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地方公務員の「争議行為等の禁止」について解説【ストライキ、怠業、罰則、具体例等】

地方公務員は、地方公務員法において様々な身分保障を受けている一方で、同法により様々な義務(秘密を守る義務、職務専念義務等)が課されていたり、禁止されていることがあったりします。

地方公務員の義務については、以下の記事のように、このサイトでも様々なものを取り扱ってきました。

この記事では、地方公務員の「争議行為の禁止」について解説していきます。

目次

「争議行為等の禁止」とは

概要

最初に、地方公務員の争議行為の禁止は、公務を円滑に運営するという趣旨のもと、ストライキ等の争議行為や、その助長行為を禁ずるものです。

詳しくは後述しますが、公務員の場合、民間企業の労働者よりもより厳格な禁止規定が設けられています。

根拠規定

地方公務員の争議行為の禁止は、次のとおり、地方公務員法第37条に定められています。

地方公務員法

(争議行為等の禁止)
第三十七条 職員は、地方公共団体の機関が代表する使用者としての住民に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をし、又は地方公共団体の機関の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。


2 職員で前項の規定に違反する行為をしたものは、その行為の開始とともに、地方公共団体に対し、法令又は条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に基いて保有する任命上又は雇用上の権利をもつて対抗することができなくなるものとする。

地方公務員法 | e-Gov 法令検索

この条文のポイント、解釈、判例、具体例等について、後述していきます。

「争議行為等」とは

「争議行為の実行」と「助長行為」に大別できる

さて、繰り返し地方公務員の「争議行為」と述べてきましたが、ここに「」という語がくっついていることにお気づきでしょうか。

争議行為」として禁止される行為は、争議行為を直接実行する行為と、争議行為の助長行為に大別できるのです。争議行為を直接実行する行為は、地公法第37条第1項前段で禁止されており、争議行為の助長行為は、同条同項後段で禁止されています。すなわち、「争議行為」の「」とは、争議行為の助長行為のことを指しています。

「争議行為等」
  • 争議行為を直接実行する行為
  • 助長行為

ポイントとしては、直接実行するだけではなく、それを助長する行為、すなわち、単に争議行為を共謀したり、唆したり、煽ったりしただけでも、「争議行為」(のうちの「等」)に該当すると見なされる場合があるということです。

争議行為」の具体例

それでは、「争議行為」に該当する行為には、具体的にどのような行為が挙げられるのでしょうか。次に、該当し得るものを列挙します。

「争議行為等」に該当し得る例
  • 職員がストライキを目的として一斉に休暇を取得すること(いわゆる「一斉休暇闘争」)
  • 職員が、上司から命令された時間外勤務を組織的に拒否すること(いわゆる「残業拒否闘争」)
  • 職員が、上司から命令された宿日直を組織的に拒否すること
  • 職員が庁舎の入口等で他の職員の就労を阻止すること(いわゆる「ピケッティング」)
  • 職員が勤務時間内に職場大会を実施すること
  • 職員が、勤務時間内外を問わず、業務の正常な運営を阻害するようなハンスト、ビラ配りを行った場合(行実昭28.9.24)

以上です。

「一斉休暇闘争」は、大昔ですが、1957年に、財政難に陥った佐賀県が大規模な人材削減を打ちだした際に、それに対抗するために職員が一斉に年次有給休暇を取得した「佐教組事件」が有名です。この際には、職員組合の幹部だった11名に対して停職1か月から6カ月とする処分が行われました。

その後も別の事件で「一斉休暇闘争」について争われた最高裁判例があります。年次有給休暇は職員に認められた権利ではありますが、職員が組織的に同期間において一斉に年次有給休暇を取得するような行為について、その実質は年次有給休暇に名を借りた同盟罷業に他ならないと結論づけられています(最判昭48.3.2)。

「職場大会」は、職員の組合活動のことです。勤務時間外に行う分にはまったく問題ないですが、勤務時間内にくい込む場合は争議行為等に該当する場合があります。

民間労働者との違い

地方公務員の争議行為は以上のとおり禁止されています。争議行為は、いわゆる労働基本権(労働三権)のうち、「争議権」に該当するものですが、行政職員、警察職員、消防職員等の別を問わず、全ての地方公務員において一律に禁止されているということになります。なお、労働基本権には、他に「団結権」と「団体交渉権」がありますが、これらについては、地方公務員の中でも、公務員の種類によって制限の受け方が異なることになります。

労働基本権(労働三権)
  • 団結権:労働者が労働条件の改善等を求めるための団体を組織する権利
  • 団体交渉権:労働組合等の労働者団体が、労働条件の改善等の求める交渉を行う権利
  • 争議権:労働者自身が、労働条件の改善等を求めて争議行為を行う権利

この労働基本権について、地方公務員の種類別に、何が制限されるかをまとめると以下のようになります。なお、「〇」は完全に認められている場合、「△」は一部の制限を受けている場合、「×」は完全に禁止されている場合を意味しています。

地方公務員の労働基本権(労働三権)の制限
地方公務員の種類団結権団体交渉権争議権
警察・消防職員×××
行政・教育職員×
地方公営企業・単労職員×
(民間の労働者)

以上のとおり、すべての地方公務員において、争議行為等(争議権)は完全に禁止されています。

一方で、行政職員や教育職員の団結権や団体交渉権は「△」となっていて、その一部が制限されていることが分かります。行政職員・教育職員の場合、民間でいう労働組合を組織すること自体はできませんが、それに準ずるような組織として「職員団体」を組織すること自体は認められているのです(地方公務員法第52条等)。

