基礎自治体(市役所、特別区、町村役場)の部署について、どこが忙しいのかといったことは度々話題に上がります。忙しさを定量的に測るとすれば、残業時間や有給取得日数を用いることで比較は可能ですが、それだけをもって部課の大変さまでを比較することは出来ません。部署によっては、「労働時間は短いけれども質的には大変」といったところもあるからです。そういった意味では、部署の仕事を比較してランキング化するということは本質的には不可能です。常勤の公務員であれば、どの仕事を任せられることになってもそれなりに大変なことがあります。それでも、あえて序列化するならば、以下のようになると考えます。
今回は、地方自治体職員として3つの部署を経験し、退職後も多数の若手公務員の方から話を聞く機会が継続的にある私が、ハードな部署をランキング化します。上述のとおり、定量的な忙しさといった軸に加えて、定性的な大変さといった軸を交え、二つの軸において比較します。定性的な比較をするという性質上、あくまで主観的で、偏見の塊のような記事となりますので、ご承知おきの上、一参考に留めていただければと思います。
定量的に忙しい部署TOP5
- 財政課
- 人事課
- 教育総務課(教育委員会)
- 政策企画課
- 法務課
仕事量や拘束時間という観点で最も忙しいと考えるのは、財政課です。日常的に仕事の量が多く、忙しいです。他の課に配当する予算額を決定する立場にあるので、庁内では大きな裁量を持つことになりますが、忙しいのは首長や議会に近い距離にあるためです。悪く言えばトップや議会の方針に振り回されることになります。財政課から各課へ仕事を振ることもありますが、これらの最終意思決定機関の都合によりその締切は非常にタイトに設定せざるを得ないということが多く、窮屈なことが多いのです。仕事が終わらないから土日に出勤せざるを得ないというよりは、組織的に財政課が土日に仕事するような運営をしている自治体もあります。しいて言えば予算特別委員会の直前が繁忙期ですが、決算や予算編成の業務は通年に渡っているため、一年中忙しいイメージです。
次いで、人事課です。自治体によっては「職員課」といった名前となっていることもあります。財政課に対して、人事課では忙しさに波があります。自治体は基本的に4月1日付けで異動するため、その直前の1〜3月頃には特に業務が集中します。また、一口に人事と言ってもその担当は細分化されており、異動、採用、服務、給与、研修といったものがあります。この中で最も忙しいのは異動担当です。内示を出す日に向けて職員の配置を決めなければなりませんが、ギリギリまで各原課長から要望が入ったり、退職者が生じたり、内定辞退が生じたりするなどしてしまい、スケジュールに追われる日々となります。無理難題の板挟みの中で調整を強いられることが多く、量的・質的ともにタフな仕事です。一方、人事課内でも、研修担当に配属された場合は役所全体で見ても業務量は抑えられている方だと思います。
三番目は教育総務課です。自治体によってその名称は様々ですが、教育委員会事務局内の総務、企画、法務等を担う部署です。学校現場は世間の知るとおり疲弊しています。教員の働き方改革は未だ定着しておらず、残業時間は基本的に区市町村の行政職員の比ではないです。これらのタフな現場に合わせて仕事をすることになるので、学校現場の忙しさに釣られる形で忙しくなりがちな職場です。
四番目は自治体によって名称は様々ですが、企画課、政策課等の政策を担当する課です。市町村の基本計画を担当していることが多いです。財政課と同様に首長や議会との距離が近いため、時間拘束は大きくなりがちですが、財政課・人事課と比べると大分マイルドな印象です。ちなみに、ここまでに紹介した課はすべて自治体の中では出世頭です。激務には違いありませんが、期待の裏返しとも捉えられます。
五番目は、法務課です。法務課の所掌事務は自治体によって少し異なります。条例・規則の改正を法規課が自ら主体的に行なっているところもあれば、案文は各原課が作成し、法規課はルーティンワークを行うに留まるというところもあります。地方自治法により条例改正は議会に付すものとされており、前者の場合にはその対応に追われることとなる法務課は激務になりがちです。
