この記事では、地方公務員の「分限処分」について、地方公務員として人事に携わっていた筆者が、実務上の運用等も踏まえて解説していきます。
「分限処分」と「懲戒処分」について
地方公務員は、法律(地方公務員法)によってその身分が保障されています。一方で、法律や条令に定めがある場合には、地方公務員に対して、その意に反して処分を行うことができるとされています。この処分が「分限処分」と「懲戒処分」と呼ばれるものです。このうち、この記事では、「分限処分」について解説していきます。
「分限処分」の四種類について
分限処分は、「免職」「降任」「休職」「降給」の四つがあります。これらの分限処分は、飽くまで公務の効率性を保つために行われるものです。この点において、職員への懲罰の性格を有する「懲戒処分」とは異なっています。ちなみに、実務上、圧倒的に多いのは、分限処分としての休職です。特に、メンタルの疾病が長引いて職務復帰できないが、病気休暇の期間を満了してしまった職員に対して、分限休職を行うということが多いです。
分限処分については、主に地方公務員法第28条に規定が置かれています。
地方公務員法
(降任、免職、休職等)
第二十八条 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 前二号に規定する場合のほか、その職に必要な適格性を欠く場合
四 職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
2 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを休職することができる。
一 心身の故障のため、長期の休養を要する場合
二 刑事事件に関し起訴された場合
3 職員の意に反する降任、免職、休職及び降給の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、条例で定めなければならない。
4 職員は、第十六条各号(第二号を除く。)のいずれかに該当するに至つたときは、条例に特別の定めがある場合を除くほか、その職を失う。
地方公務員法 | e-Gov法令検索
これが該当の条文ですが、これだけではなかなか分かりにくいと思いますので、四つの分限処分についてそれぞれ噛み砕いて見ていきます。
①分限処分としての「免職」について
免職は、職員の意に反してその職を失わせる処分のことです。四つの分限処分の中でも、最も強権的な処分と理解されることが多いです。そのほかの三つの処分は、職員としての身分を奪うものであるのに対して、免職は、職員の身分を失わせる唯一の処分です。
分限免職は、以下の事由に該当する場合に、任命権者(多くの場合は首長)が行うものです。ちなみに、分限免職と、後述する分限降任の事由は同一のものとなっています。
- 人事評価等における勤務実績がよくない場合
- 心身の故障のため、職務の遂行に支障等がある場合
- その職に必要な適格性を欠く場合
- 定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
(地方公務員法第28条第1項)
なお、職員を分限処分として免職する場合にも、労働基準法の適用はあると解されています。したがって、職員を分限免職する場合には、少なくとも30日前に予告する必要があり、それが叶わない場合には、30日分以上の賃金を支弁する必要が生じることになります。
ちなみに、ややこしいのですが、懲戒処分においても同じ名称の免職という処分があり、その効果は同一ですが、懲戒処分としての免職は懲罰としての意味合いを持つため、その点において異なるものとなっています。
②分限処分としての「降任」について
続いて、「降任」についてです。降任は、現在の職より下位の職に任命する処分のことです。例えば課長を係長へ降任させたり、係長を主任へ降任させたりすることが考えられますが、実務上の例はかなり乏しいです。
分限降任の事由は、上述した分限免職と全く同一となっています。
③分限処分としての「休職」について
続いて、「休職」についてです。実務上は、この分限休職の例が圧倒的に多いです。名前の通りですが、分限休職は、その職を保有したまま職員を一定期間職務に従事させない処分のことです。
分限休職は、以下の二つの事由に該当する場合に行われます。
- 心身の故障のため、長期の休養を擁する場合
- 刑事事件に関し起訴された場合
(地方公務員法第28条第2項)
心身の故障による分限休職
圧倒的に多いのは、「心身の故障」の事由による分限休職です。この、「心身の故障」による分限休職は、見方によっては「働いていないのに職を保有して給与ももらえるなんて贅沢だ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんし、実際にそういった議論はあります。休職中の給与については各自治体の給与条例で定められていますが、通常の俸給の一部(6割や7割等)を支給するとしていることが多いです。
