この記事では、「社会福祉主事任用資格」について説明します。特に、地方自治体における生活保護のケースワーカーとの関係について取り扱うものです。
社会福祉主事とは何か
「社会福祉主事任用資格」についてお話しする前に、「社会福祉主事」について説明する必要があります。
「社会福祉主事」とは、社会福祉法第18条に規定されている概念です。シンプルな条文なので、以下のとおり引用します。
社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)(抄)
(設置)
e-Gov 法令検索 社会福祉法
第十八条 都道府県、市及び福祉に関する事務所を設置する町村に、社会福祉主事を置く。
2 前項に規定する町村以外の町村は、社会福祉主事を置くことができる。
3 都道府県の社会福祉主事は、都道府県の設置する福祉に関する事務所において、生活保護法、児童福祉法及び母子及び父子並びに寡婦福祉法に定める援護又は育成の措置に関する事務を行うことを職務とする。
4 市及び第一項に規定する町村の社会福祉主事は、市及び同項に規定する町村に設置する福祉に関する事務所において、生活保護法、児童福祉法、母子及び父子並びに寡婦福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法及び知的障害者福祉法に定める援護、育成又は更生の措置に関する事務を行うことを職務とする。
5 第二項の規定により置かれる社会福祉主事は、老人福祉法、身体障害者福祉法及び知的障害者福祉法に定める援護又は更生の措置に関する事務を行うことを職務とする。
以上のとおり、社会福祉主事は都道府県と市町村に置かれていますが、いずれも、「生活保護法」「児童福祉法」「老人福祉法」等の事務を行うことと定められています。
実際には、これらの法律の中でも、最もイメージしやすく、現に数が多いと思われるのは「生活保護法」に係る事務です。市町村の生活保護所掌課における、いわゆるケースワーカーと呼ばれる方々は、社会福祉主事に該当する際たる例といえます。
社会福祉主事任用資格
続いて、「社会福祉主事任用資格」についてです。社会福祉主事任用資格とは、その名のとおり、社会福祉主事になるための資格のことを指していますが、誤解の多い概念ですので、以下のとおり説明いたします。
社会福祉主事任用資格の取得方法
社会福祉主事任用資格の最大の特徴として、以下のことが挙げられます。
- 社会福祉主事任用資格は、必ずしも資格試験や講習の受講は課されず、条件を満たしていれば自動的に該当することが多い。
「資格」というと、「社会福祉士」「介護福祉士」のように、特定の資格試験を受けて合格したり、特定の講習を受けて修了したりすることで取得できるといったイメージがつきまといますが、社会福祉主事任用資格はそういった類のものではありません。
それでは、社会福祉主事任用資格を得るための条件とは何でしょうか。この点については、社会福祉法第19条に定めが置かれています。
社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)(抄)
(資格等)
e-Gov 法令検索 社会福祉法
第十九条 社会福祉主事は、都道府県知事又は市町村長の補助機関である職員とし、年齢十八年以上の者であつて、人格が高潔で、思慮が円熟し、社会福祉の増進に熱意があり、かつ、次の各号のいずれかに該当するもののうちから任用しなければならない。
一 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に基づく大学、旧大学令(大正七年勅令第三百八十八 号)に基づく大学、旧高等学校令(大正七年勅令第三百八十九号)に基づく高等学校又は旧専門学校令(明治三十六年勅令第六十一号)に基づく専門学校において、厚生労働大臣の指定する社会福祉に関する科目を修めて卒業した者(当該科目を修めて同法に基づく専門職大学の前期課程を修了した者を含む。)
二 都道府県知事の指定する養成機関又は講習会の課程を修了した者
三 社会福祉士
四 厚生労働大臣の指定する社会福祉事業従事者試験に合格した者
五 前各号に掲げる者と同等以上の能力を有すると認められる者として厚生労働省令で定めるもの
