地方公務員試験においては、多くの場合、受験申込の時点で志望動機を提出することになります。内容は数十文字から数百文字程度と僅かであることが多いですが、選考プロセスが進んで面接試験に至ると、提出した志望動機を基にして面接が展開されることが基本ですので、侮れません。よく考えて志望動機を提出することが重要です。
この記事では、地方公務員、とりわけ基礎自治体(政令市、中核市、その他市役所、特別区)の志望動機について、その書き方や、おすすめの文例、さらには、志望動機のパターン別に注意すべきこと等を記していきます。
なお、筆者は新卒で地方公務員となったのちも公務員試験を受験し続け、国家公務員(総合職)を経た後、公務員試験の論文試験や面接試験対策に関わらせていただいています。
悪い志望動機とは?良い志望動機とは?
さて、良い志望動機とは何でしょうか。一言でいうと、内容が抽象的すぎない志望動機、あるいは、展開させることができる志望動機が良いものだと考えています。
悪い志望動機の例
たとえば、以下のような志望動機は好ましくありません(実際に私が相談を受けたことのある志望動機を基に例示しています。)。
『私は、幼い頃から人の役に立つことが好きでした。そのため、大学時代にはボランティアサークルに所属し、その活動に尽力してきました。大学を卒業した後も、行政という立場から人の役に立つ仕事をしたりしたいと考えております。貴市に採用していただいた暁には、私の強みを活かして、市政に貢献したいと考えております。』
この志望動機の最も良くない点は、具体的に自治体において何がしたいのかが書かれていないことです。あくまで基礎自治体の志望動機ですから、ある程度はその自治体のことを調べた上で、行政に係る情報も内容に含めるべきです。面接官の立場からすれば、次のように思われてしまうおそれがあります。
(自治体のことをあまり知ってくれていないのかな…)
(何をどこから質問していいか迷うな…)
(それなら民間でもいいんじゃないかな…)
(人の役に立たない仕事なんてないと思うけどな…)
以上を含め、この志望動機について望ましくない点を列挙すると、以下のものが考えられます。
- 具体的に自治体において何がしたいのかが係れていない(Howの不明瞭)。
- 自己の経験についての記載が抽象的で、コンピテンシーが読み取りづらい(Whyの不明瞭)。
- 志望動機と自己PRを混同している。
- 「たり」を単独で使用してしまっている(「たり」を使用する場合は文中で二度使う必要がある。)。
- 文末の表現「考えております。」が連続している。
- 「暁には、(中略)貢献したいと考えております」とするにしても、「貢献します」と言い切るべき。
良い志望動機の例
これらの点を踏まえ、たとえば、同程度の分量で、同じような内容で志望動機を作成する場合には、以下のような記述とすることが望ましいです。
『私は、大学において所属しているボランティアサークルにおいて渉外部長を務め、市内の地域団体との折衝を経験してきました。大学卒業後も、地域共生社会に係る先進的取組を行っている貴市において、地域活動の推進や福祉行政に携わりたいと考え、志望に至りました。』
いかがでしょうか。文字数は先ほどよりも少ないにもかかわらず、志望動機として必要最小限の情報(Why・How)が備えられています。特に、Howの部分では、このようにどのような政策分野に関わりたいかを明示することは重要です。さらに、この例ではあえて「地域共生社会」といった用語を出しているのも試験対策としてクールです。このような志望動機であれば、面接官も次のように話を展開しやすいです。
「具体的にどのような地域団体と関わりがあったのですか?」
「ボランティアサークルとは、普段は何をしているのですか?」
「なぜサークルで渉外部長を務めることになったのですか?」
「地域団体との折衝で最も困難だったことは?」
「当市が地域共生社会の先進事例であることはどこで知ったの?」
「当市の福祉行政における課題は何だと思いますか?」
それでは、以下では、より具体的に、おすすめできる志望動機のパターンをいくつか紹介していきます。
Whyのパターン①:学問の専攻分野から志望動機に繋げる場合
良い志望動機の典型的な例として、学問の選考分野から志望動機に繋げる場合のものが挙げられます。たとえば、端的にいうと以下のような例です。