ちなみに、総合的に忙しい・大変な部署としては以上の5つを選定しましたが、随時的に忙しくなり得るものとして、選挙管理委員会事務局と、防災課の二つを挙げておきます。それぞれ、選挙実施時期や大規模な震災発生時には激務となり得ます。
また、上述しませんでしたが、基礎自治体の中には児童相談所を運営しており、職員を配属しているところもあります。児童相談所の仕事は基本的には量・質ともにタフなものですが、設置されている市町村が多くはありません。
質的に大変な部署TOP5
- 生活福祉課
- 税務課
- 人事課
- 障がい者福祉課
- 生活衛生課
続いて、質的に大変な部署について列挙していきます。一番は生活保護を所掌する生活福祉課だと考えます。ひと昔前は保護課という名称が一般的でしたが、全国的に名称が見直されてきていますね。生活保護のケースワーカーは、以下の記事のとおり、個人的にはやりがいもありますし、総合的にはおすすめできる仕事だと考えています。
しかしながら、公務員界隈におけるケースワーカーに対する一般的なイメージのとおり、実際に生活福祉課の病気休職者の多さがその大変さを物語っています。その大変さゆえ、地方公務員として特殊勤務手当の対象となる最たる例でもありますね。暴言を浴びることは日常茶飯事ですし、時には危険な現場に出向かねばならないようなときもあります。以上から、質的に最も大変なのはケースワーカーといえるのではないでしょうか。
二番目は税務課です。自治体によっては「市民税課」等の名称になっていますね。税務課の中でも、租税賦課額を算出する担当よりも、住民からの納税を促す担当を想定しています。住民税の滞納者は本当に色々なバックボーンの方がいらっしゃいます。生活保護のケースワーカーと同様に、罵詈雑言を浴びることが多いですし、危険なシーンに出くわすことも多いです。
三番目は人事課です。先ほども定量的に忙しい部署として人事課を取り上げましたが、仕事の内容としても人事課はかなりハードです。質的に大変な部署としては、対外的、すなわち住民と接する部署を取り上げてきましたが、人事課、とりわけ人事配置に係る担当は対内的でありながら質的にもハードです。人間関係等を考慮した本当にシビアな調整を短期間に求められる仕事です。
四番目は障がい者福祉課です。生活福祉課や税務課と同様に、対外的部署としての大変さがあります。ただ、障がい者福祉課の場合には、生活福祉課及び税務課と異なり、現場に赴くということは少なく、勤務場所は庁内であることが比較的多いです。その点を考慮して、四番目として選定しました。
五番目は、生活衛生課です。自治体によって名称は様々ですが、衛生監視のほか、公道や住居の衛生に係る担当をイメージしています。自治体にもよると思いますが、特に都市部の自治体では「電話を取ればすべてクレーム」というくらい住民からの苦情が多い部署です。あまりその仕事はイメージしづらいかもしれませんが、たとえば、実際に配属されていた知人に聞いたところ、「動物の死骸が公道に落ちているから処理しにきてほしい」といった電話を受けるようなことが多々あったそうです。
定量的にホワイトな部署TOP5
- 図書館、出張所等の出先機関
- 戸籍住民課
- 監査委員会事務局
- 介護保険課
- 生活福祉課・障がい者福祉課
続いて、定量的にホワイト寄りな部署を見ていきます。まず第一に、図書館、出張所等の出先機関があると考えます。基本的に、住民の窓口対応が業務の大半を占めるため、言い換えれば、窓口対応が終われば仕事も終わるということになります。定時を迎えると、イレギュラーがない限り退庁できるイメージがあります。ただ、出先機関でも(置いてある自治体の場合は)児童相談所は結構大変な印象です。
続いて、戸籍住民課です。自治体によっては「市民課」、「窓口課」といった名称で置かれていることもありますね。戸籍や住民票の管理・発行等を担う部署です。出先機関と同様に、住民対応ありきの仕事なので、定時で上がれることが多いです。また、同じ仕事を担当している職員が多く配属されているため、年次有給休暇も取得しやすいです。
