地方公務員については、基本的に公務員試験(選考)を経て採用されることとなりますが、地方公務員法により、地方公務員になることが出来ない場合が定められています。これを欠格条項といいます。
この記事では、地方公務員の欠格条項について説明します。なお、「欠格条項」という言葉が直接用いられておらずとも、採用試験の公募要領等には、これらの内容は簡単に記載されていることも多いです。今回は、行政実例等を踏まえ、欠格条項について更に深堀りしていきます。
四つの欠格条項
地方公務員の欠格条項は、以下のとおり、地方公務員法第16条において定められています。
(欠格条項)
第十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
一 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
二 当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
三 人事委員会又は公平委員会の委員の職にあつて、第六十条から第六十三条までに規定する罪を犯し、刑に処せられた者
四 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者
以下では、それぞれ詳しく見ていきます。第三号,、第四号についてはイメージしづらい上に、実例は極めて稀かと思われますので、詳述しません。
第一号「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」
まずは、地方公務員法第16条第1号に定められる「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」についてです。
ここでいう「禁錮以上の刑」とは、刑法における刑罰の種類(以下)のうちの一つです。
- 死刑
- 懲役:刑事施設に収容され、刑務作業を科される刑罰
- 禁錮:刑事施設に収容される点は懲役と同じだが、刑務作業は義務ではない
- 罰金
- 拘留
- 過料
- 没収
以上の刑罰のうち、死刑、懲役、禁錮の刑に処せられた場合等は、地方公務員になることはできないということになります。
禁錮刑は、実際には「過失運転致傷罪」、「過失運転致死罪」等によって適用されることが多いため、重篤な交通事故を起こした場合等であれば、公務員に採用された後に科されることも多いです。たとえば、公務員として在職している期間中にこれらの刑罰の実刑判決を受けた場合、その判決の日をもって、当然に失職(辞職ではない)することとなります。
また、この条文は、「執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまで」とあるように、ある程度の含みを持たせています。したがって、実行判決を受けた場合のみならず、執行猶予期間中の場合も欠格条項に該当することになります。刑の執行猶予期間中の者は、期間が満了するまでは、執行猶予が取り消され、刑が執行される蓋然性があるためです。
なお、2025年に刑法が改正され、懲役刑と禁錮刑をまとめて「拘禁刑」へと改正されることから、以上の条文も「拘禁刑以上の刑」と改められています。
第二号「当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者」
続いて、地方公務員法第16条第2号に定められる「当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者」についてです。
この条文のポイントは、あくまで、「当該公共団体」に限って適用されるということです。たとえば、A市において懲戒免職を受けた場合、二年を経過していなくとも、B市において採用されることは可能です。現に、これを認めた行政実例(行実昭26.2.1)があります。
補論
続いて、欠格条項という制度自体について、いくつか補論を紹介します。
補論①成年被後見人等(制限行為能力者)の場合
まず、民法上の成年被後見人等の制限行為能力者が、欠格条項に該当するかどうかといった話があります。これについては、かつては条文で明確に欠格条項に該当するとされていたところ、現在は法改正を経て、この条文が削除されていますので、あくまで法律上は、成年被後見人でも地方公務員になることは可能とされています。
補論②破産宣告を受けた場合
同様に、民法上の破産宣告を受けている場合には、欠格条項に該当するかどうかといった話がありますが、地方公務法第16条第1項の各号に当てはまるものはありませんので、欠格条項に該当しません。
補論③欠格条項に該当する者が公務員として事実上在職していた場合の取扱い
続いて、「本当は欠格条項に該当するにもかかわらず、その事実が確認できないまま当該職員が採用されてしまった場合」に、どのような取扱いとするかといった論点があります。
これについては、行政実例(行実昭41.3.31)があり、次のとおり示されています。
- 欠格者の採用は、法律上当然に無効となる(行政行為の「取消し」は不要)。
- 欠格者が行った行為は、事実上の公務員の理論により、有効となる。
- 欠格者に支払われた給与は、欠格者の労務の対価であるので、返還を求める必要はない。
- ただし、欠格者に対して退職手当等は支給しない。
行政法等で用いられる概念として「事実上の公務員の理論」というものがありますが、欠格者が行った行為についてもこれが適用されることとなります。すなわち、社会一般の混乱を防ぐために、欠格者が行った行為であったとしても、法律上はその行為は有効に働くこととするのです。
補論④
最後の補論です。欠格条項は、上述のとおり、地方公務員第16条第1項における四つの場合です。この四つが、「限定列挙」であるか、「例示列挙」であるかといった問題があります。これについては、欠格条項は「限定列挙」であると解されています。すなわち、これ以外の場合については、欠格条項に該当すると判断する余地はありません。
たとえば、法律より下位の法規である条例によって、各地方公共団体が独自の欠格条項を付け加えたり、加重したりすることは認められません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事を執筆したのには一つの理由があります。公務員試験の勉強を進めていると、誰しも疑心暗鬼に陥りがちになるものです。たとえば、受験生の方からたまに頂く相談として以下のようなものがあります。
- 「自転車を放置していて市に撤去されたことがあるが、問題ないでしょうか」
- 「警察に補導されたことがあるが、減点されるのでしょうか」
- 「子どもの頃、志望する市役所にて生活保護を受給していたが、この市では採用してもらえないのでしょうか」
これらはすべて欠格条項にかすりもしませんので、どうかお気になさらず、試験対策に邁進されることをおすすめいたします。