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地方公務員の「懲戒処分」について解説します【免職、停職、減給、戒告】

以前、このサイトでは地方公務員の「分限処分」について解説する記事を執筆しました。

この記事では、地方公務員の「懲戒処分」について、地方公務員として人事に携わっていた筆者が、地方公務員法の規定や、実務上の運用等を踏まえて解説していきます。

地方公務員法は条文のボリュームも小さい法律ですが、その中でも懲戒処分については比較的活発に議論されている分野ですので、判例も交えて紹介していきます。

目次

懲戒処分とは

懲戒処分とは何か

地方公務員は、基本的に地方公務員法によってその身分が保障されていますが、特定の事由に抵触する場合には、職員にとって不利益な処分を行うことができるとされています。これが懲戒処分です。

懲戒処分の性格については、最高裁の判例があります。この判例によると、懲戒処分とは、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁であるとされています(最判昭52.12.20)。

分限処分との違い

近い性質のものに地方公務員法上の「分限処分」(免職、降任、休職、停職)がありますが、「懲戒処分」は「懲罰」といった意味合いを含むのに対して、「分限処分」は純粋に公務を円滑に運営することのみを目的としており、この点に違いがあります。

懲戒処分の四種類について

次のように、懲戒処分には「免職」「停職」「減給」「戒告」の四種類があります。

  • 免職:職員の職を失わせる処分
  • 停職:一定期間、職員を職務に従事させない処分
  • 減給:一定期間、職員の給与の一定割合を減額する処分
  • 戒告:職員の規律違反の責任を確認し、その将来を戒める処分

以上です。四つの種類について、それぞれの懲罰の意味合いの軽重については法令上は明記されていませんが、実務上は「免職」「停職」「減給」「戒告」の順に重い処分だと解されています。

「停職」と「減給」は、人によっては「減給」の方が不利益の度合いが大きいように感じる方もいるかもしれません。しかし、停職期間中の給与は当然に支払われないことになるので、実際には「減給」よりも重い処分だと捉えることができます。

また、最も軽い「戒告」については、一見すると書面や口頭により戒められるだけで、実際には不利益なことが生じないようにも見えますが、種類を問わずいずれかの懲戒処分を受けることによって期末勤勉手当の金額や昇任試験へ影響を及ぼすとしている自治体が多いです。

懲戒処分に該当する場合

3つの事由

懲戒処分は、次の3つの事由にいずれかに該当する場合に、必要に応じて行うこととされています。

  • 地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
  • 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
  • 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

このことは、地方公務員法第29条に規定が置かれています。

地方公務員法

(懲戒)
第二十九条

職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。


一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれらに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合

二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

地方公務員法 | e-Gov 法令検索

なお、第2号のいう「職務上の義務」とは、地方公務員法によって職員に課されている職務専念義務、守秘義務、職務命令に従う義務等のことを指しています。

ただし、懲戒処分を科す場合には、以上の3つの事由に該当するだけでは足りません。ここは重要なポイントですが、職員に主観的な要件が無ければ、懲戒処分を科すことができないのです。すなわち、

  • 懲戒処分を科すには、職員に故意または過失があったことを必要とする

ということになります。

懲戒処分には四つの種類がありますが、どの事由にどの種類に該当するかは明らかにされていません。自治体内部ではその基準を設けている場合もありますが公表はされていないことが多いです。(珍しい例ですが、横浜市等では「懲戒処分の標準例」を公表しているところもあります。)したがって、基本的にどの種類に該当するかは、個別的に事案を勘案して任命権者が裁量によって判断する(最判昭52.12.20)ということになります。

具体例

続いて、どのような場合にそれぞれの懲戒処分に該当したかについて、簡単に具体例を紹介します。

まず、免職については、かなり程度の大きい非違行為があった場合に適用されるため、実例も少ないですが、近年は以下のような場合に科されています。

免職が科された事例
  • 職員がコンビニエンスストアで強盗未遂事件を起こした例
  • 職員が診断書を偽造して、約1年間に渡って不正に病気休暇を取得した例
  • 職員が児童扶養手当等の公金約1億7700万円を詐取した例

続いて、停職処分が科された事例です。以下のように、同じ停職処分であっても、その期間には大きな幅があることが分かります。

停職が科された事例
  • 職員が課の歓送迎会の後に酒気帯び運転を行った例(停職8か月)
  • 職員が勤務中に女子トイレを盗撮していた例(停職6か月)
  • 職員がパチンコ店で他人の現金3万円を抜き取った例(停職3か月)
  • 職員が虚偽の理由で休暇を取得し、同休暇中に旅行していた例(停職1か月)

