地方公務員は、地方公務員法により秘密を守る義務、いわゆる守秘義務を課されています。この記事では、これについて解説していきます。
具体例等も紹介しますが、やや法学チックな記事になります。よろしければご覧ください。
秘密を守る義務の根拠規定
秘密を守る義務は、次のとおり地方公務員法第34条に定められています。
地方公務員法
(秘密を守る義務)
地方公務員法 | e-Gov 法令検索
第三十四条 職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。
2 法令による証人、鑑定人等となり、職務上の秘密に属する事項を発表する場合においては、任命権者(退職者については、その退職した職又はこれに相当する職に係る任命権者)の許可を受けなければならない。
3 前項の許可は、法律に特別の定がある場合を除く外、拒むことができない。
注目していただきたいのは、第1項と第2項の条文です。第1項では、「職務上知り得た秘密」を漏らしてはいけないとしている一方、第2項では「職務上の秘密」を公表するには任命権者の許可を受けなければならないとされており、対象となる「秘密」について微妙にニュアンスが異なっています。
「職務上知り得た秘密」と「職務上の秘密」
まずはこの二つの違いについて解説します。
地公法第34条第1項の「職務上知り得た秘密」について
一般的に、公務員の守秘義務といってイメージされるものはこの「職務上知り得た秘密」のことを指しています。実際に職員に非違行為があって報道されているような事例の多くは、職員が「職務上知り得た秘密」を漏らしたことによるものです。「職務上知り得た秘密」とは、以下のことを指しています。
- 「職務上知り得た秘密」とは、職員が職務に関連して知り得た秘密であり、自らの担当する職務に関連するもののほか、担当外の事項も含まれる。
この、「担当外の事項も含まれる」というところがポイントです。自らが担当していない事項であっても、それを漏らした場合には秘密を守る義務に反してしまいます。
地公法第34条第2項の「職務上の秘密」について
一方、第2項における「職務上の秘密」とは、端的に言うと、第1項の「職務上知り得た秘密」よりも範囲が狭くなります。言葉で表すと以下のようになります。
- 「職務上の秘密」は、職員が自ら担当する職務に関連して知り得た秘密のことである。
あくまで自らが担当する職務に関連した秘密が、「職務上の秘密」ということになります。この地公法第34条第2項の規定は、一般の住民からすると縁の遠いものです。ニュース等でも見かけることはほとんど無いと思います。たとえば、裁判所がある事件のために自治体の職員に対して「職務上の秘密」の発表を求めた場合に、任命権者の許可を受ければそれを発表してよいといった趣旨の規定となっています。この記事ではそれ以上深くは取り扱いません。
何が「秘密」にあたるのか
判例
以上のように、地方公務員法上の「秘密」には「職務上知り得た秘密」と「職務上の秘密」があり、一般的に公務員が漏らしてはいけないのが「職務上知り得た秘密」であるということになります。それでは、そもそも何が「秘密」にあたるのかという点についてお話しします。
この点については、行政実例や最高裁の判例があります。まず、行政実例は、次のような立場をとっています(行実昭30.2.18)。
- 「秘密」とは、一般的に了知されていない事実であって、それを了知せしめることが一定の利益の侵害になると客観的に考えられるものである。
また、最高裁判所も、次のとおり、これを同様の見解を示しています(最裁昭52.12.21)。
- 「秘密」は、公的なものであるか、私的なものであるかにかかわらず、客観的にみて秘密に該当するもの、すなわち「実質的秘密」でなければならない(実質秘説)。
行政実例、最高裁判例のいずれも「客観的」という語がキーワードになっています。とにかく、ある事実が漏らしてはいけない「秘密」に該当するかどうかは、客観的に判断されるべきだという考え方です。
具体的事例
ここまでは理論的、抽象的な話でイメージをつかみにくいので、具体例をいくつか紹介します。秘密を守る義務について問題となった事例は、近年では以下のようなものがあります。
