この記事では、行政のコラムとして、生活保護について取り扱います。
生活保護制度において、時々話題になるトピックとして、「誰が生活保護を受けられるのか」「生活保護を受けるための要件」といったものがあります。今回は、これらについて取り上げます。
なお、筆者は大学院で生活保護行政や社会福祉行政を専攻したほか、実際に現場で生活保護のケースワーカーとして勤務した経験があります。
基本的に全国で同様
まず、あまり理解されていないところですが、生活保護を受けるための条件については、基本的に全国で画一的なものとなっています。
そもそも、生活保護は国の制度です。生活保護行政は、地方自治法第2条に定める法定受託事務の一つであり、本来の責任は国に帰属するものなのです。
生活保護法第1条を見てみると、以下のとおり、主語が(地方公共団体ではなく)「国」となっていることが分かります。
生活保護法
(この法律の目的)
第1条 この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
生活保護法 | e-Gov 法令検索
生活保護法を含め、生活保護行政の根拠となる規定は、以下の法令等に求めることができます。
- 日本国憲法第25条
- 生活保護法(昭和25年法律第144号)
- 生活保護法施行令(昭和25年5月20日政令第148号)
- 生活保護法施行規則(昭和25年5月20日厚生省令第21号)
- 生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号)
- 生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知)
このように、基本的には法律、政令、省令、告示等の、全国に効力が及ぶ法規に基づいて行われるのが生活保護行政です。一方、各自治体の区域内において属地的に効力を持つ法規は条例や規則ですが、これらによって生活保護制度の内容を定めている自治体は基本的にありません。(稀にありますが、極めて軽微な内容を定めているにすぎません。)
また、市区町村は、実際には都道府県等の発行する生活保護運用事例集に沿って事務を遂行していますが、この内容は都道府県間で大差がないこと、定められている内容も細則的なものが多いです。
少なくとも、生活保護を受けるための要件は、法的には自治体によって差異は無いと考えて差し支えありません。
本来、法的には生活保護の受給権は全国的に画一的な内容となっています。それにもかかわらず、自治体において、受給権を持つ人が生活保護の申請を行わせないようにしていたと指摘されることがあります。これが「水際作戦」と呼ばれるものです。
受給可否に関わるもの
生活保護の受給可否については、日本全国で同じ要件となっていることを上述しました。それでは、具体的に生活保護の受給可否に関わる要素とは何でしょうか。
その答えは極めて簡単で、生活保護を受給できるかどうかを決めるのは「収入と資産」のみです。
いずれも金銭的な要件で、あくまで金額(数字)を計算することによって受給可否が決まるのが生活保護です。
収入
生活保護の受給可否を決める要件の一つは、収入です。
生活保護は、ざっくりいうと、一か月を暮らしていくために必要な最低生活費と、ひと月の収入と申請時の試算を比較して、最低生活費を賄うことができないと計算できる場合に受給が可能となります。
ひと月の最低生活費 > ひと月の収入+申請時の資産
実際には、この最低生活費は日割り計算されたり、年齢や家族構成、障がいの有無、医療費によっても異なったりします。したがって一概には言えませんが、たとえば、東京23区でアパートに住む単身者の場合、13~14万円くらいが最低生活費になります。(ちなみに、生活保護を実際に受給した場合に貰える金額も同じくらいになります。)この東京23区でアパートに住む健康な単身者の場合、仮に資産がゼロであれば、ひと月の収入が13~14万円未満であれば受給が可能ということになります。
また、生活保護制度上の「収入」という言葉の定義ですが、生活保護においては、稼働収入のみではなく、幅広く様々なものを「収入」とみなします。多いのは年金ですが、年金もれっきとした「収入」にあたりますので、仮にひと月あたりの年金額が13~14万円以上ある場合、世帯構成にもよりますが生活保護を受けられないことがほとんどです。
資産
もう一つ、生活保護を受けることができることを決める要素として「資産」があります。
現金・預貯金
より具体的にいうと、主には「現金」と「預貯金」です。
その具体的な金額は人によって様々ですが、上掲の例でいうと、東京23区でアパートに住む健康な単身者の場合、仮に収入がゼロであれば、預貯金の残高が13~14万円未満であれば受給が可能ということになります。
また、この預貯金についてですが、生活保護の申請において、所持する全ての預貯金の残高を証憑つきで提示しなければなりません。さらに自治体は、生活保護法第29条に基づき、多数の金融機関に対して、被保護者の預貯金の金額の調査をかけています。したがって、預貯金を隠して生活保護を受給したとしても、後で発覚する可能性が高いです。
もっともこれには穴があり、この預貯金の調査は国内の全ての金融機関にまで及ばせることは難しいですし、現金でどこかに隠し持っていた場合はそもそも捕捉しづらいという現状があります。
また、現金・預貯金以外の高額な資産として、自動車や不動産が挙げられます。自動車を所持したとしても、自身が通勤に使用するために必須であるなどの場合、市区町村の判断で保有が認められることもあります。不動産についても、自身が現に居住している土地や建物の場合は保有が認められることがほとんどです。
不動産等
それ以外の場合で、保有が認められない資産がある場合については、生活保護を受給することはできるものの、受給期間中にこれを売却した上で生活費に充てるよう指示されることが多いです。生活保護は最後のセーフティネットであり、資産等のあらゆるものを使い切った上で、それでもなお足りない場合に使用されることが想定された制度だからです。このことは生活保護法第4条に定められています。
生活保護法
(保護の補足性)
第4条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。2(略)
3 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。
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もっとも、第4条第3項にもあるように、莫大な資産を持っていたとしても、現に現金・預貯金が底を尽きて収入もないような場合、生活保護を受給することは可能です。ただし、受給後に、従前から所有していた不動産等を売却して資力が発生した場合、生活保護費を返還する必要が生じることになります。