続いて、減給処分が科された事例です。このように、減給の割合は1割程度、期間は数か月であることが多いです。

減給が科された事例
  • 職員が修繕費用など1300万円の支払いを遅延させていた例(1割減給を3か月)
  • 職員が部下に対してパワハラを繰り返した例(1割減給を2か月)
  • 職員が通勤手当を不正に受給していた例(1割減給を2か月)

最後に、戒告処分が科された事例です。

減給が科された事例
  • 職員が部下に対してパワハラを繰り返した例
  • 職員が公用車を運転中に居眠りしてガードレールに衝突する単独事故を起こした例
  • 職員が発表前の人事異動情報に不正にアクセスして情報を他の職員に拡散した例

補論

地方公務員の懲戒処分をめぐっては、さまざまな論点があります。そのうちから主なものを紹介します。

条例で新たな種類の懲戒処分を設けることは可能か

地方公務員の懲戒処分は、地方公務員法で定められている四種類が全てです。憲法において、条例は法律の範囲内で制定することができるとされているとおり、法律の範囲を超えた条例は制定することができません。したがって、条例によって新たな種類の懲戒処分を作ることは不可能です。

日本国憲法

第94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

一方で、地方公務員法第29条第4項の規定により、懲戒処分の手続効果については、条例で定めることになっています。

地方公務員法

(懲戒)
第二十九条

4 職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、条例で定めなければならない。

地方公務員法 | e-Gov 法令検索

既に退職した者に対して懲戒処分を行うことは可能か

既に退職した者に対して懲戒処分を行うことが可能かといった論点があります。これについては、既に退職した者に対しては懲戒処分を行うことができません。

一方で、一度退職した職員が再び職員として採用された場合には、当初の在職期間中に生じた事由を理由として懲戒処分をすることができる場合があるとされています。

条件付採用期間中の職員に対して懲戒処分を行うことは可能か

地方公務員には、条件付採用という制度があります。民間企業でいう試用期間と同じような制度です。実務上は、採用されてから6か月の間は、職員は条件付採用という身分に服することになります。

この条件付採用期間中の職員に対して懲戒処分を行うことは可能です。ただし、分限処分(免職、降任、休職、降給)を行うことはできず、この点において違いが見られます。

同一事由について、懲戒処分と分限処分を併科することは可能か

同一の事由について、懲戒処分と分限処分(免職、降任、休職、降給)の両方を行うことは可能かといった論点があります。この点については行政実例があります。行政実例は、同一事由について懲戒処分と分限処分を併せて行うことは可能だという立場をとっています(行実昭42.6.15)。

同一事由について、複数の懲戒処分を科すことは可能か

一方で、同一事由について、複数の懲戒処分を科すことはできないという行政実例があり(行実昭29.4.15)、懲戒処分と分限処分の併科とは異なっています。

欠格条項との関係①

地方自治法第16条に定めがあるように、地方公務員には、特定の場合にはなることができません。いわゆる欠格条項です。欠格条項は4つありますが、そのうちの一つに以下のものがあります。

  • 当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者

このとおり、自治体において免職処分により職を失った場合は、その処分から二年が経つまではその自治体において職に就くことはできません。

ひるがえって言えば、ある自治体において免職処分を受けて二年以内であっても、他の自治体において任用されることは可能です。

欠格条項との関係②

欠格条項との兼ね合いで、もう一つ論点があります。4つの欠格条項のうち、以下のものについてです。

  • 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者

このように、禁錮(拘禁刑)以上の刑に処せられた者は公務員になることができません。それでは、現に在職中の職員が事件を起こして禁錮(拘禁刑)以上の刑に処せられた場合にはどうなるでしょうか。この場合、懲戒処分を必要とせず、刑に処せられたことが確定した日をもって当然に失職することになります。

「訓告」とは

地方公務員法上の懲戒処分とは異なるが性格の近いものとして、「訓告」というものがあります。これは、懲戒処分に至るほどのものではいが、職員に対して非違行為を確認し、それを諭すために用いられる事実的な行為(法的効力を持たない行為)です。訓告は行政実例(昭34.2.19)においても懲戒処分としての制裁的性質を備えていなければ行ってよいと認められており、実務上もよく用いられています。

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