地方公務員法

(職員団体)
第五十二条 この法律において「職員団体」とは、職員がその勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体又はその連合体をいう。
2(略)
3 職員は、職員団体を結成し、若しくは結成せず、又はこれに加入し、若しくは加入しないことができる。(後略)

地方公務員法 | e-Gov 法令検索

したがって、職員団体を通じて勤務条件の改善等を人事当局に対して求めることは不可能ではありません。その意味で、労働基本権のうち「団体交渉権」が完全に制限されているわけではないということになります。

一方で、労働者(職員)自身が争議行為を起こして勤務条件の改善を求めることは、「争議行為等の禁止」により一律に禁止されているわけです。

争議行為等の禁止を破った場合のペナルティ

それでは、職員が争議行為を行ってしまった場合に、どのようなペナルティを受け得るのかということについてお話しします。この場合、職員が受け得るペナルティは、次のとおり3種類のものが考えられます。

  • 行政的責任
  • 民事的責任
  • 刑事的責任

この3種類について、順番に解説していきます。なお、争議行為を行った場合にこの3種類のいずれか1つを負うといった趣旨ではありません。3種類のうちのいずれか、あるいはその全てを負う可能性があるということです。

職員が負う行政的責任

職員が行った行為について争議行為に該当すると判断された場合に、職員が負う行政的責任は、地方公務員法第29条に定める懲戒処分のことを指しています。

懲戒処分は免職・停職・減給・戒告の4種類で、このうちのいずれかが科されるということになります。4つの懲戒処分のうちいずれを科すかは当該自治体の任命権者が個別に事情を鑑みて判断することになります。その基準について、各自治体は公表していない場合が多いですが、横浜市のように公表しているところもあります。

横浜市懲戒処分の標準例

2 標準例

キ 違法な職員団体活動


(ア) 地方公務員法第37条第1項前段の規定に違反して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は本市の活動能率を低下させる怠業的行為をした職員は、減給又は戒告とする。

(イ) 地方公務員法第37条第1項後段の規定に違反して同項前段に規定する違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおった職員は、免職又は停職とする。

横浜市懲戒処分の標準例 横浜市

横浜市の場合は、以上のとおり定めています。このうち、「地方公務員法第37条第1項前段の規定」とは、この記事において上述した、争議行為を直接実行する行為のことを指しています。同市の場合、争議行為を直接実行した場合、減給又は戒告の超過処分を科すことが標準となっているということです。

一方、「地方公務員法第37条第1項後段の規定」とは、この記事で上述した争議行為の助長行為のことです。この場合、免職又は停職の懲戒処分を科すことが標準とされています。

いかがでしょうか。横浜市の場合は、争議行為を直接実行した場合よりも、その助長行為の方が重い処分が科されることが標準とされていることが分かります。そしてこれは、横浜市が珍しいわけではありません。後述しますが、地方公務員法の趣旨としても、争議行為を直接実行する行為よりも争議行為の助長行為の方が重い非違行為と捉えており、横浜市もこれに準えていると考えられます。

懲戒処分については、このサイトでも取り扱っていますので、よろしければ次の記事をご覧ください。

職員が負う民事的責任

さらに、職員が争議行為を行った場合、民事上の不法行為による損害賠償責任を負う可能性があります。

民法

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法 | e-Gov 法令検索

この民法上の責任については、民間の労働者であれば、労組法により免責規定が置かれていますが、地方公務員法第58条により、この免責規定は地方公務員に対して適用されないこととなっています。したがって、争議行為等を行った職員は、民法第709条における損害賠償責任を負いうるということになります。

職員が負う刑事的責任

最後に、争議行為を行った職員は、刑事的責任、すなわち刑罰を負う可能性もあります。このことは、地方公務員法第62条の2において、以下のように定められています。

第六十二条の二 何人たるを問わず、第三十七条第一項前段に規定する違法な行為の遂行を共謀し、唆し、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者は、三年以下の禁錮又は百万円以下の罰金に処する。

地方公務員法 | e-Gov 法令検索

さて、争議行為を行った職員に対する刑事的責任の追及については、とても重要なポイントがあります。この条文にもあるように、刑罰が科されるのは、争議行為を直接実行する行為を行った者ではなく、共謀する、唆す、あおる、企てるなどの争議行為の助長行為を行った者なのです。

意外に思われるかもしれませんが、これがポイントです。

  • 争議行為を行った職員に対する刑事的責任は、(争議行為を直接実行する行為を行った者には科されないが、)争議行為の助長行為を行った者に対して科される場合がある。

実行犯ではなく、それを助長した者に対してのみ刑罰が科されるというのは、意外に思われるかもしれませんが、これには次のような理由があります。争議行為の助長行為にペナルティを設けることで、公共の福祉に反する争議行為等を未然に防止することを図っているのです。また、争議行為の助長行為は、主として争議行為の指導者が関与する核心的な行為を重視した結果、このような法制になっていると解されることがあります。

まとめ

最後に、少し長くなってしまいましたので、この記事の内容を端的に整理すると次のようになります。

  • 争議行為の禁止は、職員ストライキ等の争議行為や、その助長行為を禁ずるもの
  • 争議行為の具体例は、一斉休暇闘争、残業拒否闘争、ピケッティング、ハンスト、ビラ配りなど
  • 争議行為の禁止は、警察、消防、行政、教育、地方公営企業等のすべての地方公務員に対して適用される。
  • 争議行為の禁止に反した場合、職員はその内容によって、行政的責任、民事的責任、刑事的責任のいずれか、あるいは全部を負う。

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