生活保護を受給開始後も、定期的に市区町村に対して、所有している資産、たとえば不動産、自動車、株式、貴金属等の有無とその金額を申告する必要があります。
受給可否に関わらないもの
生活保護は国民の最後のセーフティネットであり、最終的に用いられることを想定した制度ですので、誰もが簡単に受給できるものとして捉えられることは望ましくありません。そこで、大々的に生活保護の受給を推奨するように言われることは少ないですが、実際に世間が思っているよりも、生活保護の受給要件は「緩い」印象があります。
たとえば、「病気がない若者が生活保護を受けられない」とか、「住民票を持っていない人は生活保護を受ける資格が無い」とか誤った情報を見かけることがありますが、法的にはこれらの方も生活保護を受給することが可能です。上述のとおり、あくまで収入・資産の金額(数字)のみをもって要否を判定することになるからです。
戦後間もなく制定された「旧生活保護法」においては、怠惰な者や素行不良な者には生活保護を支給しないとする、いわゆる「欠格条項」がありました。その後、1950年に現行の生活保護法が制定された際に、この欠格条項は撤廃されました。以下のように、現行生活保護制度は無差別平等を掲げているため、収入等の金銭的な面のみをもって要否が判定されることになるのです。
生活保護法
(無差別平等)
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第2条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。
生活保護の受給要件に関わらないものを列挙すると、以下のようになります。
職業
まずは、「職業」です。大きな誤解として、「働いている人は生活保護を受けられない」といったものがあります。
実際は、働いていれば収入も相応にあることが多いため、その結果として生活保護を受けられないことが多いものの、働いていてもその金額が少額であれば生活保護を受けられます。
また、当然ですが、その職業の内容、すなわちどのような職業に就いているかなどは関係ありません。飽くまで金額によって受給可否が左右されるのが生活保護制度です。
ただ、生活保護受給中に、健康で稼働能力があると考えられる場合は、増収のための就業を指導されることになります。
疾病
続いて、「疾病」です。生活保護は健康な人でないと受給できないと誤解されていることが多いです。
実際は、疾病が一切ない健康な方でも、収入・資産が最低生活費を下回っていれば生活保護は受給できます。
これも、無差別平等の原則に基づけば当然のことといえます。
ただし、疾病がない場合は、多くの場合ケースワーカーから就業、就職活動を指導されることとなります。あるいは、疾病がある場合も、必要な場合は市区町村が主治医に診断書の提供を求めるなどした上、就労可能と判断された場合には就労指導を受けることになります。
年齢
続いて、「年齢」です。疾病の有無と同様に、年齢についても、生活保護の受給要件にはなり得ません。
一方で、生活保護受給中の方に目を向けると、何歳までの方を就労指導の対象とするかといった問題があります。この点については、高齢者か否か、すなわち65歳以上か否かで峻別をしています。65歳に達している方の場合、仮に病気が一切なくとも、ケースワーカーから就労を指導されることは基本的にありません。
住居
続いて、「住居」です。
たまに、家賃の高い良い物件に住んでいると生活保護を受けられないといった誤りを聞くことがあありますが、金銭的に困窮していれば生活保護を受給可能です。極論、都内のタワマンを借り受けて住んでいるような場合でも、何らかの事由で収入と資産がゼロに近いような場合は直ちに保護を受けられます。
ただし、このように高額な物件に住んでいる場合、保護中開始後に、低額な物件に転居することを指導されることとなります。たとえば東京23区内であれば、住宅扶助の金額が現行では53,700円ですので、区にもよりますが転居を求められないボーダーはせいぜい家賃60,000円くらいまでです。(特別な疾病等がある場合や、港区のように高額な物件しかない場所の場合は、特別基準といって、より高額でも認められることもあります。)
住所
これも誤解されがちですが、生活保護は、「住所」に関わらず受給することが可能です。生活保護制度は住所(住民票)主義をとっていないため、居住地・現在地をもって生活保護を受けられます。
たとえば、住所の転入出の手続を怠って実際の居住地と住所地が一致しない人や、ホームレス等で居住地が無く住民票も消除されているような場合であっても、申請を行った市区町村において生活保護の受給が可能です。
扶養親族の有無
また、扶養することのできる親族が居る場合であっても、生活保護を受給することは可能です。
ただし、生活保護の受給開始時に、当該被保護者の親族に対して、扶養が可能かどうかの照会を行うことが多いです。いわゆる扶養照会と呼ばれるものです。市区町村の生活保護所掌課は戸籍事務の所掌課と連携することが可能であるため、本人が親族と連絡を取っていない仲であったとしても、戸籍を辿って親族の住所を知ることが可能です。
ただし、この扶養照会は強制力を伴わないものとなっているため、扶養することが可能であったとしても、市区町村から親族に対して扶養を行うよう指示・指導等を行うことまではできません。
国籍
最後に、国籍です。
この点については非常に難しい点です。上掲したように、生活保護法等に定める無差別平等の原則の下で国民は条件を満たせば誰もが生活保護を受給することができますが、そもそも生活保護法の適用自体が外国人にあるかどうかといった問題があります。
このサイトでは、以下の記事で詳述しておりますので、よろしければご覧ください

端的に言うと、判例としては、生活保護法を始めとする現行法令上、生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらないとしています。
一方、実際の行政実務では、「永住者」「定住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」の四つのいずれか在留資格により在留する外国人、入管法特例の「特別永住者」、また入管法上の「難民」に対しては、基本的に生活保護法が準用されています。
外国人であったとしても、生活保護一般の要否判定に加えて、在留資格等の要件を満たせば、実際には生活保護を受給することが可能です。