『私は、大学時代に社会福祉を専攻し、ゼミでは(中略)。したがって、大学卒業後は貴市において福祉行政に携わりたいと考えたため、志望に至りました。』
定石ですが、合格水準に達するためにはこのような月並みな理由に基づく志望動機で十分ですし、奇をてらう必要は全くありません。的外れでない程度の志望動機を作成して、筆記試験と面接試験で成績を残せば十分に合格は可能です。
また、具体的な専攻分野を明らかにすることで、面接官からもそれに関する質問があることが予想されます。面接官からすれば面接を展開しやすくなりますし、受験生からすれば、ある程度質問の内容を予想できるので、事前に受け応えを想定して準備することも可能になります。
ただし、このように専攻分野に基づく志望動機を作成する場合には、次のような注意点があります。
- 文学部出身であるが行政事務の公務員を志望しているなどの場合、志望動機に紐づけにくい。
- 専攻していた学問の内容を掘り下げられることもあるので、答えられるように準備しておくべき。
Whyのパターン②:サークル、アルバイト、地域活動の経験から志望動機に繋げる場合
もう一つの好例は、サークルやアルバイト、地域活動といった自身の経験から志望動機に繋げるといったものです。月並みではありますが、志望動機の基本形ともいえます。たとえば以下のような形式の志望動機です(上掲のものと同一です)。
『私は、大学において所属しているボランティアサークルにおいて渉外部長を務め、市内の地域団体との折衝を経験してきました。大学卒業後も、地域共生社会に係る先進的取組を行っている貴市において、地域活動の推進や福祉行政に携わりたいと考え、志望に至りました。』
もちろん、ボランティアサークルに加入しているなどのような経験でなくとも差し支えありません。そのほか、特に公共性の高い活動、たとえば地域の町内会活動をしていたり、消防団に加入していたりするなどしていればベストですが、マストではありません。
たとえば大学のサークルであれば自治体や地域とは直接的な関わりのないものがほとんどのはずですが、「大学のアカペラサークルの活動の一環で市のイベントで演奏した」「大学のフットサルサークルの活動の一環で地域の社会人サークルと交流した」などのように、ピンポイントに切り取れば志望動機に繋げられなくもないものもあります。
このパターンの場合に注意すべきことは以下のとおりです。
- 個人の経験には幅があるため、あまりに行政や公共に縁が薄い経験であれば控えた方がよい。
- 面接では、その経験に基づくコンピテンシー(行動特性)を掘り下げられる可能性が高いため、準備しておくべき。
Whyのパターン③:実際に住んでいた経験から志望動機に繋げる場合
また、ありがちな例として、「志望する自治体に実際に住んでいて、自治体に魅力を感じており、今後も恩返ししたいと考えたことから志望した」といったパターンがあります。月並みな理由ですが、そのように考えるのは当然ですし、合点のいく志望動機ではあります。ただし、それ単独だと心細いですので、できれば、以上の①や②のパターンも絡めて具体的な志望動機を作成すべきです。たとえば以下のようにまとめるなら、納得感の強い志望動機となります。
『私は、貴市〇〇町において生まれ育ちました。大学では福祉行政について学びましたが、待機児童がゼロであるなど、貴市の児童政策は高い水準にあると考えており、今後も生まれ育った貴市の行政に尽力したく、志望に至りました。』
以上の例は当該自治体にて生まれ育ったというパターンですが、大学時代から当該自治体に住むようになったというパターンも多いですし、理由として納得感はあります。実際に大学が所在する自治体に勤めることになったという人は多いです。
このようなパターンで志望動機を作成する場合に注意すべき点は以下のとおりです。
- ただ単に「生まれ育った街に恩返ししたいから志望した」というだけでは不十分
- だからといって、「昔住んでいたことがある」などと嘘をつくのはNGです。面接で掘り下げられると目も当てられない状態になります。
Whyのパターン④:インターンシップ経験から志望動機に繋げる場合