また、分限休職の実際の流れについては、地方公務員法に記載は無く、各自治体の条例、規則等によって定められています。分限休職は最終的には任命権者(首長等)によって発出されますが、実務上は、医師の診断書を必要としていることが殆どです。
また、分限休職によって職を保有できる期間についても、各自治体の条例、規則等によって定められていますが、多くの自治体では三年間としていることが多いです。年次有給休暇や病気休暇を取得したのちに病気休職に移行し、さらに休職して三年を経ても職務復帰できない場合には、分限免職を適用することも可能と考えられますが、実務上は自主退職を勧告されることが多いです。
刑事起訴による分限休職
一方で、刑事起訴による分限休職は、数的にはきわめて稀です。
そもそも職員が刑事事件で起訴されるということが稀ですし、刑事罰の中でも、禁錮(拘禁刑)以上の刑に処された場合は、そもそも欠格条項より当然に失職することとなります。(欠格条項については以下の記事をご覧ください。)
また、刑事事件において起訴された場合に、かならずそれを事由とした分限休職を行わなければならないというものはありません。判例は、分限休職を行うべきかどうかは、飽くまで当該任命権者(首長等)が自由裁量によって判断すべきであるとしています(東京高裁昭35.2.26)。
刑事起訴による分限休職に係る有名なトピックとして、「採用以前から起訴されていたが、採用後にそれが判明した場合」に、分限休職を行うことができるかどうかといったものがあります。行政実例(行実昭37.6.14)は、このような場合にも、判明後に起訴されていた事実を理由に休職処分を行うことができるとしています。
④分限処分としての「降給」について
続いて、分限降給についてです。分限降給は、これも名前の通りですが、職員が現に決定されている給料よりも低額の給料額に決定する処分のことです。
分限降給は、これまでに紹介した三つの分限処分と異なり、地方公務員法第28条において、直性的にその事由が定められていません。分限降給の地方公務員法上の根拠は、その第27条第2項に置かれています。
地方公務員法
(分限及び懲戒の基準)
第二十七条
2 職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、又は免職されず、この法律又は条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職され、又は降給されることがない。
地方公務員法 | e-Gov法令検索
以上のとおり、「法律又は条例で定める事由による場合」とした上で、実際には法律(地方公務員法)にはその事由は定められていないため、分限降給の事由は、各自治体の条例において定めることが委任されていると解釈できるわけです。
実務上、たまに行われている例がありますが、心身の故障による分限休職に比べればその数は圧倒的に少ないです。また、分限処分ではなく、懲戒処分としての「減給」という処分がありますが、実務上、懲戒減給はそこそこ例はあるのに対して、分限降給はあまり見かけることのないものです。
分限降給では、分限降任との関係が問題になる場合があります。たとえば、職員が降任すると、必然的にその給与は従来よりも低くなります。そうなると、結局は後述する分限降給と同じ効果が発生することとなりますが、行政実例(行実昭28.10.6)では、このように降任に伴って給与が低くなることは分限降給には該当しないと整理しています。
補論
続いて、少しマニアックな内容となりますが、行政実例等に基づき、分限処分全体に係る補論を紹介していきます。
複数の分限処分を行うことは可能か
特定の職員に対して、複数の分限処分を重複して行うことが可能になるかどうかといった論点があります。この点について、行政実例は、異なる分限処分を併せて行うことも可能であるとしています。実際に、分限休職と分限降給を併せて行った例があります(行実昭43.3.9)。
分限処分と懲戒処分を併せて行うことは可能か
同様に、特定の職員に対して、分限処分と懲戒処分を併せて行うことが可能になるかといった論点があります。この点についても同様に、行政実例は分限処分と懲戒処分を併せて行うことは可能であるという立場を取っています(行実昭42.6.15)。
分限免職と「失職」との違い
また、分限免職と、「失職」は異なるものということをお話ししておきます。たとえば、職員が禁錮(拘禁刑)以上の刑に処された場合には、地方公務員法に定める欠格条項に該当することになりますので、当該職員は分限処分を待たず、当然に「失職」することとなります。