三番目は、監査委員事務局です。地方自治法に定められた機関である「監査委員」の下、自治体の内部監査を行います。仕事の相手方が内部になるという点において、前述の二つとは少し毛色が異なります。監査といっても結局は身内に対して行うものであり、量的・質的にもホワイトな印象があります。ただし、その分自治体の人事リソースを多量に割くようなものでもありませんので、ポストは少なく、配属される可能性は小さいとあります。
四番目は、介護保険課です。戸籍住民課等と同じように、住民対応ありきの仕事が多いです。特に介護保険の認定の担当はルーティンワークや窓口業務が中心となるため、量的にはホワイトな場合が多いです。ただし、区域内の特別養護老人ホーム等との連携や、介護保険事業計画の策定等に携わる場合はその限りではないこともあります。
五番目は、生活福祉課・障がい者福祉課等の福祉系部署です。質的には大変な仕事ですが、その一方で、絶対的な仕事量自体は抑えられているので、閉庁後は最低限の残務処理さえこなせば退庁できるといった印象があります。ただし福祉関係の部署の中でも保育関係は激務な場合が多いです。
質的にホワイトな部署TOP5
- 監査委員会事務局
- 会計課
- 管理課
- 選挙管理委員会事務局(平時)
- 広報課
続いて、質的にホワイトな部署についてです。第一には、監査委員事務局ではないでしょうか。量的にホワイトな部署としても取り上げましたが、やはり身内を監査するという立場上、タフなシーンに出くわすことは少ないようです。また、監査という仕事の性格として「どこまで成果を出すか」「どこまで厳しく見るか」といったものがあります。必ず必要な仕事ではありますが、翻って言えば、手を抜こうと思えば抜けてしまうといった声も聞いたことがあります。ちなみに、自治体に対する監査は、内部監査のほかにも、広域自治体による個別的な業務の監査や、会計検査院による検査があります。
二番目には、会計課です。選定した理由は監査委員事務局と似ています。会計課は、地方自治法に定められた会計管理者のもと、自治体の支出や歳入を最終的にチェックする役割を担っています。どこまで厳しく審査するかといった点で、大きな裁量が与えられています。他部署からの指示を受けることは少ないので、仕事の量・質を自ら決定しやすい立場にあります。
三番目には、管理課です。単に管理課といってもイメージしづらいですが、たとえば自治体の庁舎の管理等の総務的な仕事を担う部署を想定しています。やはり相手方が自治体内部であることと、外部と取引することがあったとしてもルーティンワークが多いので、質的に辛いと感じることは少なめである印象があります。
四番目には、選挙管理委員会事務局です。主な仕事は選挙に係る事務ということになりますが、逆に言えば、選挙がない期間、平時には仕事量は抑えられています。あくまで選挙がない期間に限った話です。選挙期間中は激務ですし、何よりいつ選挙が実施されることになるかは完全には読み切れない部分があります。地方統一選挙とかなら話は別ですが、国政選挙とかは突発的に解散して選挙時期が到来したりすることもあります。
五番目は、広報課です。広報課のうち、特に市区町村が発刊する広報誌や、SNS等での広報事務を扱う部署を想定しています。仕事に裁量がありますし、配属されていたことのある知人に話を聞くと、自治体で経験した仕事の中で最も楽しかったと言っていました。やりがいがある仕事といえるでしょう。一方で、広報課の中でも、「広聴」を担当する場合は質的にはタフな場面が多くなりがちです。
結局は運次第
以上です。冗長に私見を述べさせていただきましたが、鵜吞みにはせず、参考に留めておいていただければ幸いです。私は自治体職員や国家公務員として多数の職場を経験しましたが、仕事の量的な忙しさ、質的な大変さ、やりがいなどは、結局のところ、誰と一緒に仕事をするかといったことに左右されると感じます。また、自治体の規模、政令市・中核市・一般市・特別区の別等によっても異なる部分もありますので、一概に仕事の大変さ等を評価することは困難です。冒頭でも述べたように、公務員の仕事はどれをとっても大変なことは避けられないことがありますが、公務員の仕事にしかないやりがいもあると感じています。