これは特殊な例ですが、自治体によっては学生のインターンシップを受け入れている場合があります。もしインターンシップに参加している場合には、かなり強い材料の一つになります。インターンシップでは、市役所内の複数の課を経験させてもらえる形式のものあれば、特定の課の業務のみを経験させてもらえる形式のものもあります。前者の場合は志望動機に容易に繋げられますが、後者の場合でも、以下のように志望動機を作成する有力な材料になります。
『私は、大学在学中に貴市産業振興課におけるインターンシップに参加させていただき、貴市への関心を抱きました。生産年齢人口の多い貴市においては、産業振興のほか、〇〇に取り組みむなどして子育て世帯向けの児童福祉政策にも注力しており、これらの政策に携わりたいと考えたことから志望に至りました。』
同様に、市職員に対してOB訪問をした場合にも、志望動機の有力な材料の一つとなります。
- ただし、できれば専攻分野やそれ以外の経験にも絡めて志望動機を書きたいところです。
Whyのパターン⑤:自治体の特性や社会資源から志望動機に繋げる場合
それでは、「自治体の業務に繋がる経験が全くない上に、専攻分野も行政とは無縁のもの」といった場合にどうするかといった問題があります。できれば以上の①~④を絡めて志望動機を作成したいところですが、どうしても困難な場合には、当該自治体の特性や社会資源等から志望動機を作成するかありません。やや苦し紛れになりますが、例としては以下のようなものが考えられます。
『私は、大学卒業後に自治体で勤務することを志望しております。特に、政令指定都市としての貴市は産業の拠点として有名企業が集中しており、基礎自治体として企業支援に尽力できる点に強い魅力を感じました。くわえて、政令指定都市の中で最も保護率の高い貴市における生活保護行政に携わりたいと考え、志望に至りました。』
このような志望動機を作成した場合にも、面接の場でうまく受け答えすることが出来た場合には合格水準に達すると考えられますが、やはり以下のような点がネックとなります。
- 当該自治体を志望する理由は説明できるが、そもそも自治体を志す理由が不明瞭
- 当該自治体の目玉である〇〇の政策分野に携わりたいことは分かったが、そもそも〇〇の政策分野に関心を持った理由が不明瞭
Howのパターン①:地域活動推進・コミュニティ形成に携わりたいとする場合
続いては、「How」、すなわち自治体のどのような政策分野に関わりたいかといった話です。基本的には各人が本当に関わりたいと考えるものを書けば問題ないですが、それぞれ注意点等がありますので、紹介していきます。
まずは、地域活動推進やコミュニティ形成に携わりたいというものです。基礎自治体の業務の真髄とも言える業務ですので、これに基づく志望動機は納得感があります。住民同士の繋がりを作る活動というのは、住民との距離が遠い広域自治体や国には存在し得ない業務です。
また、地域活動推進やコミュニティ形成というのは、基礎自治体のあらゆる政策分野にリンクする部分があります。たとえば福祉行政との関係でいうと「地域共生社会」「地域包括ケアシステム」という言葉があるように、切っても切れない関係にあります。そのほか、防災行政や産業行政との間にも深い繋がりがあるため、地域活動推進やコミュニティ形成を全面に押し出した志望動機は、その意味では隙の少ない志望動機と言えます。
ただし、この場合、以下のような点には注意が必要です。
- 面接官から、「そんなに地域に興味があるなら、今町内会や自治会に入っているの?」などとカウンターを貰う可能性もある。
- 学問の専攻分野からはやや紐づけにくい。
Howのパターン②:福祉行政に携わりたいとする場合
続いて、自治体の福祉行政に携わりたいという志望動機についてはどうでしょうか。基本的にはベターな志望動機です。なぜなら、自治体の人的・財政的リソースの多くは、福祉行政、あるいは民生部門に割かれているからです。福祉行政は自治体の基幹的業務の一つです。単に一口に福祉といっても、自治体の中には「高齢者福祉課」「障がい者福祉課」「子育て支援課」「介護保険課」「生活保護課」のように、多数の課が存在します。福祉行政は基礎自治体の基幹的業務です。
たとえば、自治体の中でもニッチな業務に着目した志望動機を作成した場合には、面接官から以下のように質問されてしまう可能性が高いです。
うちの市でそれの携われる可能性は低いですし、所管課に配属されたとしても数年で異動になってしまうかもしれませんが、大丈夫ですか?