- 職員が、当該自治体の職員約2,700人分の個人情報を地元紙を発行するメディアにメールで送信した例
- 租税業務に携わっていた職員が、業務で知り得た住民2名の個人情報を探偵業者に提供した事例
- 警察官が、公表されていない捜査情報をメディアに提供した例
違反した場合はどうなるか
続いて、秘密を守る義務に違反した場合に、どのような取扱いが為されるかを解説します。
在職中の職員の場合
在職中の職員が「秘密上知り得た秘密」を漏らした場合、まずは、懲戒処分(免職、停職、減給、戒告)の対象となる場合があります。現に、以上の具体的事例の中には、秘密を漏らした職員が停職処分等を受けているものがあります。
懲戒処分には免職、停職、減給、戒告の4種類がありますが、そのいずれに該当するかについては、任命権者が個別に判断します。たとえば横浜市は珍しくその標準例を公表しており、次のようになっています。
横浜市懲戒処分の標準例
職務上知ることのできた秘密を漏らした職員は、減給又は戒告とする。この場合において公務の運営に重大な支障を生じさせた職員は、免職又は停職とする。
横浜市懲戒処分の標準例 横浜市
地方公務員の懲戒処分については、このサイトでも解説のための記事を執筆していますので、よろしければ以下をご覧ください。
また、懲戒処分とは別に、地方公務員法上の罰則を受ける可能性もあります。以下のとおり、秘密を守る義務に違反した場合は、刑罰として、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科せられる場合があります。
地方公務員法
(罰則)
地方公務員法 | e-Gov 法令検索
第六十条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(中略)
二 第三十四条第一項又は第二項の規定(第九条の二第十二項において準用する場合を含む。)に違反して秘密を漏らした者
以上のとおり、秘密を守る義務に違反した場合には、懲戒処分と刑罰のいずれか、あるいはその両方を受ける可能性があります。
退職済みの職員の場合
また、地公法第34条第1項に定められているとおり、秘密を守る義務は、「その職を退いた後も」課されています。
それでは、退職済みの職員が秘密を漏らした場合にどうなるかですが、上述した懲戒処分については、現に職員である者を対象とした場合にしか行うことができません。ただし、地方公務員法第60条に定める刑罰を受ける可能性はあり得ます。
補論
最後に、秘密を守る義務に関する個別的な論点を二つほど紹介して、この記事を終えたいと思います。
秘密を「漏らす」の範囲について
秘密を守る義務について論点となり得るのは、具体的にどのような行為が問題になるかといった点です。
地方公務員法第34条第1項には「職務上知り得た秘密を漏らしてはならない」とありますが、この秘密を「漏らす」という行為の範囲は、案外と広く捉えられています。たとえば、以下のようなことが秘密を「漏らす」ことに該当し得ます。
- 秘密にあたる事項を文書で表示すること
- 秘密にあたる事項を不特定多数や特定の相手に対して口頭で伝達こと
- 第三者に対して、秘密にあたる事項を漏洩させるよう唆すこと
- 第三者が不当に秘密文書を閲覧していることをあえて見過ごすこと
特に、最後のように、第三者の非違行為を見過ごした場合等でも、秘密にあたる事項を広く一般に知らしめるおそれがあるとして義務違反にあたる場合があるのです。
秘密を守る義務(守秘義務)が課されるのは公務員だけではない
最後に、これは余談ですが、秘密を守る義務が課されているのは、公務員だけではありません。国家公務員と地方公務員に秘密を守る義務が課されているイメージは定着していますが、実はそれだけではないのです。
弁護士(弁護士法第23条)、公認会計士(公認会計士法第27条)、行政書士(行政書士法第12条)、国立大学職員(国立大学法人法第18条)のように、様々な職業に対して秘密を守る義務が課されています。刑罰についても同様で、懲役の期間や罰金の金額に違いはあれど、地方公務員法と同様の罰則規定が置かれていることがほとんどです。