2 (略)
以上の特に注目いただきたい箇所に下線を引きました。下線部だけを抜粋して読むと、「学校教育法に基づく大学、専門学校において、社会福祉に関する科目を修めて卒業した者」となります。
ここで、この「社会福祉に関する科目」とはかなり広範な科目のことを指しています。具体的には、以下の科目群のうちから、3科目以上を履修して大学や専門学校を卒業した場合は、社会福祉主事任用資格を得ていると見なされます。
- 社会福祉概論
- 社会福祉事業史
- 社会福祉援助技術論
- 社会調査論
- 社会福祉施設経営論
- 社会福祉行政論、社会保障論
- 公的扶助論
- 児童福祉論
- 家庭福祉論
- 身体障害者福祉論
- 保育理論
- 知的障害者福祉論
- 精神障害者保健福祉論
- 老人福祉論
- 医療社会事業論
- 地域福祉論
- 法学
- 民法
- 行政法
- 経済学
- 社会政策
- 経済政策
- 心理学
- 社会学
- 教育学
- 倫理学
- 公衆衛生学
- 看護学
- 介護概論
- 栄養学
- 家政学
以上です。さらに、実際に各大学等で定められている科目名が完全に一致していなくともOKです。たとえば、上記の「法学」には、「法律学」「法学概論」「基礎法学」「法学入門」などといった科目名のものも含みます。
そうすると、一般的な4年生大学の法学部や経済学、社会学部等を卒業していれば、ご自身でも気づかないうちに社会福祉主事任用資格を得ていたという方は相当に多いのです。
あるいは、文系の出身でなくとも、大学の一般教養科目で倫理学や心理学の基礎を学んでいることも多いので、いつの間にか社会福祉主事任用資格に該当しているというパターンは想像以上に多いです。
生活保護ケースワーカーとの関係
上述のとおり、社会福祉主事の最たる例は、市区町村の生活保護ケースワーカーです。
したがって、この記事においても、以下で特に断らない限り、市町村の生活保護の現場におけるケースワーカーを想定して、社会福祉主事と呼ぶことにします。
さて、生活保護ケースワーカーは、社会福祉主事であることが、以下のとおり、生活保護法において求められています。
生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)
(補助機関)
生活保護法 | e-Gov 法令検索
第二十一条 社会福祉法に定める社会福祉主事は、この法律の施行について、都道府県知事又は市町村長の事務の執行を補助するものとする。
都道府県知事や市町村長が生活保護の業務を執行するに当たって、社会福祉主事が、その補助をする機関(職員)として位置づけられているという建前になっています。
しかし、法的にはこのような規定が置かれていながら、実際の現場では、それが守られていないという実態があります。
したがって、実際には社会福祉主事任用資格を持っていなくとも、生活保護のケースワーカーとして活躍することはできてしまうという現状があります。
たとえば、少し古いですが、2016年度に厚生労働省が実施した「福祉事務所人員体制調査」によれば、全国の常勤のケースワーカーのうち社会福祉主事有資格者の割合は74.2%に留まっているとされています。
中には、法令を遵守して、社会福祉主事有資格者のみをケースワーカーに充てているというところもありますが、そうでないところの方が多いです。
自治体はどこも人手不足であり、実際には高卒の職員(社会福祉主事任用資格を持っていない職員)がケースワーカーを担当するような人事配置にしていることが多いからです。
上掲の調査時と比すると、少しは社会福祉主事有資格者をケースワーカーに充てるようにする趨勢が目立っていると感じますが、まだまだ現場に根付いていないのが現状だと感じます。
社会福祉主事任用資格の形骸化
また、これは体感にすぎませんが、現場でケースワーカーとして働いていて、社会福祉主事任用資格の有無によって仕事の不出来に影響を与えているとは思えません。
社会福祉主事任用資格の無資格者がケースワーカーを担当しているという現状を法令に合わせるのか、それとも、既に形骸化しつつある社会福祉主事任用資格をケースワーカーとして配置するための要件から削除することで法令を現状に合わせるのか。いずれの選択肢も考えられますが、今後の議論が待たれます。