭いといえでも、都庁に採用された場合はその全土で働く必要が生じることとなります。たとえば都庁Ⅰ類で採用された場合に、職員のうち、新宿区にある本庁舎で勤務しているのは三分の一程度です。残りは東京都内の建設事務所、区・都立学校(区立小中学校で働いている事務職員の多くは東京都で採用された職員です。)、都税事務所等の出先機関で働いています。
なお、東京都職員は三宅島、八丈島島の「島しょ」についても勤務地の対象になりますが、これらの場所に無理に転勤させられるということはほぼありません。家庭の事情等を配慮して、希望者を募る形が採られています。
③給与
給与については、大雑把に言えば「東京都の方がほんのわずかに高い。」ということになると考えます。公表されている平均年収でいえば、東京都が700万円強、各特別区では700万円程度です。月の平均給与で比較すると、東京都が45万程度、特別区がおおむねそれより1~2万円程度低いくらいです。
また、東京都は公式サイトで給与のモデルを公開しています。その一つとして、45歳課長で1,020万円強というものがあります(実際にはもっと早く課長級に上がることも可能です。)。特別区も課長に昇進したくらいから年収が1,000万円を超えてきますし、課長には45歳くらい、早ければ40歳よりも前になること自体は可能ですので、そういった意味では東京都と同じです。それでは、なぜ東京都の方がわずかに給与が高いのかというと、その違いは役職の多さに起因するものだと考えています。東京都においては、事務系職員約2万人のうち、9.3%が管理職に該当します。一方で、特別区の場合、職員のうち管理職の占める割合は、最も高い千代田区においても8.8%であり、最も低い練馬区では2.4%となっており、軒並み東京都よりも低くなっていることがわかります。(特別区の管理職の割合については、以下の記事にまとめていますので、気になる方はご覧ください。)
④出世
前述のとおり、東京都の方が管理職ポストが多く配置されいますので、やや出世しやすいということになります。ちなみに、ポストの種類についても、局制を敷いている東京都の方がやや豊富となっています。
また、東京都と特別区の昇任の制度は似通っており、いずれも主任級及び課長級に上がるタイミングで大きな昇格試験があります。それぞれ主任級職選考、管理職選考と呼ばれています。一方で、係長級に上がる際にも選考はありますが、希望すれば昇格できる場合が多いため、試験勉強を必要とするものではないです。
- 東京都:主事(1級)→主任(2級)→課長代理(3級)→課長(4級)→部長(5級)→局長→副知事
- 特別区:係員(1級)→主任(2級)→係長(3級)→統括係長(4級)→課長(5級)→部長(6級)→副区長
⑤定年後再就職先
また、学生の方からすればあまり意識されることは少ないかもしれませんが、幹部として定年を迎えた後の再就職先については、東京都の方が圧倒的にに豊富となっています。
特別区職員の再就職先としては、各区内の財団法人や社会福祉法人、医師会等が中心となります。
東京都職員の再就職先としては、それらに加えて、特別区の副区長や教育長、東京電力HDや東京メトロ等の関係会社の役員といった、名だたるポストが並んでいます。
⑥ワークライフバランス
明確な公表資料こそありませんが、ワークライフバランスについて比較した場合には、平均的には特別区に軍配が上がると考えます。
私個人が特別区職員として勤務した経験や、現役職員からの伝聞によるものに過ぎませんが、東京都職員よりも特別区職員の方が、超過勤務の時間数が少ないと感じます。その理由の一つに、特別区における窓口系業務の多さが挙げられます。特に特別区の戸籍・住民系や福祉系部署の仕事は、開庁時間中は忙しいものの、閉庁後(17時頃)を迎えて住民が窓口に来なくなるとその日のタスクを終えて退庁できることが多いのです。
定量的な比較はデータが乏しいため難しいですが、しいていえば、職場の口コミサイトである「Openwork」は、このサイトでも信憑性の高いものとして度々取り上げておりますが、同サイトによると、東京都の平均超過勤務時間は閲覧時点で平均27時間となっていますが、23区のうちこれを上回っているのは一つ(中野区)のみです。特別区における多くの区を上回っていることが分かります。