公務員として継続して勤務すると取得することができたり、試験で優遇措置を受けることができる資格があることをご存知でしょうか。もちろん無差別に資格を取得できるわけではなく、公務員の中でも特定の仕事に就いた場合に、特定の資格を取得するなどが可能となっています。
このサイトは公務員試験向けのコンテンツを多く扱っていますが、受験生の時から、将来の可能性を見据えて、資格取得が可能な公務員を目指すということは良い選択の一つだと考えます。将来のキャリアに幅を持たせることができるからです。
この記事では、公務員として継続して勤務すると取得できる資格として、行政書士、司法書士、弁理士、税理士及び社会保険労務士について紹介していきます。
行政書士の資格を取得できる公務員
勤続することにより取得できる資格のうち、最も代表的なものとして、行政書士が挙げられます。以下のとおり、行政書士法に定めがあります。該当するのは第二条第六号の括弧書き部分で、多くの場合、公務員として「行政事務に相当する事務」に17年以上携わることで、行政書士資格を得られます。「行政事務に相当する事務」とある程度幅を持たせているように、地方公務員・国家公務員問わず、ほとんどの公務員が該当します。
第二条 次の各号のいずれかに該当する者は、行政書士となる資格を有する。
一 行政書士試験に合格した者
(中略)
六 国又は地方公共団体の公務員として行政事務を担当した期間及び行政執行法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人をいう。以下同じ。)又は特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人をいう。以下同じ。)の役員又は職員として行政事務に相当する事務を担当した期間が通算して二十年以上(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)による高等学校を卒業した者その他同法第九十条に規定する者にあつては十七年以上)になる者
「行政書士法」e-Gov法令検索
司法書士の資格を取得できる公務員
続いて、司法書士の資格についてはどうでしょうか。司法書士が取り扱える業務の範囲は、行政書士のそれを拡大したようなものとなっており、行政書士の上位互換の資格として捉えられることもあります。それゆえ、公務員勤続による資格取得の要件は、さらに厳しめとなっています。
司法書士は、裁判所事務官、裁判所書記官、法務事務官若しくは検察事務官として10年以上勤務することで資格を得られます。裁判所事務官については、もちろん採用試験の別(総合職又は一般職)は問いません。司法書士試験はかなり難関な資格として知られており、合格率は例年4~5%程度です。たとえば司法試験の合格率は(法科大学院修了の要件はありますが)40%程度ですので、司法試験よりも難しいとされることもある司法書士試験を10年間の勤務により免除されるというのは、とても魅力的に思えます。
最も平易なルートは、国家一般職として検察事務官になるか、裁判所事務官(一般職)として10年間勤務する場合だと考えられますが、いずれも司法書士試験を突破するよりも難易度は大きく下がります。
ちなみに、このことは、以下のとおり司法書士法に規定されています。
第四条 次の各号のいずれかに該当する者は、司法書士となる資格を有する。
一 司法書士試験に合格した者
二 裁判所事務官、裁判所書記官、法務事務官若しくは検察事務官としてその職務に従事した期間が通算して十年以上になる者又はこれと同等以上の法律に関する知識及び実務の経験を有する者であつて、法務大臣が前条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行うのに必要な知識及び能力を有すると認めたもの
司法書士法 | e-Gov法令検索
弁理士の資格を取得できる公務員
続いて、弁理士資格です。念のためですが、弁護士ではありません。ざっくりいうと、知的財産権(特許権、商標権等)の申請手続を特許庁に対して行うなどの業務を行うことができる資格です。その業務内容から類推できるとおり、弁理士は、特許庁において特許審査官や商標審査官等として採用され、その後7年以上勤務した場合に資格を取得できます。
ただし、特許庁の特許審査官は国家一般職としての採用はなく、国家総合職試験のみですので、その意味ではハードルは高いです。
また、特許庁の商標審査官についても、試験区分は国家一般職試験ですが、特許庁に採用されることは全ての官庁の中でも随一の難易度ですので、狭き門です。また、特許庁は本府省の中でも労働環境が屈指のホワイトであることでも知られていますし、あえて特許庁職員を捨てて弁理士としてのキャリアを選ぶことの意義はそう大きくはないかもしれません。
とはいえ、普通に受験すればかなりの難関である弁理士資格をわずか7年の勤務で得られることは大変に魅力的です。ちなみに、この規定は以下のとおり弁理士法第七条に置かれています。
第七条 次の各号のいずれかに該当する者であって、第十六条の二第一項の実務修習を修了したものは、弁理士となる資格を有する。
一 弁理士試験に合格した者
二 弁護士となる資格を有する者
三 特許庁において審判官又は審査官として審判又は審査の事務に従事した期間が通算して七年以上になる者
弁理士法 | e-Gov法令検索
税理士の資格試験において優遇措置を受けられる公務員
続いて、税理士についてです。対象範囲もそこそこ広く、公務員から税理士に転身する人はそこそこいらっしゃいます。税理士の場合、国税専門官等としてかなり長く務めた場合には税理士資格を得られますが、そのほか勤続期間に応じて資格試験のうち複数科目の免除措置を受けることができるという制度になっています。
根拠規定(税理士法)は複雑であるためここでは省きますが、公務員から税理士になるには、主に以下のようなルートがあります。
- 国税の税務調査事務に10年以上携わった場合……5科目のうち国税に関する3科目を免除
- 国税の税務調査事務に23年以上携わった場合……全科目免除(税理士登録可能)
公務員として国税の税務調査に携わることのできる職はいくつもありますが、それが定常的に可能なのは国税専門官です。国税専門官として10年間勤務したのち、簿記論と財務諸表論の2科目を受験・合格して税理士に転身するというパターンがほとんどです。
ちなみに、地方公務員においても、10年以上税務調査事務に携わることで科目免除を受けられますが、異動を前提とする地方公務員として税務関係部署のみに携わり続けることは現実的ではないため、ここでは詳述しません。
社会保険労務士の資格試験において優遇措置を受けられる公務員
最後に紹介するのは、オマケ程度ですが、社会保険労務士です。
社会保険労務士は資格試験において10科目が課されますが、そのうち、公務員の勤続期間に応じて科目免除を受けることができるものがあります。その科目別に要件が異なっており複雑であるためここでは詳述しませんが、代表的なものは、労働基準監督官や労働局(国家一般職)として採用され、10年以上勤務した場合に科目免除を受けられるといったものです。
また、地方公務員として国民年金に係る事務に10年以上携わった場合には国民年金法の科目免除を受けることができるとされていますが、税理士と同様に、地方公務員は部署の異動を前提としているため、一つの仕事を10年間続けることは現実的ではありません。