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地方公務員の採用後6か月の「条件付採用期間」について【身分・給与・懲戒】

この記事では、地方公務員の「条件付採用期間」について説明します。

目次

「条件付採用期間」とは

「条件付採用」とは何か

地方公務員の「条件付採用期間」とは、民間企業でいう試用期間のようなものです。端的にまとめると、次のように言うことができます。

  • 条件付採用の制度は、試験や競争により一応の能力実証を得た職員について、実際の職務遂行能力を有しているかを、実地の勤務により判断するためのもの

そして、職員は、地方公務員として採用されてからしばらくの間、「条件付採用」として、正式採用とは異なる身分の取扱いを受けることとなります。正式採用者との違いは後述しますが、普通に仕事をしていれば、その違いをイメージするような場面はあまり無いはずです。

条件付採用の期間は?

条件付採用については、地方公務員法の第22条に定められています。

地方公務員法

(条件付採用)
第二十二条 職員の採用は、全て条件付のものとし、当該職員がその職において六月の期間を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに、正式のものとなるものとする。この場合において、人事委員会等は、人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則。第二十二条の四第一項及び第二十二条の五第一項において同じ。)で定めるところにより、条件付採用の期間を一年を超えない範囲内で延長することができる。

地方公務員法 | e-Gov 法令検索

このとおり、条件付採用期間は、基本的に6か月と定められています。地方公務員法は法律ですので、それより下位の法規である条例によって例外を設けることはできません。日本全国の自治体において、一律に条件付採用期間は6か月ということになります。(この記事では詳述しませんが、会計年度任用職員の場合は1か月です。)

一方で、「条件付採用の期間を一年を超えない範囲内で延長することができる」とあるように、期間を延長することは可能です。この延長の趣旨は、当該職員の能力の実証機関が6か月では短い場合に用いられることを想定されているとと言われていますが、実際に延長されることはまずありません。

職員は、この6か月の間に免職されることなく勤務できた場合は、基本的に全員が正式採用に移行することになります。たとえば4月採用者の場合は、10月から正式採用に移行します。

条件付採用の者と正式採用の者の違い

それでは、この6か月の間、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。正式採用者との違いは多数ありますが、以下で順番に見ていきます。

条件付採用期間中は身分保障の規定が適用されない

地方公務員は、地方公務員法によってその身分が保障されていますが、この身分保障の規定は、条件付採用期間中には適用されないこととなっています。

条件付採用期間の趣旨は、同期間中に能力を実証できなければ、正式採用に至らず免職となることを背景にしています(実際にはそのような厳しい例はそうありませんが。)。条件付採用期間中の職員にも身分保障を認めてしまうと、条件付採用の制度の趣旨を没却してしまうことになるからです。

条件付採用期間中は分限処分が適用されない場合がある

地方公務員は、分限職分、すなわち免職、降任、休職、降給の処分を受ける場合があります。この分限処分について、条件付採用期間中には適用されない場合があります。

条件付採用期間中には公務員としての身分保障が無いと上述しましたが、それでも、地方公務員法第27条第1項に定める公正の原則が適用される一職員には変わりありません。身分保障が無いからといって、無秩序に免職や降任等の分限処分を行うことはできないのです。最高裁は、条件付採用期間中の職員に対する分限処分について、任命権者に裁量を認めつつも、全くの自由裁量ではないとしています(最判昭53.6.23)。

条件付採用期間中の職員に対して行われた分限処分が公正を欠く場合には、裁判所によってその処分の取消しや無効確認が行われる場合もあります。令和5年にも取消しに至った事例があります(福岡高判令5.11.30)。

分限処分について、詳細はこちらの記事をご覧ください。

条件付採用期間中は不利益処分に対する審査請求を行うことができない

もう一つ、条件付採用期間中に適用が除外されているものがあります。正式採用の職員は、地方公務員法第49条及び第49条の2の規定により、不利益処分に対する審査請求等を行うことができます。

一方で、条件付採用期間中には、この不利益処分に対する審査請求を行うことができないとされています。

実務上は、そもそも職員が不利益処分に対する審査請求を行うなんてことは極めて稀です。不利益処分として考えられるものは第一に思い浮かぶのは懲戒処分ですが、職員が懲戒処分の対象になること自体が、全体で見れば珍しいことだからです。

正式採用者と変わらないもの

続いて、条件付採用期間中であっても正式採用者と変わらない取扱いを受けるものも多くありますので、紹介していきます。

条件付採用期間中も給与は同等

まずは、給与です。職員の給与は、地方公務員のほか、「〇〇市職員の給与に関する条例」といったような名称の条例等によって定められていますが、条件付採用期間中だからといって、給与の面で正式採用者との間で差異があるわけではありません。