一方で、福祉行政を主軸に据えた志望動機を作成した場合には、以上のような質問を受ける可能性は低くなります。
注意点としては以下のことが考えられます。
- 一口に福祉行政といっても幅が広いので、その中でも特に何を志望するのかを明確にしておく必要がある。
- 福祉行政では対面(face to face)の業務が中心となるため、対人能力に問題がないことを説明できるようにしておく必要がある。
Howのパターン③:地域産業振興に携わりたいとする場合
続いて、地域産業振興に携わりたいという志望動機を作成する場合です。商学部の出身で、用いることのできる経験もないといったような場合は、専攻分野に絡めて地域産業振興に携わりたいとする志望動機を作成するようなことも想定されます。
この場合の注意点は以下のとおりです。
- 「基礎自治体の職員だと、産業振興の部署にいる時間は少ないかもしれないが大丈夫か」といった質問に答えられるようにしておく必要がある。
- 特に地方の自治体の場合、「うちの市より〇〇市の方が大きな企業がいっぱいあるが、そちらは受験しなかったのか」といったような質問を貰う可能性もある。
Howのパターン④:防災行政に携わりたいとする場合
続いて、防災行政を主軸に据えた志望動機を作成する場合です。防災行政は住民の生命に直接関係するという意味で、どこの自治体においても重要な役割を担っています。その意味ではベターな志望動機と言えますが、一つ、明確な注意点があります。
日本は地震大国ですし、どこの自治体においても防災は重要なものですが、その様相は自治体により異なっています。たとえば、一口に地震といっても、そのリスクの大きさには自治体によって開きがあります。今で言えば地震の発生リスクが高いのは南海トラフや首都直下型地震の発生するおそれのあるエリアですので、四国地方や近畿南部、首都圏であれば地震対策に注力しているのは当然です。一方で京都市のような、もともと標高が高くて地盤も強固な場所であれば、地震の発生リスク自体も小さめである上に、地震が発生した場合にも、地震増幅率が小さいためにマグニチュードに比して震度も小さくなりがちです。このように自治体によって懸念される災害の種類には幅があります。地震による倒壊、火災、水害(津波、液状化)、土砂災害、原子力発電所事故、など様々なものが考えられますので、志望する自治体の防災上の特徴を捉えておくことが肝要です。
あとは、当該自治体のハザードマップ、避難計画、さらにBCP等に目を通しておくと対策としてはバッチリかと思います。
Howのパターン⑤:観光行政に携わりたいとする場合
最後に、「観光行政に携わりたいから貴市を志望した」といったような志望動機についてです。受験生の志望動機の添削をしていると、観光行政を軸に据えた志望動機はかなり多いと感じます。ダメではないですし、合格水準に達する志望動機は十分に作成できますが、受験戦略としては、他の受験生と差が付きにくいというデメリットもあると考えられます。
また、上述のとおり、自治体の基幹的な業務は地域活動の推進や地域コミュニティ形成、福祉行政等にありますので、観光行政を全面に押し出して志望動機を作成する場合、以下の点に留意すべきです。
- 「本市の観光課の規模は小さく、観光課に配属される可能性は高くないが大丈夫か」といった質問に答えられるようにしておく必要がある。
- 特に観光でそこまで有名な自治体ではない場合、「他にも観光名所で有名な自治体は多いが、あえて本市で観光行政に携わりたい理由は何か」といったような質問を貰う可能性もある。
- 民間企業における観光事業との差別化を説明できるようにしておく必要がある。
ちなみに、本サイトでは、以下のような記事も作成しておりますので、よろしければご覧ください。