なお、4月に採用された新規採用職員であれば、6月に支給される期末勤勉手当の金額は正式採用者と比較するとかなり少なくなりますが、これは単に期末勤勉手当の支給の算定となる期間(およそ12月から5月)の勤務実績が少ないからです。条件付採用期間中であるかどうかは関係ありません。

条件付採用期間中も懲戒処分の対象になる

条件付採用期間中は、分限処分について制限がある場合があるとお伝えしました。一方、懲戒処分についてはこのような定めはなく、正式採用者と同様の基準で、条件付採用期間中の者もその対象になる可能性があります。

まとめると、次のように違いがあるということになります。

  • 分限処分:条件付採用期間中は適用されない場合がある。
  • 懲戒処分:条件付採用期間中でも、正式採用と同様に適用される。

条件付採用期間中も不利益処分に対する取消訴訟を提起できる

条件付採用期間中は不利益処分に対する審査請求を行うことはできないと上述しました。

ただし、不利益処分に対する取消訴訟等を提起することはできますので、救済の途が完全に閉ざされているわけではありません。上述のとおり、現に、条件付採用期間中に免職された職員が免職処分の取消しを求めて訴訟を提起した事例も存在しています。

整理すると次のようになります。

  • 審査請求:条件付採用期間中は行うことができない。
  • 取消訴訟:条件付採用期間中でも、正式採用と同様に訴訟を提起できる。

勤務条件に関する措置要求

地方公務員は、「勤務条件に関する措置要求」を行うことができると地方公務員法において定められています。この措置要求についてこの記事では詳述しませんが、条件付採用期間中であっても、正式採用者と差異なく行うことができるとされています。

条件付採用期間中に免職された例

地方公務員が懲戒免職となった例は無数にありますし、報道でもよく見かけます。一方で、条件付採用期間中に免職された例はきわめて珍しいです。

上述のとおり、近年では条件付採用期間中の職員に対して免職処分が行われた事例がありますが、最終的には免職処分が取り消され、有名な判例となっています。採用後、正式採用に至らないという事例は極めて僅少かと思われます。

私は公務員時代に人事の仕事に携わっていた期間は長めでしたが、懲戒処分の例は多数見かけたものの、条件付採用期間中に免職されて正式採用に至ることができなかった方を見かけたことはありません。

補論

最後に、二つほど条件付採用に関する論点を紹介します。

合併により新しく職員になった場合

地方自治体は、合併をする可能性があります。都市部の自治体なら縁が薄いかもしれませんが、地方では長期的には今後も合併が進むトレンドの中にあると捉えられます。

さて、合併により新しい自治体が発足した場合に、旧自治体に所属していた職員が、新しい自治体の職員として任命された際に、条件付採用の制度は適用されるのかといった論点があります。これについては最高裁判例が出ています。最高裁は、このような合併の場合に、条件付採用制度の適用はないという立場をとっています(最判昭35.7.21)。

すなわち、合併したとしても引き続き新しい自治体において正式採用を継続できるということです。

正式採用に移行する場合の手続

もう一つ紹介したい点があります。それは、次の点です。

  • 条件付採用から正式採用に移行する際、別段の通知は発令行為は必要ない。

繰り返しになりますが、条件付採用期間から正式採用に移行しないというケースはきわめて稀です。私は聞いたことがありません。条件付採用期間から正式採用に移行する際には、任命権者や上司等から、何らかの文書が発出されるわけではないところが多いです。

かつを

ここの運用は自治体によって異なります。私が新卒で入庁した特別区でも、4月に採用された後、10月に入っても何も音沙汰はなく、気づけば皆が当然に正式採用に移行しているという形でした(文書でのお知らせはありませんでしたが、同僚はお祝いしてくれました。)。東京都の一部等、自治体によっては文書を発出しているところもあるそうです。

このような運用となっていることの理由は分かりませんが、おそらくは、条件付採用期間中の者は、6か月を経て当然に正式採用に移行することが前提とされているからではないかと考えています。

まとめ

繰り返しになりますが、基本的にはすべての職員が正式採用に移行します。ちょっと仕事を覚えるのが遅いとか、ミスが多いとかは新人なら誰でもあることなので、心配しなくともまったく大丈夫です。

正式採用に移行しない場合として考えられるのは、6か月の間に懲戒免職に至る場合くらいです。そして、上述のとおり、懲戒処分の取扱いについて、条件付採用期間中だからといって特段の差異はありません。とにかく、懲戒免職になるような事態を避けて普通に仕事をしていれば、正式採用に移行することができると認識してよさそうです。可能性は低いですが、具体的には、車の運転にだけは少し気を付けてくださいね。

懲戒処分については、以下の記事にまとめていますので、よろしければご覧ください。

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